「確かに欲しい原作ファンが多いのは分かるけどさ、原作ファンじゃないと買えないってのは違うでしょ!?」
一夜明けてもアタシの不満は解消できなかったアタシは、学食で友達相手に昨日のことを愚痴っていた。
大勢の前で恥をかかされたことと、目当ての商品を手取りながら販売を拒否されたこと。二重の衝撃がアタシのメンタルに痛烈なワンツーをキメていた。あの店員の顔がちらついて、今朝からアタシは機嫌が悪い。ボサボサで清潔感のない髪。その隙間から覗く陰気な目。アタシを見下してくるあの感じ。ああムカつく!
「プレゼントのためにプラモ探している人、アタシだけじゃないと思うよ。あんな店じゃそういう人が買えないじゃん!」
例えば、孫のリクエストに答えようとしているお年寄りが、あのロボットの名前を答えられるとは思えない。孫の喜ぶ顔を見るためにプラモデルを探し回っている善良なおばあちゃんも、あのボサ髪や客たちは転売ヤー扱いして排除するのか?
「いや、そりゃさアンタの格好のせいなんじゃないの?」
「私もそう思う。むしろ、おばあちゃんだったら普通に買えたかもね」
アタシの話をひと通り聞いた後、カレンが言い、ミキも同意した。
「は? なによそれ?」
「だってさ、るな。アンタの格好どう考えたって、あのオタクタワーじゃ場違いじゃん……」
オタクタワーとは、例の模型店が入っている駅前の雑居ビルのことだ。あの店の他にアニメグッズ専門店や同人誌を扱う本屋などが入っているのでそう呼ばれている。
「るなって中身はともかく、服装はキメキメのいかついギャル系じゃん?」
「いかついって……今日なんかだいぶカジュアルめだと思うんだけど?」
今日のアタシの服装は、ジャージ素材のスキニーパンツとゆったりめのパーカー。どちらも気に入りのブランドのものでパーカーには大きくロゴが入っている。
ちなみに昨日も似たような感じだった。デートの日ならもう少し女の子っぽい格好にするけど、普段はこのくらい動きやすい方が好きだ。
「カジュアルっていうかストリート系? ラッパーのMVとか出てそう」
アタシの服装を見て、ミキはそう評する。
「わかる。リムジンの後ろでいかついお兄さんとシャンパン飲んでそう」
カレンも乗っかり、二人でケラケラ笑う。確かにアタシもそういう動画見たことあるけどさ……。
「そんなに派手かね、コレ?」
アタシはパーカーのお腹の辺りを引っ張ってブランドロゴをまじまじと見る。
「ナチュラルめのメイクだったら、ちょっとスポーティーなカジュアルって感じだけどさ。アンタってメイクもだいぶハデハデじゃん?」
「ネイルも、ウチらん中で一番気合入ってるしね」
そう言うミキの視線はアタシの指先に向けられている。シャンパンゴールドのラメがきらめくジェルネイルはアタシの指先で熱心に自己主張していた。
「こんなギャル丸出しな女がオタクタワーにいたら絶対浮くし、転売で儲けてるヤカラ系と疑われても仕方ないって」
「かっこうで人を評価するとかよくないと思う……」
アタシは抗弁する。
「まー、るなの話聞くかぎり、店員も問題ありそうだけどね」
「まったく、今度チャンスある時は、別の人が店番だといいんだけど……」
「は? アンタ、またその店行くつもりなん?」
