「白桜、まずは辺りを確認しよう」
「はい……」
黒藤に言われて、白桜も辺りを見回す。
植木に季節の花、砂利が敷かれ整えられた御門別邸の庭とは違い、黒藤たちが転がっていたのは芝生の地面で、ここは丘の上のようだ。
黒藤たちがいるところから少し離れて大きな樹が一本ある。桜の樹に見える。
くだる丘の下には、民家や個人商店と思しき見た目の家が立ち並んでいる。街のようだ。
だんだん畑みたく階層をなすようにくだったと思ったら、その先はまた丘のようになっていて、のぼる造りのよう。
「にいさま……あれは、神殿……? でしょうか……」
「神殿?」
白桜はまっすぐ先を見ている。
黒藤もそこへ目をやると、巨大な建物があった。
さっきまで見ていた下の方を見やると、一番低くなっているところは大通りで、その通りから向こう側の丘に何度もカーブしながら巨大な建物まで整えられた道が続いている。
「……まず、日本ではないな」
それが、黒藤がくだした一つ目の判断だった。
日本の総てを回ったわけではないけど、あれほどの建物なら把握できているはずだ。
「にいさま、ねこさんがいません」
「え?」
「みけねこさんです。さっきたしかにだっこしてたのに……」
「………」
きょろきょろとする白桜を見つめながら考える。
閃光は、あの三毛猫に白桜が触れた瞬間のことだ。
まさか三毛猫が誰かの使い魔だったとかいうことはないだろうか。
小路流と御門流の次代である黒藤と白桜を排斥した輩は、妖異だけでなく人間にも多いだろう。
ここはいわゆる異界という場所で、黒藤たちをここへ閉じ込めてしまったとか。
いや、それは白里への挑戦だ。
黒藤も白桜も、確かに御門別邸の中にいた。
しかも逆仁も一緒だ。
現在陰陽師の中で一、二を争う二人。御門邸は、本邸も別邸も白里の結界に守られていて、妖異や害意のあるものを中へは入れさせない。
だから黒藤は三毛猫も、ただの猫で迷い込んだものだと思っていた。
黒藤が触っただけでは何も起こらなかった。
黒藤と白桜が同時に触れることか、もしくは白桜が三毛猫に触れることでなんらかの反応が起こった……?
小路と御門の怒りを買おうとする妖異も人間も少ないだろうが、絶対にいないとはいえない。
とりあえず、ここから脱出する方法を考えるのが一番か――
「姫巫女(ひめみこ)様!」