「きゅーゔぇりたすでぃーえっくすでぃーえっくすでぃー!」
宇宙空間で決めポーズをとるロボットが描かれた大きな箱。その側面には「Q.ヴェリタスDxDxD」と書かれている。それをアタシ、新島るなは自信を満々に読み上げた。
「ハイ、違います」
「は? なんで?」
何故かアタシは今、レジ前で店員からクイズを出されていた。彼氏への誕プレで買おうとしているプラモデルの名前を答えろというのだ。
おかしい。そな名前はしっかりと覚えていた。間違えてるハズがない。アタシの彼氏、北村奨太が今、サブスクでハマってるアニメ「ヴェリタス」に出てくるロボットのことだ。
似たような名前のロボットばかりある中で、Dとxの並び方が特徴的だったから印象に残った。アマゾンやメルカリもこの名前で検索している。聞き慣れないし言いにくい言葉だけど、アタシはコレを丸暗記していたのに。
なのに違うってどういうこと!? あ、そうか。読み方が違うのかも?
「じゃあデラックスデラックスディーだ!」
「ちがいます」
「ドクスドクスディ……」
「おかえりください」
食い気味に店員は言った。その声は少し半ギレだ。いや、理不尽なクイズ出されてキレたいのはこっちなんだが。
「ていうかこのクイズ何? アタシはこのプラモ買いたいだけなんだけど?」
「こんな問題も答えられない方に売るわけにはいきません」
背が高い店員だった。180以上あるかもしれない、155センチしかないアタシは店員を見上げるような形で対峙している。ボサボサのかみのすきまからのぞく瞳は、アタシの事を軽蔑しているように見えた。
「はぁ!? 何それ? なんで!?」
「……っはぁー」
店員は苛立たしげにため息をつく。そういう態度がいちいちムカつく。
「どうせ、ウチのツイッターに張り込んで今日の入荷の話聞きつけたんだろうけどさぁ」
「そ、そうだけど何?」
「迷惑なんだよ。アンタみたいなのが、よく知りもしないくせに転売目的でにキットを買い漁るの」
「は?」
一瞬何を言われたか分からなかった。テンバイモクテキ? ちがう。アタシは誕プレを買いに来ただけだ。そう言い返そうと思うと、背後から声が聞こえた。
「そうだそうだ」
「ったく、早く帰れよ」
「死ねよ転売ヤーが」
アタシに言ったというよりは、たぶん独り言だけど、後ろに並ぶ人たちは明らかにアタシに悪意を向けている。
「あのツイートにもちゃんと書いたはずだぞ? お客様に原作ファンか確認させて頂くので了承くださいってな!」
「確認? それがこのクイズってこと?」
確かにそんなこと書いてあった気もするが、特に気にも止めていなかった。ネット通販ではプレ値がついて5桁価格のプラモが、近場の店で普通の値段で売っている。それだけで頭がいっぱいだった。
「言っとくけどな、アンタの後ろに並んでるお客さん、みんなこのくらいの事答えられるぞ? そう言う人の手元に届くべきだからアンタは早く帰ってくれ!」
「……ふざけんな! 二度とくるかこんなクソ店!」
「当たり前だ、クソ女が!」
罵声の応酬。もはや定員も客もあったもんではない。
アタシは怒りで胸の奥がワナワナするのを感じながら、ボサ髪店員に背中をむけた。腹いせにその辺に積まれているプラモの箱をぶちまけてやろうかとも思ったけど、それは流石にアタシが100%悪になる。足早に店を出ようとすると、後ろではボサ髪店員が次の客の応対を始めていた。
「お待たせしました。次のお客様どうぞ」
「大変だね、店員さんも」
「いえいえ、じゃあ確認いいですか?」
「はいはい」
「このブーステッドフレームのパイロットのフルネームをお答えください」
「基本ですね。アロヤ・クレイシー中尉」
「はい、それでは3500円になります」
アタシの後ろに並んでいる人は無事に買うことができたらしい。パイロットの名前なんて、多分あの箱には書いていない。アニメを見ていないと分からない問題なんだろう。アタシが店の入り口近くでその様子を睨みつけていると、ボサ髪と目が合った。
ボサ髪店員は野良犬を追い払うように、しっしっと片手を動かしてアタシを追い出そうとする。その仕草を見た途端、アタシの怒りと羞恥心がMAXを突破する。
「ふざけんじゃねえ!」
アタシは思わずそんなクソダサいセリフを吐きながら、店のドアを力一杯に開いた。
宇宙空間で決めポーズをとるロボットが描かれた大きな箱。その側面には「Q.ヴェリタスDxDxD」と書かれている。それをアタシ、新島るなは自信を満々に読み上げた。
「ハイ、違います」
「は? なんで?」
何故かアタシは今、レジ前で店員からクイズを出されていた。彼氏への誕プレで買おうとしているプラモデルの名前を答えろというのだ。
おかしい。そな名前はしっかりと覚えていた。間違えてるハズがない。アタシの彼氏、北村奨太が今、サブスクでハマってるアニメ「ヴェリタス」に出てくるロボットのことだ。
似たような名前のロボットばかりある中で、Dとxの並び方が特徴的だったから印象に残った。アマゾンやメルカリもこの名前で検索している。聞き慣れないし言いにくい言葉だけど、アタシはコレを丸暗記していたのに。
なのに違うってどういうこと!? あ、そうか。読み方が違うのかも?
