どこにいても、何をしていても、いつもどこか息苦しい――こんな自分のことが大嫌いだ。


 家族仲は悪くない。友だちだって多いほうだ。

 体も至って健康で、容姿に対して特別コンプレックスを抱いたこともない。

 成績は上位に入れるし、夢も目標もしっかり持っている。

 絶望するほど辛い出来事があったわけでも、なんでもない。


 ――――あんたは何が不満なの。


 家で私がよくストレス発散と称して、クッションを殴りつけていると、姉がそう言って冷めた視線を送ってくる。


 今日はそれが無性に腹立たしくて、もう日も落ちたこんな時間に家を飛び出してきてしまった。


 行くあてもなく自転車を漕ぎ続けた果て、寂れた公園の隣にひっそりと佇む小屋の前に私は立ち竦む。


『悩める人のためのカフェ』


 なんてチープな店名なんだろう、と思った。でも、扉にかかったリースの上から可愛らしい小鳥の置物にじっと見つめられ、目が離せなくなる。


 5月の風が目の前を通り過ぎていく。


 ポケットに手を入れみると、そういえばさっき引っ掴んできた千円札が入っていた。


 ぐっと力を込め、それを握りしめて。


 私はその扉の取っ手を引き寄せた。