ムツヤの剣は迷い木の怪物の喉元でピタリと止まった。
「降参しろ!!」
一瞬、怪物は自分は何を言われたのかわからなかった。降参をしろ? 生け捕りにするつもりだろうか。
「強いみたいだけど本当ぬるいのね、あなたって」
怪物は地面から根っこを伸ばしてムチのようにムツヤを殴打した。鎧にバチンとぶつかり良い音がなる。
そして、背後では真っ二つに切られたヨーリィが再生し、モモとユモトと交戦中だった。
「人間と魔物の戦いはどちらかが死ぬまで終わらないの、さぁ殺し合いましょう」
覚悟を決めたのかムツヤは根っこを切り払い、本体に斬りかかるが、死の息で目眩ましをされる。
怪物も怪物で根っこでムツヤを絞め殺そうとするも、魔剣で燃やされ苦戦をしていた。
そんな時だった。ヨーリィと呼ばれている少女が突然地面に崩れ落ちた。それを見て怪物は声を上げる。
「ヨーリィ!! それ以上はダメッ!」
魔力切れだ、このままではヨーリィの体は全て枯れ草になってしまう。
怪物はメキメキと木から飛び出して少女の元へと向かおうとするが、ムツヤが行く手に立ちはだかる。
「わかった、降参でも何でもするからその子を助けさせて!!」
怪物の必死な様子にムツヤは戸惑うが、返事をする前に怪物はヨーリィの元へと走っていき、後ろから体を抱きしめた。その場にいる全員がその光景を黙って見ていた。
「ヨーリィ、いい子だから…… よく頑張ってくれたね」
怪物は青白く光る、魔力を分け与えているのだろう。薄っすらと目を開く。
「マヨイギ様……」
どんどん体が枯れ葉になっていく、そこで藁にもすがる思いで怪物は3人の敵達に取引を持ちかける。
「私はあなた達を殺そうとした。だから殺される覚悟も出来ているわ」
そう言って立ち上がった姿はA級クラスの魔物らしく凛として美しさすらあった。
「私達はお前に勝てない、だけどこの子は見逃して。迷い木は生け捕りにすれば死体の何倍もの値が付くんでしょう?」
モモは罠だと思った。話す魔物は狡猾で話を聞いてはいけないことは常識だ。しかしムツヤはそう思わなかったようだ。
ムツヤは2人に歩み寄るとヨーリィの手を握り、規格外の魔力を注入した。目が完全に開いたヨーリィは飛び起きてムツヤに杭を投げようとする。
「ヨーリィ!! もういい、もういいの!!!」
マヨイギがそう言うとヨーリィはピタリと止まった。
「それで、あなた達の狙いは私でしょ?」
「えーっと、俺はこの森から出られればそれで良いんだけども」
「は?」
怪物は拍子抜けして間抜けな声が出る。
てっきり新米冒険者のフリをして自分を狩りに来た熟練の冒険者だと思い、結界まで作って殺そうとしたのだが、それは勘違いだったらしい。
「ムツヤ殿、その怪物は売ればおそらく良い値段になりますが…… まぁ私達が倒したなんて言ったら当然信じてもらえないでしょうね」
モモは進言するもムツヤは両腕を組んでうーんと考えていた。そんな時にムツヤのペンダントが光り、裏ダンジョンの主サズァンが出てきた。
「ムツヤー心配したのよ? 結界に邪魔されてて!!」
「サズァン様!?」
怪物はぽかんとしていたが、お構いなしにサズァンは続ける。
「私ね、いい取引を思いついちゃったのムツヤ! その怪物は私の世界で預かるわ! 私の開いた結界の隙間は魔物か道具なんかの生きていない物しか通ることが出来ないんだけど、そこの怪物だったらこっちで保護してあげるわ!」
状況を飲み込めない怪物だが、話している相手は自分より遥かに格上の存在だということは理解できた。
