「ユイさん」

「しばらく来てなかったからもう来ないのかと思ってたよ。ひさしぶり」


 最後に行った日から1ヶ月ほどあとになってようやくお店に行くことができた。
 

「――アミから聞きました。ユイさんが高校を中退して通信制高校に行ってること」


 私が最近お店に来なかったのはユイさんに会いたくなかったから。

 だって。


「ユイさんはきっと学校に行けなくなるくらい悩んでたのに、私はなんにも気づかずにいつももらうだけで。自分の話ばっかり聞いてもらって。……恥ずかしかったし、合わせる顔がなかったんです」

「そんなことない――」

「――そんなことあるんです。すみませんでした」


 私は無性に泣きたくなるのをこらえながら頭を下げた。


「やめてよ、本当に違う。俺だってコトハにたくさん救われたんだよ」
 
「え?」

「俺、だんだん高校に行けなくなっていって、辞めるってなっても、そして今も、まだ誰にもその理由言ったことないんだよね。言ってもいい?」


 私は困惑しながらも、頷く。


「何があったの? ってみんな聞いてくる。でもね俺――何もなかったんだ」


 いつも飄々としている彼の表情が一気に歪んだ。


「自慢じゃないけど昔から基本的になんでもできた。だから努力するってことがどうしてもできない。ほぼ勉強もせずにそれなりの高校に入れたけど、周りは努力してその学校に入ってきたやつばっかりだった。

何もがんばれなくて、何もかもどうでもよくて、どんどんクラスでも浮いていって、学校に通う意味がわからなくなった」


 本当に何もなかったんだ、と彼は俯いたままこぼした。