特に行く場所も思いつかなくて、人がいない場所を探すうちに、屋上へと続く階段を登っていた。


 屋上は閉鎖されているため、その手前の階段にでもいようと思った。


「……あ」


 思わず間抜けな声を出して立ち止まる。


 まさかここに人がいるとは思っていなかった。


「相沢さん?」

「私の名前、覚えてくれてたんだ、ですね」


 なんだか緊張して変な言葉遣いになってしまった。


「すみません、邪魔しちゃって」


 彼女――原川さんはクラスメイトだが、話したのはこれが初めてだった。凛とした美人で同い年とは思えないほど大人っぽく、あまり誰かと話しているところは見たことがない。


 避けられているというよりは、近寄り難いと思われているのだろう。


 私も彼女に対しては、自分と比較したことは一度もない。比較するのも烏滸がましいような、オーラがあった。


「全然ここにいてもらって大丈夫です。私の場所っていうわけでもないですし」

「ありがとう、ございます」


 正直に言えば気まずいので早くここを去りたかったが、言い出せなくなってしまった。

 
 仕方なく彼女の3段くらい上に座る。


 そして、メロンパンにかじりつく原川さんをチラチラと見ながら、また違う方角にも落ち着きなく目を泳がしていた。


「相沢さんは」


 私の動揺など意に介さず、彼女が唐突に口を開く。


「お昼ごはん食べた?」

「はい、食べました」

「何を食べたの?」

「家から持ってきたお弁当を」

「お母さんが作ってくれるの?」

「はい、作ってくれます」


 まるで面接だった。クラスの高嶺の花を前にすると、緊張して上手く話せなかった。