「あなた、ムツヤを殺そうとしたことは水に流してあげる。その代わりヨーリィって子の主人をムツヤにしてあげなさい。そうすればあなたは冒険者に襲われない世界で生きることが出来るわ」
マヨイギは考えていた。自分はどうなろうと構わないが、ヨーリィだけが心配だった。そこにダメ押しでサズァンが誘惑をする。
「その子、ムツヤの魔力を注入し続けたら感情を取り戻せるかもしれないわよ? っていうか後1分ぐらいしか持たないから早く決めちゃって」
マヨイギの心は揺らいだ、ヨーリィが人らしい生活を出来るのであれば任せても構わないが、昨日今日会った人間に託すことはどうしても渋ってしまう。
「私がこの方に付いていけば、マヨイギ様の身の安全は保証されるのですね?」
横からヨーリィが口を挟むと、サズァンは親指を立てて「オールオッケー!」と言い放った。
「どうか、マヨイギ様をよろしくおねがいします」
「ちょっ、ちょっと待って」
マヨイギはそう言ったのだが……
「ちょっと待てなーい」
サズァンが空間を開くと、暗闇の中にマヨイギは「あああああぁぁぁ」と絶叫をしながら吸い込まれていった。
「本当にマヨイギ様は無事なのですか?」
「任せなさい! あ、それじゃまたねー」
今回もまた嵐のように来て去っていったサズァン。4人は取り残されて気まずい雰囲気になる。
「あ、あのー、ヨーリィさんですか? よろしくおねがいします」
意外にもずっと黙っていたユモトが1番最初に言葉を出した。
するとヨーリィはペコリと頭を下げて「よろしくおねがいします」と言い、その後ムツヤの目の前へと行く。
「あなたが新しい主人、ですね」
「えーっと、はい、そうみたいですね。俺は『ムツヤ・バックカントリー』って言います」
「ご主人様敬語はいりません。私はヨーリィと申します。よろしくおねがいします」
こうしてムツヤには半分死んでいるらしい少女が仲間に加わった。
(イラスト:ヒヨヨ先生)
「降参しろ!!」
一瞬、怪物は自分は何を言われたのかわからなかった。降参をしろ? 生け捕りにするつもりだろうか。
「強いみたいだけど本当ぬるいのね、あなたって」
怪物は地面から根っこを伸ばしてムチのようにムツヤを殴打した。鎧にバチンとぶつかり良い音がなる。
そして、背後では真っ二つに切られたヨーリィが再生し、モモとユモトと交戦中だった。
「人間と魔物の戦いはどちらかが死ぬまで終わらないの、さぁ殺し合いましょう」
覚悟を決めたのかムツヤは根っこを切り払い、本体に斬りかかるが、死の息で目眩ましをされる。
怪物も怪物で根っこでムツヤを絞め殺そうとするも、魔剣で燃やされ苦戦をしていた。
そんな時だった。ヨーリィと呼ばれている少女が突然地面に崩れ落ちた。それを見て怪物は声を上げる。
「ヨーリィ!! それ以上はダメッ!」
魔力切れだ、このままではヨーリィの体は全て枯れ草になってしまう。
怪物はメキメキと木から飛び出して少女の元へと向かおうとするが、ムツヤが行く手に立ちはだかる。
「わかった、降参でも何でもするからその子を助けさせて!!」
怪物の必死な様子にムツヤは戸惑うが、返事をする前に怪物はヨーリィの元へと走っていき、後ろから体を抱きしめた。その場にいる全員がその光景を黙って見ていた。
「ヨーリィ、いい子だから…… よく頑張ってくれたね」
怪物は青白く光る、魔力を分け与えているのだろう。薄っすらと目を開く。
「マヨイギ様……」
どんどん体が枯れ葉になっていく、そこで藁にもすがる思いで怪物は3人の敵達に取引を持ちかける。
「私はあなた達を殺そうとした。だから殺される覚悟も出来ているわ」
そう言って立ち上がった姿はA級クラスの魔物らしく凛として美しさすらあった。
