(ほんっと疲れる)
華樹からこの手の説教を受けることは何度目だろう。
華樹なりに白桜と御門のことを心配してのことだとはわかるが……自分は許嫁がいないと、そんなに頼りないだろうか。
当主白桜として以外の自分は、そんなに……。
価値がないだろうか。
己の手に目をやる。中性的な指。こんな自分で、一体どれだけのことが出来るだろう。
こんな……
「涙雨ぅうううううう!」
「はいはい。涙雨殿は元気だよ」
式文を飛ばして間もなく、涙目の黒藤が突撃してきた。
今回は縁も一緒だった。
「白ぢゃ~ん! ありがとう~!」
騒ぎが二倍になった。
門まで結蓮が抱いてきた涙雨を受け取ると、黒藤と縁は滂沱(ぼうだ)と涙を流した。
『す、すまぬ、主様、縁殿……』
その迫力に涙雨が負け気味だった。
結蓮は二人の様子に苦笑いをしている。
「黒、感動の再会をしてもらって構わないんだが、落ち着いたら話しておきたいことがある」
「うん」
目元をぬぐった黒藤が、コクコクと頷く。
涙雨を預かった縁は先に戻るというので、黒藤だけ邸内に入った。
窓を開け放たれた白桜の部屋の縁側に腰かけるふたり。
空はすでに昏(くら)くなっている。
「涙雨殿が二度も行き倒れ、どう考える?」
白桜の率直な問いかけに黒藤はうなった。
「んー、霊力枯渇、だけじゃないよなぁ……」
腕を組んで眉間にしわを寄せている。
白桜は話すことを決めた。
「もうひとつ伝えておく。作夜見家の長女は知っているか?」