「ふおお……」
アタシはガラスケースに陳列されているプラモデルを見て驚嘆の声を上げていた。
「これ……アンタが作ったの?」
「もちろん全部じゃないけどな」
これは本当にプラスチックなのか?
昔、弟が小学生の頃作ってたプラモは、もっとつるっとしていて、おもちゃっぽい雰囲気だった。けど、アタシの目の前に並んでいるロボットや戦艦やバイクはまるで本物をスモールライトで小さくしたような、そんなリアリティがある。
「俺はスケールモデルはあまり作らないし、ヴェリプラは常連さんの作品も多いから」
「べりぷら……?」
ああ、ヴェリタスのプラモデルってことか。危ない。「べりぷらってなんのこと?」なんて尋ねでもしたら、またバカにされただろう。
前回訪れた時には気が付かなかったけど、店内の奥には大きなガラスケースが置かれ、さらにその裏は机がいくつもある作業スペースになっていた。
どうやらここで、買ったプラモを作ることができるらしい。
「俺が作ったのはそ、3段目の店にあるフォルクスII」
「は? どれのことよ」
「んだよ、フォルクスも知らないのかよ」
もうワザと言ってるだろ。アタシがロボットの名前一個もわからない事くらい、とっくにわかってるはずだ。
「右から2番目の白いヤツだ」
「うわ、細かいところスゴ……」
腕の付け根から小さい機会がぎっしり覗いている。
左腕についている盾? っぽい細長い五角形の板も裏側に小さなパーツや骨組みが緻密に組み合わせられ、重厚な雰囲気になっていた。
「それは嵯峨野くんがコンテストで準優勝とったやつだね」
背後から声。振り返ると知らないおじさんが立っていた。ボサ髪が「店長おつかれです」と挨拶したので、何者かはすぐにわかった。
「コンテスト?」
「うん。嵯峨野くん、プロモデラー志望で、自分の作品コンテストに出品したりしてんの」
「準優勝って、アンタすごいじゃん?」
「どーも」
ボサ髪はちっとも嬉しくなさそうに応じる。ていうかコイツ、嵯峨野っていうんだ。じゃあボサガノだ。アタシは心の中で勝手にあだ名を付けた。
「ちなみのコレの背中、何使ってるかわかる?」
店長はボサガノが作った白いロボットの背中を指さす。流線形の細長い物体が2本、後方に向かって突き出ている。
「何使って……? どういう事ですか?」
「これさ、実はプラモのパーツじゃないの。嵯峨野くんのお遊びで、ありふれた日用品を流用してさ」
日用品? こんな日用品あるか?
大砲かタンクかわからないけど、このロボットのパーツとしては違和感ない。でもこんなSFな形状の日用品なんて存在する?
「あ、いや、まてよ」
何かが頭をよぎった気がする。このカタチ、たしかに見覚えある……。
「正解はボールペン。ウェスタリーズってブランドあるじゃん!」
「えっ!」
それもアニメに出てくるロボットの名前みたいだけど違う。コンビニで売ってる一本150円くらいのボールペンだ。アタシが使っているペンケースにも入っている。
「……言われてみれば確かに」
金属色で塗られて、細いパイプみたいな部品が沢山つけられているけど、確かにシルエットは似てる。黒と透明の2色のプラスチックで構成されたあのペンの姿が重なる。
「嵯峨野くん、こういうの得意でさ。模型店以外のところから素材探してくるんだよね」
店長は、その隣の緑色のロボットの解説も始めた。これもボサガノの作品で、すらすたーのずる? ……とやらにチューブわさびのキャップを使っているのだとか。
「てことは、さっき100均で買ってたのも?」
「ああ、ネイルパーツで試したいことがあったからな」
ボサガノは作業机の上においていた100均の袋をひっくり返し、バサバサと中身をぶちまけた。
「おおう、今回も買ったなぁ」
店長は呆れ50%楽しさ50%と言った感じの声を上げた。
100円グッズが山になる。文具類、空のボトルやケース。それに、例のネイルグッズたち。
「ほら、アンタが欲しがってたのこれだろ」
その中からネイルストーンをひとつ、ボサガノはアタシに向かって放りなげた。
「うわっと、いきなり投げんな!」