ミキは少しあきれた感じで尋ねてきた。
「だって、多分あの店でしか買えないんだもん。ショータの誕生日までまだ二ヶ月くらいあるし、ワンチャンあるかなって」
今回の出来事であの店に不信感を抱いたけど、それでもまだ諦めたくなかった。ヴェリタスのプラモをあそこ以外で買うとなると、それこそ転売ヤーに高額支払うしか方法がない。
「別にプラモデルなんてニッチなものじゃなくて、もっと無難なもの探せばいいじゃん」
「それがさあ、アタシってプレゼント選びの才能ないっぽくて、去年の誕プレもクリスマスもしくじっちゃったから……」
去年の誕生日は、メンズ化粧品のセットを贈った。アタシが好きなブランドがちょうどメンズ展開を始めたので、お揃いで使いたいと思ったのだ。そのころは付き合い始めたばかりだったし、ショータも嬉しそうなポーズはとってくれたけど、化粧品のボトルは一向に空になる気配がない。
クリスマスは少し豪華なキッチンツールにした。アタシもショータもひとりぐらしで自炊もしている。けどショータ部屋の台所にあるのは百均の安物ばかりで使い勝手も悪そうだった。だから、海外メーカーのスタイリッシュかつ使いやすそうなセットを選んだのだ。けれどショータは今度は露骨に不満そうな顔をして「こう言うのはお前が使って、俺に料理作ってよ」と言われてしまった……。
「いやいや。るな、それって……」
「でも今度は外さないよ! ショータがあのロボットのプラモかっこよくて欲しいって言ってるのはっきり聞いたもんね!」
しかも、まさかアタシがプラモデルについて調べて買うなんて思ってもいないはずだ。ショータが喜ぶことが確定な上にサプライズにもなる。コレほど鉄板なチョイスはない。
「まー、そんなわけだから。二人とも愚痴聞いてくれてありがとね。怒りを共有したらいくらかスッキリしたよ!」
アタシはそういうと、隣のイスに置いていて自分のバッグをつかんだ。
「うーん。まぁ、ウチらはこれくらいの話ならいくらでも聞くけどさ」
「ていうか、るな、もう行くの?」
「うん。さっきラインでショータがバイト休みなったって言ってきたから、夕飯作ってあげようかなって」
「本当、甲斐甲斐しいねアンタ」
「でしょ〜? 初めての彼氏だしさ、大事にしないとなって。それじゃあ二人とも、明日の授業でね!」
そう言ってアタシは立ち上がると、二人に小さく手を振ってテーブルを後にした。
一夜明けてもアタシの不満は解消できなかったアタシは、学食で友達相手に昨日のことを愚痴っていた。
大勢の前で恥をかかされたことと、目当ての商品を手取りながら販売を拒否されたこと。二重の衝撃がアタシのメンタルに痛烈なワンツーをキメていた。あの店員の顔がちらついて、今朝からアタシは機嫌が悪い。ボサボサで清潔感のない髪。その隙間から覗く陰気な目。アタシを見下してくるあの感じ。ああムカつく!
「プレゼントのためにプラモ探している人、アタシだけじゃないと思うよ。あんな店じゃそういう人が買えないじゃん!」
例えば、孫のリクエストに答えようとしているお年寄りが、あのロボットの名前を答えられるとは思えない。孫の喜ぶ顔を見るためにプラモデルを探し回っている善良なおばあちゃんも、あのボサ髪や客たちは転売ヤー扱いして排除するのか?
