ここは冒険者ギルドの闘技場、モモが試験でルーの召喚した精霊と戦った場所だ。人払いは済んでいるので今はムツヤ達しかいない。
訓練用の木刀を持ち、ムツヤは体を伸ばして戦いに備える。ギルドマスターのトウヨウは目を閉じて精神を集中していた。
モモとユモトは固唾を飲んで見守り、ヨーリィは興味があるのか無いのかオレンジジュースを飲みながらぼんやりと眺めていた。
武器は木刀のみ、魔法の使用は無しの一般的な剣士の試合だ。両方が相当な実力者ということを除いては、だが。
「それでは準備は良いですね? 試合開始ー!」
ルーが威勢よく言うと同時にムツヤはトウヨウ目掛けて一直線に突っ走る。
縦に振り下ろされたムツヤの木刀はトウヨウの頭を捉えていた。
トウヨウはそれを木刀で受け止めると斜めに切り下ろすように反撃をする。ムツヤもそれを受け止め、身をよじって足元を狙う。
そんなやり取りが数回続いた時、突然バキィッという音がした。二人の持っていた木刀が同時に折れてしまったのだ。それを見てトウヨウは笑った。
「どうやら木刀では手合わせにもならんらしい」
笑いをやめるとトウヨウは真面目な顔をして言う。
「お前さえ良ければ、真剣でどうだ?」
ユモトとモモに緊張が走る、ムツヤは強いし、どんな傷でも治る薬はあったが、万が一という事もある。
「お互い鎧を着て、剣と魔法の使用も自由にしよう。恥ずかしい話、年甲斐もなく滾ってしまった」
「わがりまじた」
お互い準備をするために試合は中断になった。そして少しの時が経ち、両者は本気で戦うための格好になった。
トウヨウは青いフルプレートアーマーに身を包み、両手剣を持っている。ムツヤは軽装の鎧と、片手剣を持つ。
「それでは仕切り直してー…… 試合開始!」
トウヨウは鎧の重さを少しも感じさせない機敏な動きで迫る。軽々と両手剣を振り下ろすがムツヤは横っ飛びでそれをかわす。
そのままムツヤは胴を剣で横切りにしようとするが、両手剣で弾かれてさっと後ろに引く、その最中にも炎の玉を数十発も発射した。
トウヨウは左手に魔法無効化の術式を作り上げるとそれをかざして全ての火の玉を消し飛ばす。
モモは夢中でその戦いを見ている。不謹慎ながらムツヤが怪我をしたらどうしようという考えはどこかへ飛んでしまった。
実力者同士の戦いはこんなにも圧巻され、美しいものかと考えていた。
二人の剣戟により、闘技場には金属音が響いていた。両者一歩も譲らず、この戦いは永遠に続くのではないかとさえ思えたが。
トウヨウの振り下ろした両手剣にムツヤは右拳を叩き込む。その瞬間、両手剣は殴られた所を中心に真っ二つに折れてしまった。
「はーい、武器が破損したので試合しゅうーりょー」
戦いはあっけなく終わってしまった。トウヨウは折れた剣を見てハハハと大声で笑う。
「す、すみません。剣折っちゃって!!」
ムツヤは慌てて剣をしまいトウヨウの元へと駆け寄る。
「いや、良いんだ。見事な技だ、初めて見た」
トウヨウは折れた剣を鞘に戻して、改めてムツヤの方を見て言う。
「ムツヤ、お前の強さは分かった。改めて翼竜の討伐を依頼したい」
ムツヤは体の奥からじんわりとした高揚感を感じながら元気よく返事をする。
「はい!!」
トウヨウとの戦いの後、ムツヤ達は街を歩いていた。翼竜討伐の準備をするためだ。
翼竜の居る山までは歩いて2日はかかる、そこまでの食料品や雑貨類などを調達していた。
本当は昨日のキエーウの襲撃の件があり、皆疲れているので1日休みを入れてから向かいたかったが、急がなくては行けない理由がある。
それは国の軍より先に倒さねばならない事ともう一つ。
翼竜の習性として、巣を作り上げると『つがい』を探し始め、見つかった後は巣に卵を生んで2匹で育てるのだ。
