昔、王都に若い研究者が居た。彼はとても優秀だった。しかし出る杭は打たれるのが世の常だ。
「ギルドマスターに緊急の用事がある」
アシノはギルドの受付に言う。
普段だったらため息が返ってくるのだが、今回はただならぬ気迫を感じ「かしこまりました」と言うと受付嬢は奥へと引っ込んで行った。
それから数分たち、受付嬢が戻ってくる。
「お待たせ致しました、どうぞ応接室へ」
受付嬢に案内され、ギルドの応接室へと向かう。モモとユモトは少し緊張していた。扉が開かれると、ギルドマスターのトウヨウが待っていた。
アシノは簡単に昨日のキエーウによる襲撃について話をした。すると腕を組んでうーんとトウヨウは唸る。
「そうか、キエーウも本気で裏の道具を奪いに来ているか。悪かった、俺は少々事態を甘く見ていたようだ」
重苦しい空気が応接室に立ち込める。しばらくして沈黙を破ったのはアシノだった。
「そうだ、じいちゃん。これがさっきも話した探知盤だ」
そう言ってムツヤから探知盤を取り上げて机の上に乗せる。
「ムツヤによれば改良すれば遠くの裏の道具の場所までわかるらしい」
「なるほどな」
トウヨウは探知盤を手に取り、まじまじと見ていた。
「ちゃんとした研究員が居ればこの探知盤の謎も解けるかもしれませんね、例えば王都の研究員とか」
ルーが言った瞬間トウヨウの顔が険しくなる。
「ギルスか」
「そう、ギルスです」
トウヨウは額に手をおいてまた唸った。
モモは何となくギルドマスターはギルスに良い印象を持っていないことを察する。
「アイツは何度も冒険者ギルドへと勧誘したが、決して首を縦に振らん男だぞ」
ルーはウィンクをしてトウヨウに言葉を返す。
「大丈夫ですよ、研究者として裏の道具を見せつけられたら飛び付いて仲間にしてくれって懇願しますよ、きっと」
「しかし、裏の道具の存在を話した上で仲間にならないとしたらどうする? 裏の道具の存在が一般人に知られてしまう事になるぞ」
そんなトウヨウを見てまどろっこしい事が嫌いなアシノがしびれを切らして話す。
「そん時は私が脅してでも話せないようにしてやる。裏の道具は危険だ、すぐにでも回収をするべきだ」
トウヨウは横目でジロリとアシノを見ると、ふぅとため息をついて宣言をする。
「わかった、ギルスを仲間に引き入れてこい」
「任せとけじいちゃん」
アシノはニヤリと笑い、お茶を飲み干して立ち上がった。
ムツヤ達はギルスの店の前に来ていた。先頭に立つアシノが戸を開けるとドアチャイムのカランコロンという音が出迎えてくれる。
「はーい、いらっしゃ…… って赤髪の勇者!? それにルーも!?」
「その呼び名はやめてくれ、久しぶりだなギルス」
「今日こそ私の助手になってもらうわよ!!!」
アシノの後からぞろぞろと入ってくるムツヤ達を見てギルスは更に動揺する。
「なんだなんだ?」
「ギルスさんこんにちは」
ひょっこりとムツヤは顔を出して挨拶をした。その隣にはモモも居る。見知った顔に出会えて少しギルスは安堵した。
「おぉ、こんにちはって…… これ、どういう状況なの?」
質問に答えもせず、アシノはギルスの元へ歩み寄り、顔を近付けた。
「私は交渉が苦手でな、単刀直入に言う。私達の仲間になればギルドで珍しい道具の研究ができるぞ、力を貸して欲しい」
ギルスは表情1つ変えずに返す。
「お断りだ」
アシノとルーは目で会話をし、ルーはムツヤの肩に手を乗せた。
「これを見てもそんな事言えるのかしら?」
ムツヤは背負っていた剣を抜刀した、流石のギルスも「おいおい」と焦る。
「何だ、冒険者ギルドはこうやって人を脅す集団なのか?」
