「これ飲み終わったら帰ります。親が心配してると思うし、テスト勉強しないと」

「テストあるの?」

「一週間後に」

「目標は?」

「学年順位20位以内、です」


 私がキッパリと言い切ると、ユイさんが考え込むようにして宙に視線をやる。


「それってもっと違う目標じゃだめなの?」

「え……?」

「わざわざ順位じゃなくてよくない? 合計何点以上にする。ケアレスミスを無くす。どの教科を重点的にがんばる。この教材をどんなふうに勉強する。そういう目標をたてれば、人と比べなくたっていいんだからさ」


 たしかにその通りだった。私はすぐに人と比べる目標を立てたがる。そういう性分なのだ。


「そうやって自分と向き合っていれば、そのうち人のことなんて気にならなくなるよ、きっとね」

「──私、自分を変えたい」

「うん、変えよう」


 力強く頷かれて、私も自然と笑顔になる。


 花の模様が彫られた真っ白なマグカップを、丁寧に手を添えながら傾けて、温かいココアを飲み干した。



「わざわざお店の外まで出てきてくれなくてもよかったのに。本当にありがとうございました。また来ます」

「悩んだらまたおいで。がんばれよ、コトハ」

「ありがとうございました。お気をつけてお帰りください」


 もう一度二人に会釈をして、店を後にする。


 木の看板に刻まれた『悩める人のためのカフェ』という名前が、来たときよりもずっと素敵に感じた。