「私達はお前に勝てない、だけどこの子は見逃して。迷い木は生け捕りにすれば死体の何倍もの値が付くんでしょう?」
モモは罠だと思った。話す魔物は狡猾で話を聞いてはいけないことは常識だ。しかしムツヤはそう思わなかったようだ。
ムツヤは2人に歩み寄るとヨーリィの手を握り、規格外の魔力を注入した。目が完全に開いたヨーリィは飛び起きてムツヤに杭を投げようとする。
「ヨーリィ!! もういい、もういいの!!!」
マヨイギがそう言うとヨーリィはピタリと止まった。
「それで、あなた達の狙いは私でしょ?」
「えーっと、俺はこの森から出られればそれで良いんだけども」
「は?」
怪物は拍子抜けして間抜けな声が出る。
てっきり新米冒険者のフリをして自分を狩りに来た熟練の冒険者だと思い、結界まで作って殺そうとしたのだが、それは勘違いだったらしい。
「ムツヤ殿、その怪物は売ればおそらく良い値段になりますが…… まぁ私達が倒したなんて言ったら当然信じてもらえないでしょうね」
モモは進言するもムツヤは両腕を組んでうーんと考えていた。そんな時にムツヤのペンダントが光り、裏ダンジョンの主サズァンが出てきた。
「ムツヤー心配したのよ? 結界に邪魔されてて!!」
「サズァン様!?」
怪物はぽかんとしていたが、お構いなしにサズァンは続ける。
「私ね、いい取引を思いついちゃったのムツヤ! その怪物は私の世界で預かるわ! 私の開いた結界の隙間は魔物か道具なんかの生きていない物しか通ることが出来ないんだけど、そこの怪物だったらこっちで保護してあげるわ!」
状況を飲み込めない怪物だが、話している相手は自分より遥かに格上の存在だということは理解できた。
「あなた、ムツヤを殺そうとしたことは水に流してあげる。その代わりヨーリィって子の主人をムツヤにしてあげなさい。そうすればあなたは冒険者に襲われない世界で生きることが出来るわ」
マヨイギは考えていた。自分はどうなろうと構わないが、ヨーリィだけが心配だった。そこにダメ押しでサズァンが誘惑をする。
「その子、ムツヤの魔力を注入し続けたら感情を取り戻せるかもしれないわよ? っていうか後1分ぐらいしか持たないから早く決めちゃって」
マヨイギの心は揺らいだ、ヨーリィが人らしい生活を出来るのであれば任せても構わないが、昨日今日会った人間に託すことはどうしても渋ってしまう。
「私がこの方に付いていけば、マヨイギ様の身の安全は保証されるのですね?」
横からヨーリィが口を挟むと、サズァンは親指を立てて「オールオッケー!」と言い放った。
「どうか、マヨイギ様をよろしくおねがいします」
「ちょっ、ちょっと待って」
マヨイギはそう言ったのだが……
「ちょっと待てなーい」
サズァンが空間を開くと、暗闇の中にマヨイギは「あああああぁぁぁ」と絶叫をしながら吸い込まれていった。
「本当にマヨイギ様は無事なのですか?」
「任せなさい! あ、それじゃまたねー」
今回もまた嵐のように来て去っていったサズァン。4人は取り残されて気まずい雰囲気になる。
「あ、あのー、ヨーリィさんですか? よろしくおねがいします」
意外にもずっと黙っていたユモトが1番最初に言葉を出した。
するとヨーリィはペコリと頭を下げて「よろしくおねがいします」と言い、その後ムツヤの目の前へと行く。
「あなたが新しい主人、ですね」
「えーっと、はい、そうみたいですね。俺は『ムツヤ・バックカントリー』って言います」
「ご主人様敬語はいりません。私はヨーリィと申します。よろしくおねがいします」
こうしてムツヤには半分死んでいるらしい少女が仲間に加わった。
(イラスト:ヒヨヨ先生)