ちょうどここが食堂に近いからか、美味しそうなカレーの匂いが漂っていた。


 騒がしくなる昼休みの校内の端っこの空き教室で、いつもと同じグループで机を向かい合わせて座る。


「ねえ、聞いてよ――――」


 だいたいまずは誰かが彼氏の惚気を始める。そしてまた、違う誰かの惚気になり、愚痴になり……。


 ここにいる子はみんな可愛い。美容院にたくさん行って、メイクを研究して、ダイエットをしたりもして、努力もしてるんだと思う。モテるのもわかる。


 だからずっと私もそれに追いつこうと必死だった。


 そのうち誰かがクラスメイトの悪口なんかを言い始めると、だんだん仄暗い盛り上がりが増していく。


 そういう時私は自分から話題を振ることはなくても、散々に言われている人より自分が優位に立てている気がして便乗してしまう。


「たまには写真とか動画撮ろうよ」


 ひとりが急にそんなことを言い出した。顔が盛れているかと、青春っぽさやオシャレさ。ただそれだけをこだわって行われる、別に楽しくもない写真撮影会だ。


 SNSで自分をアピールするための、大切なイベント。


 でも今日はなんだかそれが無性に嫌で。


「私、そういえば今日先生に呼び出されてたんだった」


 嘘をついて抜け出した。


 そもそも私があのグループに入っているのは、陽キャだと言われていたあの子たちがとても羨ましく思えてしまったから。


 なんとなくそこにくっついているうちに、いつの間にかグループのなかにいた。


 でも本当は、あまり楽しくなかった。まさに青春を満喫しているように見える偽りの自分のSNSを更新していく度、虚しくなる。


 昨日あの店に行った夜、ベッドの中でスマホをいじっていたとき、急にそんな想いが湧き出してしまった。……そんな想いに気づいてしまった。