「ギルドでは『世界を滅ぼしかねない能力』を手に入れたから…… それを使えなくて悲劇の勇者って事になってたはずですが…… そういう事だったんですね」

 ユモトは怒らせないかと恐る恐る言ってみたが、アシノはコップを手で持ったまま下を向いていた。

「私のことは話し終えた、ムツヤだっけか? お前が裏の住人と言われていたことと、あの急に現れた裏ダンジョンの主とやらについて話せ」

「……わがりましだ」

 ムツヤはポツポツと自分の生い立ちを語り始めた、ところどころモモやユモトも注釈を入れ、大体のことはアシノに伝わったらしい。

「なるほどな、つまりお前は別の世界、裏ダンジョンの近くから来たというわけだな」

「はい、そういう事だと思います」

 アシノは持っていたグラスを置いてそれを見つめながら言う。

「私も冒険者として結構やってきた、だから裏ダンジョンやそれに近い存在の噂は聞いたことがある」

「そうなんでずか?」

 ムツヤはアシノを見て言う、それに対してアシノは「あぁ」と素っ気なく返した。

「それで、お前はこれからどうするんだ? アイツから裏の道具を取り返しに行くのか?」

「はい、あいつ達、えーっとキエーウは人間以外の…… オークや…… 後はわかりませんがとりあえず誰かを殺そうとしているんです」

 ムツヤは身を乗り出して続けて言う。

「しかも、それが俺の道具を使ってなんてどうしても止めなきゃダメだと思うんです!」

 フフッとアシノは正義感に燃えるムツヤを笑った。バーの薄暗い明かりに照らされたアシノの横顔はどこか遠くの、別の記憶を思い出している様だ。

「まぁせいぜい頑張ってくれよ、ムツヤ」

「あの、アシノさん! そ、その、ムツヤさんのお手伝いを…… していただくわけには……」

 思い切って言ってみたユモトだが言葉尻は小さくすぼんでいた。そんなユモトを横目で見てアシノは一言。

「ダメだね」

 そう言った。次にモモがアシノに食い下がる。

「しかし、ムツヤ殿の秘密を知っていて、なおかつベテランの冒険者でもあるアシノ殿にご助力頂ければ非常に心強いのです、どうか」

「面倒事に巻き込まないでくれ。断る理由は2つある。私の能力は戦いどころか家でワインでも飲みたくなった時ぐらいにしか役に立たない。そして、もう1つはお前達にそこまで親切にしてやる義理がない」