つまり、単純に2匹の翼竜を同時に相手しなくてはならなくなり、倒すことが数倍難しくなる。
本来ならば山奥のような、人里から離れた場所に巣を作るのだが、稀にこうして人里近くに巣を作る翼竜が出てきてしまう。
翼竜は肉食のため家畜や人も食べてしまうので、巣を作り始めたら完成する前に倒してしまうのが基本だ。
各々準備が済んだようでスーナの街の外で集合した。そこでアシノは最終確認をする。
「翼竜は知っての通り危険だ、命を落とす可能性もある。だが、自分の身は自分で守ってもらう。正直言って私はユモトとモモにはまだ荷が重すぎると思うが……」
そうだ、ユモトとモモにはまだ荷が重すぎる依頼だ。だが、キエーウに人質に取られる事を考えると街に残しておくのも危険だ。
トウヨウは2人ぐらいならば冒険者ギルドで護衛を付けて保護するとも言っていたが、二人は首を縦に振らなかった。
「僕は覚悟しています! まぁサポートの魔法ぐらいしかできませんが……」
「私も同じ気持ちです」
二人の返事を聞いてアシノはフッと笑う。
「それじゃあいっちょ翼竜退治に行くか」
スーナの街から山を目指す6人の人影があった。
先頭はオークの女だ。恐ろしい切れ味の剣で襲い来る巨大コウモリやクモを真っ二つに切り裂いている。
その後ろには魔術師が居た、剣が届かない高さのモンスターを火や雷で撃ち落としている。倒しそこねた敵は少女が木の杭を投げて撃ち落としていた。
「モモちゃんは裏の武器を使っているけど、それを抜きにしても二人共成長はやいねー」
ルーはパチパチとモモとユモトに拍手を送る。
「あ、はい、ありがとうございます」
「ルー殿のご指導のおかげです」
ユモトは照れながら頭を下げ、モモは剣を鞘に収めて言った。
ムツヤは最後尾で探知盤とにらめっこをしている。
万が一にもキエーウが裏の道具を奪いに来ないか警戒のためと、コイツを先頭にすると歩いているだけでモンスターを蹴り飛ばし、手で払っただけで粉々にしてしまうからだ。
モモとユモトを早く1人前の冒険者にしようと考えているアシノの提案で、翼竜討伐に遅れない範囲で二人に前衛を任せている。
「そろそろ日も暮れてくるな、野営の準備をしよう」
アシノがそう言うと全員が返事をしてムツヤのカバンからテントを取り出す。
開けば家が出てくる魔導書もあるが、誰かに見られたらまずいのでテントで寝ることにした。
モモとユモトは料理当番で、残りはテントの設営だ。料理を作ってムツヤのカバンに入れてくれば楽だったのだが、急だったのでそんな準備をする時間は無かった。
「私もー限界!」
テントの設営が終わるとルーは倒れ込んで寝てしまった。前日寝ずの番をして今に至るのだから無理もない。
ヨーリィは迷い木の怪物から教わった結界を張っている。
マヨイギのように空間を結界で閉じ込めることは出来ないが、侵入者が来た場合すぐ察知できるようになるらしい。
「みなさーん、ご飯できましたよー」
しばらくすると、ユモトが大きい声で言った、それにつられて皆ぞろぞろと焚き火の前に集まる。
相変わらず美味い料理達を平らげると、疲れからか、みんな眠気に襲われた。
テントは2つあり、男女別だったが、ヨーリィは魔力の補給があるのでムツヤとユモトと一緒のテントで寝ることになる。
テントに入った後、ムツヤがやたら上機嫌だったのでユモトは質問をしてみた。
「ムツヤさん、何か良いことがあったんですか?」
するとムツヤは笑顔で答える。
「いや、こうして皆で歩いて旅をして、テントで寝るって憧れてた冒険みたいでちょっとワクワクしでしまっで」
「なるほど…… そうですね、こういう旅は僕も初めてなんですよ」
