「とりあえず外出よう。ここで買ったもの広げるわけにもいかないしな?」
ボサ髪はエスカレーターに乗った。少し不服だ。駅ビルの外に出た瞬間に、もしこの大男にダッシュでもされたら、アタシの体力で追いつけるかわからない。
税込110円のネイルシールが惜しいわけじゃないけど、この男にしてやられるのは面白くない。
「あ、そうだ」
そこでアタシは思い出した。
「QヴェリタスDxDxD」
「は?」
「あんときのクイズの答え」
「調べたのか?」
「まぁね」
ショータが見ていたヴェリタスのアニメ。そこから漏れ聞こえたセリフを元にWikipediaで調べた。全く想像もつかなかったアクロバティックな読み方。「Q」を「クイーン」と呼ぶのはまだしも、「DxDxD」で「ディーキューブ」は頭おかしいとしか言いようがない。
「正確にはクイーンじゃなくて、クインだけどな」
知らんがな!どうでもいいわ!
アタシは心の中で叫ぶ。そんな細かいコトいちいち気にすんな!
「で、次の入荷の時はこれで買えるんでしょうね?」
「は?」
「クイズに答えられれば売ってくれるんでしょ?」
「TVシリーズ『ヴェリタス・クラウン』で、主人公キリヤ・グロゥが最初に敗北した相手とその愛機は?」
「は?」
突然、ボサ髪は呪文を唱えた。
「別にあのキットの名前だけじゃない、原作ファンが確かめる問題はいくらでも出せる」
「なにそれズっルう! あのプラモとは直接関係ないじゃん」
「ズルくない。答えはシリーズのヒロイン、アロヤ・クレイシーで機体名はクイン・ヴェリタス。この機体を劇場版で改修したのが、アンタが欲しがってるQ.ヴェリタスDxDxDだ」
「は……あ……」
頭の中にはてなマークが羅列される。ボサ髪ノッポの言葉がほとんど理解できない。
「ったく、こんな基礎知識もない奴がヴェリプラを買い漁って、本当に欲しいファンの手に届かない。本当迷惑だわ」
「この前から誤解あるみたいなんだけど、アタシ転売とかしないから!言いがかりマジ迷惑なんですけど?」
「どうだか。ていうかアンタ、どこまでついてくる気?」
「はあああ!?」
いい加減、アタシの脳の血管が破裂しそうだった。もし倒れたら手術費全額こいつに請求してやる!
「アンタがネイルストーン分けてくれるっていうからついてきてんでしょうが!」
「ちっ、まだ覚えてやがんのか」
「あっっったり前でしょ! あのストーン前から可愛いと思ってたのに、なんでアンタみたいなネイルもしなそうな……」
言いかけて、アタシは悪巧みを思いつく。そうだ、今はあの時と立場が逆じゃないか。
「そうだよ。アンタみたいなネイルの知識もないような奴に買い漁られるとアタシらも迷惑なのよ」
「は?」
「問題です。ジェルネイルがマニキュアより優れているのはどこでしょう?」
わざと意地の悪そうな声色を作って尋ねた。答えられなかったら思いっきりバカにしてやる!
「ジェルネイルは溶剤の揮発ではなくUV照射による硬化のため、速乾性がある。加えて耐久性に優れ、ひと月近くもたせる事ができる上、爪の先端の保護も期待できる。また、樹脂の特性から表面も滑らかに仕上げやすいし、ストーンなどで飾り付けることも可能となる」
「……え?」
驚くほど流暢に、ジェルネイルのなんたるかの解説が飛び出してきて、アタシは呆気に取られる。
「一方で、強度が強い故に落とす事が難しく、指先へのダメージがある。また一般にマニキュアよりも施術費用が高くなる傾向にある。もっとも、最近はこういうプチプラのジェルネイルが広まってきているのでセルフで気軽に楽しめるようにもなってる」
しかも短所まで。なんだコイツ。下手したらアタシより詳しくないか……?