「じゃあデラックスデラックスディーだ!」
「ちがいます」
「ドクスドクスディ……」
「おかえりください」
食い気味に店員は言った。その声は少し半ギレだ。いや、理不尽なクイズ出されてキレたいのはこっちなんだが。
「ていうかこのクイズ何? アタシはこのプラモ買いたいだけなんだけど?」
「こんな問題も答えられない方に売るわけにはいきません」
背が高い店員だった。180以上あるかもしれない、155センチしかないアタシは店員を見上げるような形で対峙している。ボサボサのかみのすきまからのぞく瞳は、アタシの事を軽蔑しているように見えた。
「はぁ!? 何それ? なんで!?」
「……っはぁー」
店員は苛立たしげにため息をつく。そういう態度がいちいちムカつく。
「どうせ、ウチのツイッターに張り込んで今日の入荷の話聞きつけたんだろうけどさぁ」
「そ、そうだけど何?」
「迷惑なんだよ。アンタみたいなのが、よく知りもしないくせに転売目的でにキットを買い漁るの」
「は?」
一瞬何を言われたか分からなかった。テンバイモクテキ? ちがう。アタシは誕プレを買いに来ただけだ。そう言い返そうと思うと、背後から声が聞こえた。
「そうだそうだ」
「ったく、早く帰れよ」
「死ねよ転売ヤーが」
アタシに言ったというよりは、たぶん独り言だけど、後ろに並ぶ人たちは明らかにアタシに悪意を向けている。
「あのツイートにもちゃんと書いたはずだぞ? お客様に原作ファンか確認させて頂くので了承くださいってな!」
「確認? それがこのクイズってこと?」
確かにそんなこと書いてあった気もするが、特に気にも止めていなかった。ネット通販ではプレ値がついて5桁価格のプラモが、近場の店で普通の値段で売っている。それだけで頭がいっぱいだった。
「言っとくけどな、アンタの後ろに並んでるお客さん、みんなこのくらいの事答えられるぞ? そう言う人の手元に届くべきだからアンタは早く帰ってくれ!」
「……ふざけんな! 二度とくるかこんなクソ店!」
「当たり前だ、クソ女が!」
罵声の応酬。もはや定員も客もあったもんではない。
アタシは怒りで胸の奥がワナワナするのを感じながら、ボサ髪店員に背中をむけた。腹いせにその辺に積まれているプラモの箱をぶちまけてやろうかとも思ったけど、それは流石にアタシが100%悪になる。足早に店を出ようとすると、後ろではボサ髪店員が次の客の応対を始めていた。
「お待たせしました。次のお客様どうぞ」
「大変だね、店員さんも」
「いえいえ、じゃあ確認いいですか?」
「はいはい」
「このブーステッドフレームのパイロットのフルネームをお答えください」
「基本ですね。アロヤ・クレイシー中尉」
「はい、それでは3500円になります」
アタシの後ろに並んでいる人は無事に買うことができたらしい。パイロットの名前なんて、多分あの箱には書いていない。アニメを見ていないと分からない問題なんだろう。アタシが店の入り口近くでその様子を睨みつけていると、ボサ髪と目が合った。
ボサ髪店員は野良犬を追い払うように、しっしっと片手を動かしてアタシを追い出そうとする。その仕草を見た途端、アタシの怒りと羞恥心がMAXを突破する。
「ふざけんじゃねえ!」
アタシは思わずそんなクソダサいセリフを吐きながら、店のドアを力一杯に開いた。