悪態をつきつつ、アタシは受け止める。
「使えるかも……と思って買ったけど、当面は使い道ないからやるよ」
「あ、そう。ありがと」
「代金は払えよ」
「わかってるよ! そんくらい」
アタシは財布を取り出すためにバッグを手に取る。
「ふーん……」
アタシらのやりとりを見ながら、店長が唸る。
「何スか、店長?」
「いや、嵯峨野くんにこんな仲の良い女の子の友達がいるんだなーって」
「はぁ?」
何を言い出すんだこのおっさん? アタシはあんぐりと口を開ける。
「友達ではないっすよ、店長」
ボサガノは表情ひとつ変えずに答える。
「駅ビルでウザ絡みしてきた、ただの転売ヤーです」
「ちょいちょいちょい!」
アタシはすかさず、ボサ髪の言葉を止める。
「ウザ絡みはないだろ……ってか何度も言ってるけど転売ヤーじゃねーし!」
よりによって店長の前で転売ヤー扱いとは。
ここはしっかり否定しておかないと。ショータの誕プレゲットする前に出禁にでもなったら笑えない。
「ならさ、ウチの客になってくれんの?」
ボサガノのボサ髪の奥で、瞳が光ったように見えた。
「なるって! この前だってそう言ったでしょ?」
「買うだけじゃなくて、ちゃんと作るのか?」
「……え」
ボサ髪は店長の方を向く。
「店長、棚入れ替えでセールに出すことになった在庫ありましたよね。それひとつ、コイツに売ってもいいですか?」
「え? ……もちろんいいけど?」
店長もボサ髪の考えを掴みかねてるらしく、きょとんとしていた。
「そこまで言うならさ、アンタ自身できっとひとつ組み上げてみろ。出来たらちゃんとお客として扱うから」
アタシはガラスケースに陳列されているプラモデルを見て驚嘆の声を上げていた。
「これ……アンタが作ったの?」
「もちろん全部じゃないけどな」
これは本当にプラスチックなのか?
昔、弟が小学生の頃作ってたプラモは、もっとつるっとしていて、おもちゃっぽい雰囲気だった。けど、アタシの目の前に並んでいるロボットや戦艦やバイクはまるで本物をスモールライトで小さくしたような、そんなリアリティがある。
「俺はスケールモデルはあまり作らないし、ヴェリプラは常連さんの作品も多いから」
「べりぷら……?」
ああ、ヴェリタスのプラモデルってことか。危ない。「べりぷらってなんのこと?」なんて尋ねでもしたら、またバカにされただろう。
前回訪れた時には気が付かなかったけど、店内の奥には大きなガラスケースが置かれ、さらにその裏は机がいくつもある作業スペースになっていた。
どうやらここで、買ったプラモを作ることができるらしい。
「俺が作ったのはそ、3段目の店にあるフォルクスII」
「は? どれのことよ」
「んだよ、フォルクスも知らないのかよ」
もうワザと言ってるだろ。アタシがロボットの名前一個もわからない事くらい、とっくにわかってるはずだ。
「右から2番目の白いヤツだ」
「うわ、細かいところスゴ……」
腕の付け根から小さい機会がぎっしり覗いている。
左腕についている盾? っぽい細長い五角形の板も裏側に小さなパーツや骨組みが緻密に組み合わせられ、重厚な雰囲気になっていた。
「それは嵯峨野くんがコンテストで準優勝とったやつだね」
背後から声。振り返ると知らないおじさんが立っていた。ボサ髪が「店長おつかれです」と挨拶したので、何者かはすぐにわかった。
「コンテスト?」
「うん。嵯峨野くん、プロモデラー志望で、自分の作品コンテストに出品したりしてんの」
「準優勝って、アンタすごいじゃん?」
「どーも」
ボサ髪はちっとも嬉しくなさそうに応じる。ていうかコイツ、嵯峨野っていうんだ。じゃあボサガノだ。アタシは心の中で勝手にあだ名を付けた。
「ちなみのコレの背中、何使ってるかわかる?」
店長はボサガノが作った白いロボットの背中を指さす。流線形の細長い物体が2本、後方に向かって突き出ている。
「何使って……? どういう事ですか?」
「これさ、実はプラモのパーツじゃないの。嵯峨野くんのお遊びで、ありふれた日用品を流用してさ」
日用品? こんな日用品あるか?
