その翌日、恭介は一人で登校した。朝練、授業中、放課後練。ずっと頭に浮かぶのは佳奈との会話ばかりだ。
『ほら先輩、明るく明るく。人間、元気が一番。暗くしてたって、なーんにもいい事ないですよ?』
(イライラをぶつけてだいぶきつい台詞を吐いちまったけど、……なんというか、うん。思い返してみれば悪くはなかったな。あの子と過ごす時間。こういうのが、何気ない日常の大事さを噛みしめるっていうのかもな)
『背中にピカッと電気が走って。で、先輩を好きになったんですよ』
(つくづく恥ずかしいセリフだよなあ。本人の前でよく言えるもんだ。どんだけ俺を好きなんだよって話だよな。明日きっちり謝ろう。それで終わりにしよう)

 放課後練が終わった。時間は十九時前で、夜の帳が下りている。恭介は帰宅すべく自転車置き場に歩いて行った。すぐに自分の自転車を見つけるが、籠の中の封筒に気づく。表には「源先輩へ」と、見覚えのある字で書かれている。恭介ははっとして中の手紙を取り出す。
「あの日の告白は驚かせちゃいましたよね。私が告白したのは、先輩が好きで好きでたまらなくて。後悔しないように気持ちを打ち明けました。でもあんな結末になっちゃって。私がそばにいると先輩が迷惑するんならもう先輩には近づきません。先輩が好きな人と幸せになる事を祈っています。森本」
 恭介が呆然としているとサッカー部の後輩の柴田が近づいてきた。
「どうしたんすか、その手紙。森本さんっすか? 最近まで一緒に登校してたんすよね」
 驚いた恭介は、柴田に向き直った。
「知ってんのか?」
「中学同じっすからね」
 愕然とする恭介。気づかなかったが、佳奈は恭介より早起きしていたはずだった。佳奈の家から恭介の家は歩いて五十分。佳奈は六時二十分には家の前にいた。つまり。
(そうか、そこまで俺を。なのに俺は……)
 恭介が衝撃で固まっていると、柴田から控えめな声が掛かった。
「森本さん、さっき見ましたよ。テニスコートのとこのトイレ前で。怖い雰囲気の女子と一緒にいました」
「ありがと、行ってくる」
 決意とともに告げた恭介は、走り出そうと振り返った。たがふと思いついて、静かに柴田に質問をする。
「柴田お前、自分が好きな子に、他のやつが対象の恋愛相談持ちかけられたらどう思う?」
「そりゃイヤっすよ。俺の気持ちも考えろって思いますよ」
 柴田は批難を籠めた語調で即答した。
「……そうか、わかった」
 今度こそ恭介は靴箱を後にした。