「ふ、ふーん……なかなか、やるじゃん」
アタシの胸底に敗北感が湧き立つ。
「新しい素材を試す時は必ず下調べするからな。こっちの分野に応用できるかどうか」
「応用?」
「ほら、ついたぞ」
ボサ髪は足を止めた。そこはオタクタワー……こいつの店が入っている雑居ビルだった。
「いい機会だから見せてやる。お前らが雑に売り買いしてるモノの本当の価値を」
ボサ髪はエスカレーターに乗った。少し不服だ。駅ビルの外に出た瞬間に、もしこの大男にダッシュでもされたら、アタシの体力で追いつけるかわからない。
税込110円のネイルシールが惜しいわけじゃないけど、この男にしてやられるのは面白くない。
「あ、そうだ」
そこでアタシは思い出した。
「QヴェリタスDxDxD」
「は?」
「あんときのクイズの答え」
「調べたのか?」
「まぁね」
ショータが見ていたヴェリタスのアニメ。そこから漏れ聞こえたセリフを元にWikipediaで調べた。全く想像もつかなかったアクロバティックな読み方。「Q」を「クイーン」と呼ぶのはまだしも、「DxDxD」で「ディーキューブ」は頭おかしいとしか言いようがない。
「正確にはクイーンじゃなくて、クインだけどな」
知らんがな!どうでもいいわ!
アタシは心の中で叫ぶ。そんな細かいコトいちいち気にすんな!
「で、次の入荷の時はこれで買えるんでしょうね?」
「は?」
「クイズに答えられれば売ってくれるんでしょ?」
「TVシリーズ『ヴェリタス・クラウン』で、主人公キリヤ・グロゥが最初に敗北した相手とその愛機は?」
「は?」
突然、ボサ髪は呪文を唱えた。
「別にあのキットの名前だけじゃない、原作ファンが確かめる問題はいくらでも出せる」
「なにそれズっルう! あのプラモとは直接関係ないじゃん」
「ズルくない。答えはシリーズのヒロイン、アロヤ・クレイシーで機体名はクイン・ヴェリタス。この機体を劇場版で改修したのが、アンタが欲しがってるQ.ヴェリタスDxDxDだ」
「は……あ……」
頭の中にはてなマークが羅列される。ボサ髪ノッポの言葉がほとんど理解できない。
「ったく、こんな基礎知識もない奴がヴェリプラを買い漁って、本当に欲しいファンの手に届かない。本当迷惑だわ」
「この前から誤解あるみたいなんだけど、アタシ転売とかしないから!言いがかりマジ迷惑なんですけど?」
「どうだか。ていうかアンタ、どこまでついてくる気?」
「はあああ!?」
いい加減、アタシの脳の血管が破裂しそうだった。もし倒れたら手術費全額こいつに請求してやる!
「アンタがネイルストーン分けてくれるっていうからついてきてんでしょうが!」
「ちっ、まだ覚えてやがんのか」
「あっっったり前でしょ! あのストーン前から可愛いと思ってたのに、なんでアンタみたいなネイルもしなそうな……」
言いかけて、アタシは悪巧みを思いつく。そうだ、今はあの時と立場が逆じゃないか。
「そうだよ。アンタみたいなネイルの知識もないような奴に買い漁られるとアタシらも迷惑なのよ」
「は?」
「問題です。ジェルネイルがマニキュアより優れているのはどこでしょう?」
わざと意地の悪そうな声色を作って尋ねた。答えられなかったら思いっきりバカにしてやる!
「ジェルネイルは溶剤の揮発ではなくUV照射による硬化のため、速乾性がある。加えて耐久性に優れ、ひと月近くもたせる事ができる上、爪の先端の保護も期待できる。また、樹脂の特性から表面も滑らかに仕上げやすいし、ストーンなどで飾り付けることも可能となる」
「……え?」
驚くほど流暢に、ジェルネイルのなんたるかの解説が飛び出してきて、アタシは呆気に取られる。
「一方で、強度が強い故に落とす事が難しく、指先へのダメージがある。また一般にマニキュアよりも施術費用が高くなる傾向にある。もっとも、最近はこういうプチプラのジェルネイルが広まってきているのでセルフで気軽に楽しめるようにもなってる」
しかも短所まで。なんだコイツ。下手したらアタシより詳しくないか……?
「ふ、ふーん……なかなか、やるじゃん」
アタシの胸底に敗北感が湧き立つ。
「新しい素材を試す時は必ず下調べするからな。こっちの分野に応用できるかどうか」
「応用?」
「ほら、ついたぞ」
ボサ髪は足を止めた。そこはオタクタワー……こいつの店が入っている雑居ビルだった。
「いい機会だから見せてやる。お前らが雑に売り買いしてるモノの本当の価値を」