「でもコトハは違った。俺と同じようにきっと元々色々できる方ではあるんだろうけど、俺と同じように悩んでて、それなのにいつだって上を目指してがんばってた。自分を変えようとがんばってた。その姿を見て俺だって勇気づけられたんだよ」


 上を目指していた、なんて綺麗事だ。目指し方の方向性が間違っていた私を、彼は正してくれた。


「ありがとう」


 私は知らず知らずのうちに少しだけ何かを返せていたのだろうか。


 ありがとうの言葉だけじゃ足りないくらい、助けてもらったこの人に。


「俺、父さんも母さんも医療従事者だから小さい頃から忙しそうにしてた。それでよくこの店に通ってたんだ。

叔父さんの店を手伝うのは楽しい。でもやっぱり俺、1回本気でがんばるってことをしてみたい」


 それから彼は大きく息を吸って、言った。


「大学に行きたいんだ。浪人して予備校に行って勉強して……それでもしできたら母さんとか父さんみたいに医療で人を救う現場に行きたい」

「すごく……いい目標だと思います。私、誰よりも、誰よりも応援してますから」


 言葉を噛み締めるように、答えた。


「できるかな、俺に」

「自由に、やりたいように生きるのがユイさんでしょ。できるかじゃなくてやるんですよ」

「そっか……そうだよね」


 なんか泣きそ、とユイさんは笑った。そして瞳に強い光が宿っていた。なんだかその表情に私の心が締め付けられる。


「コトハ」

「はい」

「これからもがんばる勇気を、俺の隣で与え続けてくれませんか」


 人と自分を比較する癖が完全に無くなったとは言えない。でも前よりもずっと私は自分のために生きられている気がする。彼のおかげで。


 そしてひとりの人生をいい方向に変えられた、という事実はさらに私に自信をくれた。


 これから私は私の確固たる人生を生きていきたい。


 だからこそ。そのために。


「それはこっちのセリフです」


 私はこの人に隣にいてほしい。


 

 人知れず夜のカフェで私たちの物語これから先も続いていく。


 毎日が息苦しかった頃よりも、この世界で、少しだけ息がしやすくなった気がした。



fin.