大砲かタンクかわからないけど、このロボットのパーツとしては違和感ない。でもこんなSFな形状の日用品なんて存在する?
「あ、いや、まてよ」
何かが頭をよぎった気がする。このカタチ、たしかに見覚えある……。
「正解はボールペン。ウェスタリーズってブランドあるじゃん!」
「えっ!」
それもアニメに出てくるロボットの名前みたいだけど違う。コンビニで売ってる一本150円くらいのボールペンだ。アタシが使っているペンケースにも入っている。
「……言われてみれば確かに」
金属色で塗られて、細いパイプみたいな部品が沢山つけられているけど、確かにシルエットは似てる。黒と透明の2色のプラスチックで構成されたあのペンの姿が重なる。
「嵯峨野くん、こういうの得意でさ。模型店以外のところから素材探してくるんだよね」
店長は、その隣の緑色のロボットの解説も始めた。これもボサガノの作品で、すらすたーのずる? ……とやらにチューブわさびのキャップを使っているのだとか。
「てことは、さっき100均で買ってたのも?」
「ああ、ネイルパーツで試したいことがあったからな」
ボサガノは作業机の上においていた100均の袋をひっくり返し、バサバサと中身をぶちまけた。
「おおう、今回も買ったなぁ」
店長は呆れ50%楽しさ50%と言った感じの声を上げた。
100円グッズが山になる。文具類、空のボトルやケース。それに、例のネイルグッズたち。
「ほら、アンタが欲しがってたのこれだろ」
その中からネイルストーンをひとつ、ボサガノはアタシに向かって放りなげた。
「うわっと、いきなり投げんな!」
悪態をつきつつ、アタシは受け止める。
「使えるかも……と思って買ったけど、当面は使い道ないからやるよ」
「あ、そう。ありがと」
「代金は払えよ」
「わかってるよ! そんくらい」
アタシは財布を取り出すためにバッグを手に取る。
「ふーん……」
アタシらのやりとりを見ながら、店長が唸る。
「何スか、店長?」
「いや、嵯峨野くんにこんな仲の良い女の子の友達がいるんだなーって」
「はぁ?」
何を言い出すんだこのおっさん? アタシはあんぐりと口を開ける。
「友達ではないっすよ、店長」
ボサガノは表情ひとつ変えずに答える。
「駅ビルでウザ絡みしてきた、ただの転売ヤーです」
「ちょいちょいちょい!」
アタシはすかさず、ボサ髪の言葉を止める。
「ウザ絡みはないだろ……ってか何度も言ってるけど転売ヤーじゃねーし!」
よりによって店長の前で転売ヤー扱いとは。
ここはしっかり否定しておかないと。ショータの誕プレゲットする前に出禁にでもなったら笑えない。
「ならさ、ウチの客になってくれんの?」
ボサガノのボサ髪の奥で、瞳が光ったように見えた。
「なるって! この前だってそう言ったでしょ?」
「買うだけじゃなくて、ちゃんと作るのか?」
「……え」
ボサ髪は店長の方を向く。
「店長、棚入れ替えでセールに出すことになった在庫ありましたよね。それひとつ、コイツに売ってもいいですか?」
「え? ……もちろんいいけど?」
店長もボサ髪の考えを掴みかねてるらしく、きょとんとしていた。
「そこまで言うならさ、アンタ自身できっとひとつ組み上げてみろ。出来たらちゃんとお客として扱うから」