「いや、そりゃさアンタの格好のせいなんじゃないの?」
「私もそう思う。むしろ、おばあちゃんだったら普通に買えたかもね」
アタシの話をひと通り聞いた後、カレンが言い、ミキも同意した。
「は? なによそれ?」
「だってさ、るな。アンタの格好どう考えたって、あのオタクタワーじゃ場違いじゃん……」
オタクタワーとは、例の模型店が入っている駅前の雑居ビルのことだ。あの店の他にアニメグッズ専門店や同人誌を扱う本屋などが入っているのでそう呼ばれている。
「るなって中身はともかく、服装はキメキメのいかついギャル系じゃん?」
「いかついって……今日なんかだいぶカジュアルめだと思うんだけど?」
今日のアタシの服装は、ジャージ素材のスキニーパンツとゆったりめのパーカー。どちらも気に入りのブランドのものでパーカーには大きくロゴが入っている。
ちなみに昨日も似たような感じだった。デートの日ならもう少し女の子っぽい格好にするけど、普段はこのくらい動きやすい方が好きだ。
「カジュアルっていうかストリート系? ラッパーのMVとか出てそう」
アタシの服装を見て、ミキはそう評する。
「わかる。リムジンの後ろでいかついお兄さんとシャンパン飲んでそう」
カレンも乗っかり、二人でケラケラ笑う。確かにアタシもそういう動画見たことあるけどさ……。
「そんなに派手かね、コレ?」
アタシはパーカーのお腹の辺りを引っ張ってブランドロゴをまじまじと見る。
「ナチュラルめのメイクだったら、ちょっとスポーティーなカジュアルって感じだけどさ。アンタってメイクもだいぶハデハデじゃん?」
「ネイルも、ウチらん中で一番気合入ってるしね」
そう言うミキの視線はアタシの指先に向けられている。シャンパンゴールドのラメがきらめくジェルネイルはアタシの指先で熱心に自己主張していた。
「こんなギャル丸出しな女がオタクタワーにいたら絶対浮くし、転売で儲けてるヤカラ系と疑われても仕方ないって」
「かっこうで人を評価するとかよくないと思う……」
アタシは抗弁する。
「まー、るなの話聞くかぎり、店員も問題ありそうだけどね」
「まったく、今度チャンスある時は、別の人が店番だといいんだけど……」
「は? アンタ、またその店行くつもりなん?」
ミキは少しあきれた感じで尋ねてきた。
「だって、多分あの店でしか買えないんだもん。ショータの誕生日までまだ二ヶ月くらいあるし、ワンチャンあるかなって」
今回の出来事であの店に不信感を抱いたけど、それでもまだ諦めたくなかった。ヴェリタスのプラモをあそこ以外で買うとなると、それこそ転売ヤーに高額支払うしか方法がない。
「別にプラモデルなんてニッチなものじゃなくて、もっと無難なもの探せばいいじゃん」
「それがさあ、アタシってプレゼント選びの才能ないっぽくて、去年の誕プレもクリスマスもしくじっちゃったから……」
去年の誕生日は、メンズ化粧品のセットを贈った。アタシが好きなブランドがちょうどメンズ展開を始めたので、お揃いで使いたいと思ったのだ。そのころは付き合い始めたばかりだったし、ショータも嬉しそうなポーズはとってくれたけど、化粧品のボトルは一向に空になる気配がない。
クリスマスは少し豪華なキッチンツールにした。アタシもショータもひとりぐらしで自炊もしている。けどショータ部屋の台所にあるのは百均の安物ばかりで使い勝手も悪そうだった。だから、海外メーカーのスタイリッシュかつ使いやすそうなセットを選んだのだ。けれどショータは今度は露骨に不満そうな顔をして「こう言うのはお前が使って、俺に料理作ってよ」と言われてしまった……。
「いやいや。るな、それって……」
「でも今度は外さないよ! ショータがあのロボットのプラモかっこよくて欲しいって言ってるのはっきり聞いたもんね!」
しかも、まさかアタシがプラモデルについて調べて買うなんて思ってもいないはずだ。ショータが喜ぶことが確定な上にサプライズにもなる。コレほど鉄板なチョイスはない。
「まー、そんなわけだから。二人とも愚痴聞いてくれてありがとね。怒りを共有したらいくらかスッキリしたよ!」
アタシはそういうと、隣のイスに置いていて自分のバッグをつかんだ。
「うーん。まぁ、ウチらはこれくらいの話ならいくらでも聞くけどさ」
「ていうか、るな、もう行くの?」
「うん。さっきラインでショータがバイト休みなったって言ってきたから、夕飯作ってあげようかなって」
「本当、甲斐甲斐しいねアンタ」
「でしょ〜? 初めての彼氏だしさ、大事にしないとなって。それじゃあ二人とも、明日の授業でね!」
そう言ってアタシは立ち上がると、二人に小さく手を振ってテーブルを後にした。