それからしばらくして全員の着替えが終わる。ユモトはいつものローブの前に肩掛けの青いエプロンを付け、頭には三角巾を巻いていた。

 ヨーリィはトコトコと恥じらいもなくムツヤ達の元に歩いてきた。長い黒髪と白い肌がメイド服の白黒と絶妙に合っている。

「どうですか? お兄ちゃん」

「すごく良く似合っでるよ」

 笑顔でムツヤが言うが照れるでも喜ぶでもなしに「そうですか」と抑揚のない声でヨーリィは言うだけだった。

 ルーはセミロングの銀髪とメイド服の取り合わせで絵本に出てくる主人公の女の子のようだ。

「何かこのメイド服着ると無性に掃除がしたくなるんだけど、そういう効果でもあるの?」

「それはわからないでずね」

 モモは扉から顔だけをちょこんと出してムツヤを見ている。

「あ、あの、あの絶対に笑わないで下さいよ!?」

「大丈夫でずって」

「絶対ですからね!」

 そう言ってモモは姿を表した、モジモジと恥じらいながら下を向いている。

 栗色の髪はいつものように後ろで一本に束ねていた。

「なーんだ、似合ってますよ可愛いじゃないですか!」

「かっか、かわっ」

 モモは顔から湯気が出そうだった。





 それから数時間が経つ。ユモトは淡々と鼻歌交じりに掃除をしていた。

 モモとヨーリィはムツヤのカバンから引っ張り出されたメイド服を着て掃除をしている。

 背が低いヨーリィが背伸びをして高い所を一生懸命に掃除をしている様は可愛らしい少女と言った感じだ。

 雑用が嫌いなアシノは「外の警戒をしている」とサボる口実を見付けてビンのフタを飛ばして戦う訓練をしていた。

 外からパンパンとビンのフタが飛び出す音がしている。

 そしてムツヤは地下に居た。

 メイド服を着たルーは笑顔でウキウキしながらムツヤのカバンの中の物をルーペで眺めたり、ガラスのビンの中に移したり火にかけたりと大忙しだ。

 彼女は召喚術師だったが、若いながらも実力を持ち、今は冒険者ギルドの幹部兼ダンジョンで拾われた魔法道具の研究を生業としていた。

「いやー、まさか裏ダンジョンのアイテムを研究できるなんてね。感謝感謝」

 ルーは隣に居るムツヤにそう言う。ムツヤは頭をかきながらハハハと苦笑いをし、青い薬と赤い薬を混ぜているルーを見ている。

「それと、まだちゃんと鑑定も実験もしてないから何とも言えないんだけど、このメイド服ってもしかしたら家事スキルが上昇する気がするんだよねー。私って片付け苦手だから、ここではずっと着てようかしら」

 そう言ってルーは振り返ると小さくムツヤにウィンクをする。その小悪魔的な仕草にムツヤは一瞬ドキリとした。

「ムツヤさーん、ちょっと良いですかー?」

「あ、はーい」

 上の階からユモトの呼ぶ声がしてムツヤは階段を上がる、地下室の出口ではユモトが笑顔で待っていた。

「ムツヤさん、街を出るときに気付いていればよかったんですが、数日分の食料と、皆さんが欲しい物を買いに行きませんか?」

「あー、そうでじたね」

 ムツヤのカバンには魚やモンスターの肉等はたくさん入っているが、小麦粉や麺といった主食になるものや調味料は少ない。

「それじゃあ買い物に行きましょうか!」

「はい!」

 笑顔で答えるユモトと外へ出る前に、モモとヨーリィに話しかけた。

「モモさん、ヨーリィ、買い物に行くけど何か必要なものはありまずか?」

 モモはムツヤを見るなり腕を前で組み、ムツヤから視線を外して恥ずかしそうにしている。