オタクタワーでの屈辱から10日くらい経つ。あの模型店のツイッターを毎日チェックしているけど、ヴェリタスのプラモの入荷情報はなかった。
(入手困難って話は本当なんだなあ)
量販店のおもちゃコーナーを覗いたりもしてみたけど、ヴェリタスコーナーの棚はスカスカで見るからに品薄だった。
そりゃあ転売ヤーも強気のプレ値をつけるわけだ。メルカリでは相変わらずロボットの絵に5桁の値段がついている。さらにその一部には「SOLD」と書かれた赤い三角が表示されてるから驚きだ。
(ま、ショータの誕生日まで1ヶ月半くらいあるし、まだ焦らなくても大丈夫……かな?)
アタシはそう思い直すと、スマホをバッグにしまう。そろそろバスが駅前に到着する頃だ。
(あー、100均寄ってかないと)
今日はショータの家に泊まる約束をしている。なのに持ち歩き用のポーチにアイシャドウを入れ忘れてしまったのだ。こういう事がないようにメイクボックスを置いておいたのに……。
ああ、それと歯ブラシも無いんだった。洗面所にアタシ用のものを置いていたのに、先週末掃除していたショータが間違って捨ててしまったのだという。
(あとついでに、ネイルグッズも見てこ。この前見つけたストーン、可愛かったし)
駅ビルにはワンフロアまるごと使った大きな100円ショップがある。ここのコスメコーナーが充実していて、プチプラのコスメやネイルグッズがたくさん置いてあるのだ。意外と可愛い色が多いし、便利な消耗品類も充実している。何年か前に美容系の配信者がオススメしていたのを見て以来、アタシも100均コスメや100均ネイルを重宝していた。
(アイシャドウは……これでいいかな。で、ネイルは裏側の棚、と……)
アタシは3色グラデーションのアイシャドウパレットを買い物カゴに放り込むと、後ろ側の棚へと回り込む。そのコーナーには先客がいた。
(うわ、大きい……)
身長180くらいはあるだろうか。長身の男性だった。その背中を少し曲げるような感じで、ネイルコーナーの商品を睨みつけている、一瞬、店員かとも思ったけど、エプロンをしていないからお客だろう。
珍しいな、と思った。断っておくと、別にアタシは男がコスメやネイルを買ってはいけないなんて思ってないし、それらを趣味にしている男性に偏見はないつもりだ。
とはいえ、この人はメイクをするタイプの男性には見えなかった。
ヨレヨレのジャケットと履き潰したスニーカー。髪はボサボサ。身だしなみに気を使う人とはちょっと思えなかった。
(ていうか待って、あの髪型って……)
その時、男の手がスッと棚のに伸びた。彼が手にっとったのは、ネイルシール。しかもアタシが前来た時に見つけた可愛いデザインのもの。しかもしかも、最後の1枚だ。
「あー!」
アタシは咄嗟に叫ぶ。男はビクッと肩を振るわせ、こちらを向いた。間違いない。この背の高さ、目が隠れるほどボサボサの髪、あの日の屈辱が蘇る。間違いない、こいつあのクソ店員だ!!
「そのストーン、アタシが買おうと思ってたヤツ!」
「え? え?」
突然、声をかけられてボサ髪は動揺していた。
「な、なんですかアナタ?」
どうやらアタシが誰かわかっていないらしい。アタシはもう一度同じセリフを言う。
「そのストーン! アタシが買いたかったヤツなんだけど?」
「いや、先に手に取ったのは僕ですよ?」
「ヴェリタスだけじゃなく、ネイルグッズまでアタシから奪うのかお前!?」
「は? ヴェリタス?」
ボサ髪越しにその目がきょとんとしているのが見えた。口を半開きにして2秒ほど固まる。
「アンタ、この前ウチに来てた!」
「そうだよ、アンタに恥かかされた客だよ」
「はぁ? 客? ウチは転売ヤーを客とは認め……」
隙を見て、ネイルストーンをボサ髪の手からひったくる。
「あっ何する!」
そのとき、この男が反対の手に持つ買い物カゴが目に入った。たくさんお商品を買い込んでいるが、損垢にはストーン以外のネイルグッズも見えた。
ジェルネイルのボトル、ホイルシートやラメ。ブラシやスティックやすりなど。しかも結構な量だ。
「何? アンタ、ネイルするの?」
「いや、そう言うワケじゃ……」
ボサ髪の手元を見る。綺麗に切り揃えられてはいるけど、特に手入れもされていない。普通の男性の指先だ。
「じゃあ何? まさか転売するつもりとか言わないでよ?」
「ふざけんな! 俺がそんな真似するワケないだろ!」
前回の意趣返しのつもりで言っただけだが、男は露骨に嫌そうな顔をした。
「お客様、どうかなさいましたか?」
アタシたちが睨み合ってると、エプロンをつけたおばさんが声をかけてきた。その後ろには、不審な目で私たちを見ている女子高生が二人。彼女たちが店員を呼んだみたいだ。
「アハハ~、何でもないです。何でも!」
ボサ髪は取り繕うように笑った。そしてアタシに小声で話す。
「話は会計の後だ。そんなにストーン欲しいなら分けてやるから……!」
(入手困難って話は本当なんだなあ)
量販店のおもちゃコーナーを覗いたりもしてみたけど、ヴェリタスコーナーの棚はスカスカで見るからに品薄だった。
そりゃあ転売ヤーも強気のプレ値をつけるわけだ。メルカリでは相変わらずロボットの絵に5桁の値段がついている。さらにその一部には「SOLD」と書かれた赤い三角が表示されてるから驚きだ。
(ま、ショータの誕生日まで1ヶ月半くらいあるし、まだ焦らなくても大丈夫……かな?)
