全員がえぇー!? っと驚いた。だが確か森を抜ける時にヨーリィの過去について軽く質問をした時、自分は奴隷だったと言っていた。

 奴隷制があった頃から生きていると考えれば自分達よりも年上だ。

「そ、そっかー、あとお姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんなんだけど……」

「ですがギルドは子供に酒を提供してくれません、見た目がこれで身分証も無いとなると……」

「ヨーリィちゃん。ジュースで大丈夫かな? オレンジジュース! 美味しいよ?」

「じゃあそれで」

 表情を変えないままヨーリィは言った。ユモトは申し訳なさそうにごめんねと言った後にハッと気付く。

「年上って事はヨーリィさんって言わないとダメでしたか!?」

「いいえ、その辺りは気にせず今までどおりでお願いします」

「とりあえず注文をしてしまおう」

 モモはそう言って店員を呼んだ、しばらくすると「お待たせいたしましたー」と先に飲み物と軽いつまみが届けられる。

「それじゃあ乾杯しましょうか!」

「ふふっユモト、何だか今日はいきいきとしてるな」

 モモの言う通り、いつもは控えめなユモトのが今日はやたらと積極的だ。言われてユモトは顔を赤くして言った。

「あの、僕って3年ぐらい病気で寝ていたんで、仲間とこうしてお酒を飲むって初めてなんですよ」

「それじゃあ俺といっしょですね」

 ムツヤも酒を仲間と飲むのは初めてだ。

 拾った外の世界の本でこういう事があることだけは知っていたが、実際に飲むとなると感慨深く、一歩夢に近付いた気がする。

「初めてにしてはやけに酒に詳しかった気がするが」

「お父さんがよくお酒を飲んでいたのでそれで知識だけは……」

「なるほどな、とりあえず乾杯をしてから話をしようか。ユモト頼んだ」

 分かりましたと言ってユモトが高くワイングラスを上げる。それに合わせて皆もそれぞれグラスを高く上げた。

「では、かんぱーい!」

 カチンカチンとグラス同士がぶつかり小気味よい音を立てた。ムツヤは恐る恐るコーヒーミルクを飲んでみる。

「あっ、あまぐでおいしい! ユモトさん美味しいですよこれ!」

「ははは、よかったですね」

 そう言ってユモトは上品にワインを飲んだ。モモはウィスキーをクイクイと飲み、ヨーリィはちびちびとオレンジジュースを飲む。

「これも美味しいですよ」

 ムツヤはおつまみとして出てきたサラミを食べる、ユモトもチーズに手を伸ばした。

 仲間たちの笑顔を見たモモは酒もたまには良いものだなと思い飲んでいた…… はずだった。

「ムツヤさーん! モモさーん! ヨーリィちゃーん! 飲んでますかー?」

 ユモトは普段の大人しさはどこへやら、ワインのボトルを片手に持って叫んでいる。そしてムツヤは何故か号泣している。

「うええええユモトさん、俺は本当にハーレムを作るごどができるんですが」

「大丈夫れす、きっとムーツヤさんになら出来ますよぉ」

「ユモトさん」

「ムツヤさん」

 そう言ってムツヤはユモトに抱きついた。ユモトはよしよしと抱きしめたまま頭を撫でる。どうしてこうなったと、モモは頭を抱えた。

「ムツヤ殿は泣き上戸で、ユモトは陽気になるんだな……」

「モモさん、俺は立派なハーレムを作ってみせますよ」

 ギルドの新参者なのにこんなに騒いで周りに目をつけられないか心配だったが、周りも大概騒がしかったので大丈夫そうだった。

「ムツヤ殿、人前でハーレムと騒いだらダメだと言ったではないですか」

「ごめんなさいモモさん捨てないでぐださい」

「うっ……」

 酔っ払っているとはいえ、子犬のように覗き込んでくるムツヤを見てモモは照れて顔をそむける。

「わ、私はムツヤ殿の従者です。ムツヤ殿が私を必要としなくなるまでお側にいますよ」

「それじゃあ一生ずーっと一緒に居てくれるって事ですね、やったー!!!」

 モモは飲んでいたウィスキーを口から吹きそうになった。酔ってもあまり顔に出ないモモだったがそれとは別で顔が火照ってしまう。

「ムツヤ殿酔い過ぎです! それにそういう恥ずかしいことはその」

「やっぱりモモさんは俺と一緒に居たくないんだ!!うわああああ」

「大丈夫れすムツヤさん、僕はずっとムツヤさんと一緒れすお!!」

「ユモトさん」

「ムツヤさん」

 2人は見つめ合ってまたムツヤがユモトに抱きついた、これ以上は何かがまずいとモモが止めに入ろうとしたその瞬間。

 火のような赤髪の女がドンとジョッキをカウンターに叩きつける、するとムツヤ達だけではなく冒険者ギルドの食堂に居る他の客にも一瞬の静寂が訪れる。

「ったく、イチャついて馬鹿騒ぎしてんじゃないよ」

 女はそう言ってムツヤとユモトを睨みつける。が、2人の勢いは止まらなかった。