「すっごいスピードでしたね、あのシュート。風を切るとはまさにあの事! インド人もびっくりの、スーパーミラクルシュートですよ!」
「インド人とかはわからんけど、悪い気はしないな。うん。ありがとう」
 翌々日、佳奈と恭介は今日も一緒に登校していた。話題は昨日の試合だった。佳奈は見に来てはいたようで、試合が終わると一人で帰ったらしかった。
(一緒に下校しようとは言い出さないんだな。本当にこっちの言う事はきっちりと守る子だ)
 恭介は感心しつつ、次の話題を探った。が考えていると、「サッカー、いつからしてるんですか?」と、佳奈は興味深げに問うてきた。
「幼稚園」
「長い間続けてるんですねー。私なんか幼稚園児の時にはぽけーっとしてるだけだったのに、先輩ったら真面目に一途に、ひたすらボールを追いかけてたんですね。うまくなるはずです。納得」
「ありがと」と、恭介は素直に思いを口にした。
「ところで君は何か部活してるの?」
「私はテニス部ですよ。中学から続けてます。頑張ってるつもりですけど運動音痴ですからね。ついて行くのもしんどいです」
「下手でも何でも頑張ったら何かしら得るもんはあるだろ。引退まで続けられたらいいよな」
 恭介は、感慨を込めて返事をした。
「ありがとうございます。やりがいはあるので最後までやる気です。それにしてもサッカー部って、筋トレも多くてハードですよね。ほんと感心しちゃいますよ」
「うちの学校じゃ厳しいほうだよな。でもあのぐらいはやらないと勝てないからさ」
 言葉を切った恭介は、隣の佳奈を見た。ちょこちょこと歩く佳奈は、心から楽しげな佇まいである。
「ちょっと聞きたいんだけど、女子同士ってどんな話をしてるわけ? あの子と話す時の参考にするからさ」
 言葉を切った恭介は、期待を籠めて佳奈に顔を向けた。佳奈の表情は一瞬固まったが、すぐに笑顔に戻った。
「そうですね、やっぱり恋愛の話ですかね。でも好きな人とそういう話をするのは勇気がいりますよね。うーん、他だったら……」
 佳奈の話にじっくりと耳を傾けつつ、恭介は佳奈と隣り合ったまま校門をくぐってしまった。