フフッと笑った後ユモトはすぅーっと眠りについた。
訓練用の木刀を持ち、ムツヤは体を伸ばして戦いに備える。ギルドマスターのトウヨウは目を閉じて精神を集中していた。
モモとユモトは固唾を飲んで見守り、ヨーリィは興味があるのか無いのかオレンジジュースを飲みながらぼんやりと眺めていた。
武器は木刀のみ、魔法の使用は無しの一般的な剣士の試合だ。両方が相当な実力者ということを除いては、だが。
「それでは準備は良いですね? 試合開始ー!」
ルーが威勢よく言うと同時にムツヤはトウヨウ目掛けて一直線に突っ走る。
縦に振り下ろされたムツヤの木刀はトウヨウの頭を捉えていた。
トウヨウはそれを木刀で受け止めると斜めに切り下ろすように反撃をする。ムツヤもそれを受け止め、身をよじって足元を狙う。
そんなやり取りが数回続いた時、突然バキィッという音がした。二人の持っていた木刀が同時に折れてしまったのだ。それを見てトウヨウは笑った。
「どうやら木刀では手合わせにもならんらしい」
笑いをやめるとトウヨウは真面目な顔をして言う。
「お前さえ良ければ、真剣でどうだ?」
ユモトとモモに緊張が走る、ムツヤは強いし、どんな傷でも治る薬はあったが、万が一という事もある。
「お互い鎧を着て、剣と魔法の使用も自由にしよう。恥ずかしい話、年甲斐もなく滾ってしまった」
「わがりまじた」
お互い準備をするために試合は中断になった。そして少しの時が経ち、両者は本気で戦うための格好になった。
トウヨウは青いフルプレートアーマーに身を包み、両手剣を持っている。ムツヤは軽装の鎧と、片手剣を持つ。
「それでは仕切り直してー…… 試合開始!」
トウヨウは鎧の重さを少しも感じさせない機敏な動きで迫る。軽々と両手剣を振り下ろすがムツヤは横っ飛びでそれをかわす。
そのままムツヤは胴を剣で横切りにしようとするが、両手剣で弾かれてさっと後ろに引く、その最中にも炎の玉を数十発も発射した。
トウヨウは左手に魔法無効化の術式を作り上げるとそれをかざして全ての火の玉を消し飛ばす。
モモは夢中でその戦いを見ている。不謹慎ながらムツヤが怪我をしたらどうしようという考えはどこかへ飛んでしまった。
実力者同士の戦いはこんなにも圧巻され、美しいものかと考えていた。
二人の剣戟により、闘技場には金属音が響いていた。両者一歩も譲らず、この戦いは永遠に続くのではないかとさえ思えたが。
トウヨウの振り下ろした両手剣にムツヤは右拳を叩き込む。その瞬間、両手剣は殴られた所を中心に真っ二つに折れてしまった。
「はーい、武器が破損したので試合しゅうーりょー」
戦いはあっけなく終わってしまった。トウヨウは折れた剣を見てハハハと大声で笑う。
「す、すみません。剣折っちゃって!!」
ムツヤは慌てて剣をしまいトウヨウの元へと駆け寄る。
「いや、良いんだ。見事な技だ、初めて見た」
トウヨウは折れた剣を鞘に戻して、改めてムツヤの方を見て言う。
「ムツヤ、お前の強さは分かった。改めて翼竜の討伐を依頼したい」
ムツヤは体の奥からじんわりとした高揚感を感じながら元気よく返事をする。
「はい!!」
トウヨウとの戦いの後、ムツヤ達は街を歩いていた。翼竜討伐の準備をするためだ。
翼竜の居る山までは歩いて2日はかかる、そこまでの食料品や雑貨類などを調達していた。
本当は昨日のキエーウの襲撃の件があり、皆疲れているので1日休みを入れてから向かいたかったが、急がなくては行けない理由がある。
それは国の軍より先に倒さねばならない事ともう一つ。
翼竜の習性として、巣を作り上げると『つがい』を探し始め、見つかった後は巣に卵を生んで2匹で育てるのだ。
