「ムツヤ殿!! ムツヤ殿!!」

 モモは泣きそうな顔をしてムツヤを揺さぶり起こそうとした、ユモトが頑張って木の杭を防いでいるがそう長くは持たないだろう。

「も、もさ、大丈夫でしたか?」

「大丈夫です、私は大丈夫ですから」

 久しぶりの大怪我にムツヤは一瞬気を失いそうになったが、このままでは本当に死んでしまうとモモに指示を出す。

「モモさん…… これを抜いて、薬を」

 モモよりもムツヤの方が冷静だった。モモはそうだと思いだして木の杭を抜く、血が溢れ出てるが止血よりも先にムツヤから渡されていた薬を飲ませる。

「パップア!!」

 薬を飲ませた瞬間、短く奇声を発してムツヤは立ち上がった。傷がみるみる塞がっていくムツヤを見て怪物は驚く。

「なにそれ反則じゃない!?」

「久しぶりに死ぬかと思っだ……」

 そう言ってムツヤはユモトの防御壁の前に飛び出る。木の杭を投げまくる少女とそれを素手ではたき落としまくるムツヤのにらみ合いになった。

 やがてどこに仕込んでいたのかわからない量の杭を投げきってしまった少女は、ナイフを取り出してムツヤに斬りかかるが、手首をムツヤにガッチリと掴まれてしまう。

 しかし、掴んだ手首はカサカサと枯れ葉になって散る。

「なんだごれぇ!?」

 ムツヤが叫ぶと同時に、枯れ葉となって落ちた右手のナイフを左手で掴んで少女はムツヤの鎧の隙間から差し込もうとするが、それもムツヤは後ろに飛び退いて避けた。

「ムツヤさん、後ろの迷い木の怪物を倒せばその子も攻撃を辞めるはずです!」

「わがりました!」

 ムツヤは手から何発か火の玉を怪物に向かって打ったが、それは黒髪の少女が全て体で受け止めてしまう。

「ヨーリィ!! 無茶をしないで!」

 迷い木の怪物の言葉を無視して少女は戦い続けようとする。枯れ葉になって散った部分は自動で修復するのかすっかり元通りに戻ってしまった。

「ムツヤさん! その子はもう死んでいます、体だけを迷い木の怪物に操られているだけです!」

「死んでなんてない!」

 ユモトの言葉に対して怪物は声を張り上げた。

 そして、瞬間。

 静寂が訪れた。次に迷い木の怪物が見たのは隙を見て飛び出したオークによって真っ二つに切られたヨーリィとこちらに突っ込んでくる男だ。




 ヨーリィとマヨイギが出会って半年は立った頃。相変わらずマヨイギは森に居座り、生贄として出された少女は食べられずにいる。

 ヨーリィはマヨイギの木の下に座ったり、森をチョロチョロと散策してみたり。マヨイギは動物を魔法の罠にかけて狩りをしていた。

 怪物と奴隷は穏やかな日々を過ごしていたが、止まない雨も無いように、永遠に続くのどかな日々も存在しないのかもしれない。

 今でも覚えている。暖かな日差しのある日、ヨーリィの腹には穴が空いた。

「後は本体の怪物だけだ!」

 それをしたのは、マヨイギを討伐しに来た冒険者達だった。

 後で知った話だが、冒険者達はマヨイギがヨーリィを食べていないということは、洗脳の魔法で眷属にさせられたと考えていたようだ。

 マヨイギは初めて自分以外の存在が傷付けられて怒りを覚えた。

「皆殺しにしやる、お前達も村の人間どもも!!」

 冒険者たちをつるで絞め殺し、杭を心臓に打ち付け、風の魔法で顔を吹き飛ばし殺す。

 そのまま村へと下り、男や女や子供関係なく衝動に導かれるまま全員をありとあらゆる方法で殺した。

 こんな奴らがヨーリィを苦しめ、挙句の果てには殺したのかと思うとどうしようもないドス黒い感情が渦巻いてしまう。

 マヨイギは全員の亡骸を土の上に置いて養分と魔力を吸い上げ、たった1人の半死半生の少女の為に魔法を使う準備をした。

「っ、ああああ!!!!」

 薬になる自分の腹わたも切り取り少女の風穴にねじ込み、そして魔法を使う。

 結果から言えば少女は生き返ったが、代償として感情が希薄になってしまった。ヨーリィは動く、動くが、生きているかと言われれば答えられない。

 昔のような笑顔を見せることが無くなってしまい、定期的に魔力を注入しないと体が枯れ葉になり散り去ってしまう体になった。