アタシはそう思い直すと、スマホをバッグにしまう。そろそろバスが駅前に到着する頃だ。
(あー、100均寄ってかないと)
今日はショータの家に泊まる約束をしている。なのに持ち歩き用のポーチにアイシャドウを入れ忘れてしまったのだ。こういう事がないようにメイクボックスを置いておいたのに……。
ああ、それと歯ブラシも無いんだった。洗面所にアタシ用のものを置いていたのに、先週末掃除していたショータが間違って捨ててしまったのだという。
(あとついでに、ネイルグッズも見てこ。この前見つけたストーン、可愛かったし)
駅ビルにはワンフロアまるごと使った大きな100円ショップがある。ここのコスメコーナーが充実していて、プチプラのコスメやネイルグッズがたくさん置いてあるのだ。意外と可愛い色が多いし、便利な消耗品類も充実している。何年か前に美容系の配信者がオススメしていたのを見て以来、アタシも100均コスメや100均ネイルを重宝していた。
(アイシャドウは……これでいいかな。で、ネイルは裏側の棚、と……)
アタシは3色グラデーションのアイシャドウパレットを買い物カゴに放り込むと、後ろ側の棚へと回り込む。そのコーナーには先客がいた。
(うわ、大きい……)
身長180くらいはあるだろうか。長身の男性だった。その背中を少し曲げるような感じで、ネイルコーナーの商品を睨みつけている、一瞬、店員かとも思ったけど、エプロンをしていないからお客だろう。
珍しいな、と思った。断っておくと、別にアタシは男がコスメやネイルを買ってはいけないなんて思ってないし、それらを趣味にしている男性に偏見はないつもりだ。
とはいえ、この人はメイクをするタイプの男性には見えなかった。
ヨレヨレのジャケットと履き潰したスニーカー。髪はボサボサ。身だしなみに気を使う人とはちょっと思えなかった。
(ていうか待って、あの髪型って……)
その時、男の手がスッと棚のに伸びた。彼が手にっとったのは、ネイルシール。しかもアタシが前来た時に見つけた可愛いデザインのもの。しかもしかも、最後の1枚だ。
「あー!」
アタシは咄嗟に叫ぶ。男はビクッと肩を振るわせ、こちらを向いた。間違いない。この背の高さ、目が隠れるほどボサボサの髪、あの日の屈辱が蘇る。間違いない、こいつあのクソ店員だ!!
「そのストーン、アタシが買おうと思ってたヤツ!」
「え? え?」
突然、声をかけられてボサ髪は動揺していた。
「な、なんですかアナタ?」
どうやらアタシが誰かわかっていないらしい。アタシはもう一度同じセリフを言う。
「そのストーン! アタシが買いたかったヤツなんだけど?」
「いや、先に手に取ったのは僕ですよ?」
「ヴェリタスだけじゃなく、ネイルグッズまでアタシから奪うのかお前!?」
「は? ヴェリタス?」
ボサ髪越しにその目がきょとんとしているのが見えた。口を半開きにして2秒ほど固まる。
「アンタ、この前ウチに来てた!」
「そうだよ、アンタに恥かかされた客だよ」
「はぁ? 客? ウチは転売ヤーを客とは認め……」
隙を見て、ネイルストーンをボサ髪の手からひったくる。
「あっ何する!」
そのとき、この男が反対の手に持つ買い物カゴが目に入った。たくさんお商品を買い込んでいるが、損垢にはストーン以外のネイルグッズも見えた。
ジェルネイルのボトル、ホイルシートやラメ。ブラシやスティックやすりなど。しかも結構な量だ。
「何? アンタ、ネイルするの?」
「いや、そう言うワケじゃ……」
ボサ髪の手元を見る。綺麗に切り揃えられてはいるけど、特に手入れもされていない。普通の男性の指先だ。
「じゃあ何? まさか転売するつもりとか言わないでよ?」
「ふざけんな! 俺がそんな真似するワケないだろ!」
前回の意趣返しのつもりで言っただけだが、男は露骨に嫌そうな顔をした。
「お客様、どうかなさいましたか?」
アタシたちが睨み合ってると、エプロンをつけたおばさんが声をかけてきた。その後ろには、不審な目で私たちを見ている女子高生が二人。彼女たちが店員を呼んだみたいだ。
「アハハ~、何でもないです。何でも!」
ボサ髪は取り繕うように笑った。そしてアタシに小声で話す。
「話は会計の後だ。そんなにストーン欲しいなら分けてやるから……!」