「ギルスさん、脅しているわけではないです。見ていて下さい」
ムツヤが魔力を込めると剣から熱気と炎が溢れ出す。ギルスは目を丸くしてそれを見た。
だが、まさかと思う。
「『魔剣ムゲンジゴク』のレプリカでごっこ遊びかい?」
そうだ、ムツヤはこの店で魔剣ムゲンジゴクのレプリカを手に入れていた。ギルスは何かトリックがあると考える。
「剣に油でも塗ったか、魔法で炎が出てるように演出してるか、まぁそんな所だろう。子供だましも良い所だね」
ムツヤは剣を鞘に戻すと背中から下ろし、ルーに預けた。
「本物か偽物か、自分の目で確かめてみたら?」
そう言ってルーは机の上に魔剣ムゲンジゴクをゴトッと置いた。ギルスは全員をじろりと見ると剣を鞘から引き抜く。
先程まで炎をまとっていたはずなのに剣身は少しも熱くない、柄にある宝玉をルーペで確認しながら魔力感知紙を押し当てる。
思わず声が出そうになった、紙は一瞬で炭になり崩れ去る。こんな反応は見たことが無かった。
「どう? 興味湧いちゃったでしょ?」
ルーは両手を後ろに回して、前のめりになる形で顔を突き出した。いつも軽口を叩いているギルスは呆然としている。
「他にもモモちゃんが今持っているのは無力化の盾でしょ、それに私の新しい杖も名前はわからないけど魔力の伝導率は90%越えのすぐれものよー」
「ちょっと待ってくれ、状況に頭が追いついていない」
ギルスが頭を抱えるのも無理はなかった、今日も適当に武器を売り買いする平凡な日常が始まると思っていたら、とんでもない人物がとんでもない物を持ってきたのだ。
「とりあえず、話は聞く」
ギルスはカウンターを出て店のドアの営業中という看板をくるりと回して閉店にし、ガチャリと鍵も掛けた。
「えーっと、それで俺はどこから…… 何から話を聞けば良いんだ?」
もう何度目だろうかと思いながらムツヤは自分の生い立ちを話し始めた。
「ギルドマスターに緊急の用事がある」
アシノはギルドの受付に言う。
普段だったらため息が返ってくるのだが、今回はただならぬ気迫を感じ「かしこまりました」と言うと受付嬢は奥へと引っ込んで行った。
それから数分たち、受付嬢が戻ってくる。
「お待たせ致しました、どうぞ応接室へ」
受付嬢に案内され、ギルドの応接室へと向かう。モモとユモトは少し緊張していた。扉が開かれると、ギルドマスターのトウヨウが待っていた。
アシノは簡単に昨日のキエーウによる襲撃について話をした。すると腕を組んでうーんとトウヨウは唸る。
「そうか、キエーウも本気で裏の道具を奪いに来ているか。悪かった、俺は少々事態を甘く見ていたようだ」
重苦しい空気が応接室に立ち込める。しばらくして沈黙を破ったのはアシノだった。
「そうだ、じいちゃん。これがさっきも話した探知盤だ」
そう言ってムツヤから探知盤を取り上げて机の上に乗せる。
「ムツヤによれば改良すれば遠くの裏の道具の場所までわかるらしい」
「なるほどな」
トウヨウは探知盤を手に取り、まじまじと見ていた。
「ちゃんとした研究員が居ればこの探知盤の謎も解けるかもしれませんね、例えば王都の研究員とか」
ルーが言った瞬間トウヨウの顔が険しくなる。
「ギルスか」
「そう、ギルスです」
トウヨウは額に手をおいてまた唸った。
モモは何となくギルドマスターはギルスに良い印象を持っていないことを察する。
「アイツは何度も冒険者ギルドへと勧誘したが、決して首を縦に振らん男だぞ」
ルーはウィンクをしてトウヨウに言葉を返す。
「大丈夫ですよ、研究者として裏の道具を見せつけられたら飛び付いて仲間にしてくれって懇願しますよ、きっと」