つまり、単純に2匹の翼竜を同時に相手しなくてはならなくなり、倒すことが数倍難しくなる。
本来ならば山奥のような、人里から離れた場所に巣を作るのだが、稀にこうして人里近くに巣を作る翼竜が出てきてしまう。
翼竜は肉食のため家畜や人も食べてしまうので、巣を作り始めたら完成する前に倒してしまうのが基本だ。
各々準備が済んだようでスーナの街の外で集合した。そこでアシノは最終確認をする。
「翼竜は知っての通り危険だ、命を落とす可能性もある。だが、自分の身は自分で守ってもらう。正直言って私はユモトとモモにはまだ荷が重すぎると思うが……」
そうだ、ユモトとモモにはまだ荷が重すぎる依頼だ。だが、キエーウに人質に取られる事を考えると街に残しておくのも危険だ。
トウヨウは2人ぐらいならば冒険者ギルドで護衛を付けて保護するとも言っていたが、二人は首を縦に振らなかった。
「僕は覚悟しています! まぁサポートの魔法ぐらいしかできませんが……」
「私も同じ気持ちです」
二人の返事を聞いてアシノはフッと笑う。
「それじゃあいっちょ翼竜退治に行くか」
スーナの街から山を目指す6人の人影があった。
先頭はオークの女だ。恐ろしい切れ味の剣で襲い来る巨大コウモリやクモを真っ二つに切り裂いている。
その後ろには魔術師が居た、剣が届かない高さのモンスターを火や雷で撃ち落としている。倒しそこねた敵は少女が木の杭を投げて撃ち落としていた。
「モモちゃんは裏の武器を使っているけど、それを抜きにしても二人共成長はやいねー」
ルーはパチパチとモモとユモトに拍手を送る。
「あ、はい、ありがとうございます」
「ルー殿のご指導のおかげです」
ユモトは照れながら頭を下げ、モモは剣を鞘に収めて言った。
ムツヤは最後尾で探知盤とにらめっこをしている。
万が一にもキエーウが裏の道具を奪いに来ないか警戒のためと、コイツを先頭にすると歩いているだけでモンスターを蹴り飛ばし、手で払っただけで粉々にしてしまうからだ。
モモとユモトを早く1人前の冒険者にしようと考えているアシノの提案で、翼竜討伐に遅れない範囲で二人に前衛を任せている。
「そろそろ日も暮れてくるな、野営の準備をしよう」
アシノがそう言うと全員が返事をしてムツヤのカバンからテントを取り出す。
開けば家が出てくる魔導書もあるが、誰かに見られたらまずいのでテントで寝ることにした。
モモとユモトは料理当番で、残りはテントの設営だ。料理を作ってムツヤのカバンに入れてくれば楽だったのだが、急だったのでそんな準備をする時間は無かった。
「私もー限界!」
テントの設営が終わるとルーは倒れ込んで寝てしまった。前日寝ずの番をして今に至るのだから無理もない。
ヨーリィは迷い木の怪物から教わった結界を張っている。
マヨイギのように空間を結界で閉じ込めることは出来ないが、侵入者が来た場合すぐ察知できるようになるらしい。
「みなさーん、ご飯できましたよー」
しばらくすると、ユモトが大きい声で言った、それにつられて皆ぞろぞろと焚き火の前に集まる。
相変わらず美味い料理達を平らげると、疲れからか、みんな眠気に襲われた。
テントは2つあり、男女別だったが、ヨーリィは魔力の補給があるのでムツヤとユモトと一緒のテントで寝ることになる。
テントに入った後、ムツヤがやたら上機嫌だったのでユモトは質問をしてみた。
「ムツヤさん、何か良いことがあったんですか?」
するとムツヤは笑顔で答える。
「いや、こうして皆で歩いて旅をして、テントで寝るって憧れてた冒険みたいでちょっとワクワクしでしまっで」
「なるほど…… そうですね、こういう旅は僕も初めてなんですよ」
フフッと笑った後ユモトはすぅーっと眠りについた。