「しかし、裏の道具の存在を話した上で仲間にならないとしたらどうする? 裏の道具の存在が一般人に知られてしまう事になるぞ」
そんなトウヨウを見てまどろっこしい事が嫌いなアシノがしびれを切らして話す。
「そん時は私が脅してでも話せないようにしてやる。裏の道具は危険だ、すぐにでも回収をするべきだ」
トウヨウは横目でジロリとアシノを見ると、ふぅとため息をついて宣言をする。
「わかった、ギルスを仲間に引き入れてこい」
「任せとけじいちゃん」
アシノはニヤリと笑い、お茶を飲み干して立ち上がった。
ムツヤ達はギルスの店の前に来ていた。先頭に立つアシノが戸を開けるとドアチャイムのカランコロンという音が出迎えてくれる。
「はーい、いらっしゃ…… って赤髪の勇者!? それにルーも!?」
「その呼び名はやめてくれ、久しぶりだなギルス」
「今日こそ私の助手になってもらうわよ!!!」
アシノの後からぞろぞろと入ってくるムツヤ達を見てギルスは更に動揺する。
「なんだなんだ?」
「ギルスさんこんにちは」
ひょっこりとムツヤは顔を出して挨拶をした。その隣にはモモも居る。見知った顔に出会えて少しギルスは安堵した。
「おぉ、こんにちはって…… これ、どういう状況なの?」
質問に答えもせず、アシノはギルスの元へ歩み寄り、顔を近付けた。
「私は交渉が苦手でな、単刀直入に言う。私達の仲間になればギルドで珍しい道具の研究ができるぞ、力を貸して欲しい」
ギルスは表情1つ変えずに返す。
「お断りだ」
アシノとルーは目で会話をし、ルーはムツヤの肩に手を乗せた。
「これを見てもそんな事言えるのかしら?」
ムツヤは背負っていた剣を抜刀した、流石のギルスも「おいおい」と焦る。
「何だ、冒険者ギルドはこうやって人を脅す集団なのか?」
「ギルスさん、脅しているわけではないです。見ていて下さい」
ムツヤが魔力を込めると剣から熱気と炎が溢れ出す。ギルスは目を丸くしてそれを見た。
だが、まさかと思う。
「『魔剣ムゲンジゴク』のレプリカでごっこ遊びかい?」
そうだ、ムツヤはこの店で魔剣ムゲンジゴクのレプリカを手に入れていた。ギルスは何かトリックがあると考える。
「剣に油でも塗ったか、魔法で炎が出てるように演出してるか、まぁそんな所だろう。子供だましも良い所だね」
ムツヤは剣を鞘に戻すと背中から下ろし、ルーに預けた。
「本物か偽物か、自分の目で確かめてみたら?」
そう言ってルーは机の上に魔剣ムゲンジゴクをゴトッと置いた。ギルスは全員をじろりと見ると剣を鞘から引き抜く。
先程まで炎をまとっていたはずなのに剣身は少しも熱くない、柄にある宝玉をルーペで確認しながら魔力感知紙を押し当てる。
思わず声が出そうになった、紙は一瞬で炭になり崩れ去る。こんな反応は見たことが無かった。
「どう? 興味湧いちゃったでしょ?」
ルーは両手を後ろに回して、前のめりになる形で顔を突き出した。いつも軽口を叩いているギルスは呆然としている。
「他にもモモちゃんが今持っているのは無力化の盾でしょ、それに私の新しい杖も名前はわからないけど魔力の伝導率は90%越えのすぐれものよー」
「ちょっと待ってくれ、状況に頭が追いついていない」
ギルスが頭を抱えるのも無理はなかった、今日も適当に武器を売り買いする平凡な日常が始まると思っていたら、とんでもない人物がとんでもない物を持ってきたのだ。
「とりあえず、話は聞く」
ギルスはカウンターを出て店のドアの営業中という看板をくるりと回して閉店にし、ガチャリと鍵も掛けた。
「えーっと、それで俺はどこから…… 何から話を聞けば良いんだ?」
もう何度目だろうかと思いながらムツヤは自分の生い立ちを話し始めた。