地面を蹴り、ムツヤはサズァンへと飛びかかった。

 サズァンが黒炎の渦を手から吹き出し、ムツヤを焼き焦がそうとする。

 それを防御壁で防ぎ、無理矢理に距離を詰め、お返しとばかりに、電撃の槍を何本も降らせる。

 次々に来る槍を華麗に(かわ)して、サズァンは地面をダンッと踏む。

 床から尖る岩が現れ、ムツヤを串刺しにしようとしてきた。

 ムツヤは同じ様に地面を踏んで、魔法の妨害をする。

 上空へと飛び上がったサズァンが、暗黒の力で出来た剣をムツヤ目掛けて連続で降らせた。

 光魔法をムツヤが発射し、相殺させる。

 一進一退の攻防が続く。仲間達はそれを見ていることしか出来なかった。

 お互い魔法で牽制をし合っていたが、一瞬ムツヤにスキが生まれた。

 それを逃さず、サズァンは暗黒の剣を投げる。

「いっ!!!」

 ムツヤの左腕を剣が(かす)めた。傷口に黒いモヤの様な闇がまとわり付き、回復魔法を使っても傷が癒えない。

「ムツヤ殿!!」

 思わずモモが叫ぶ。ムツヤは気合を入れ直し、剣を構えて立つ。

「一気に行くわよ!!」

 サズァンは指をパチンと鳴らし、闇で創った剣や槍、斧といった武器を飛ばした。

 ムツヤはそれらを剣で弾き飛ばし、身をよじって(かわ)し、魔法で反射させ、なんとか凌ぐ。

 だが、それと同時にサズァンもこちらに走ってきていた。

 振り下ろされた剣は防げたが、魔力で強化された蹴りを腹に食らってしまい、ムツヤは壁に吹き飛ばされ、激突する。

「がっ、ぐっ」

 うまく息が出来ない。意識が遠のいていくのを感じた。

「どうやら、正しいのは私みたいね」

 スタスタとムツヤに歩いて近付くサズァン。

「心配要らないわ。私を含め、皆ですぐに死ぬから。寂しい思いはさせないわ」

 そのサズァンとムツヤの間に割り込む者が居た。モモだ。

「何のつもりかしら、モモ?」

「ムツヤ殿を殺させなんかしない!!」

 サズァンはため息を付く。

「あなたなんかじゃ足止めにもなりやしないわ。モモ、苦しまず楽に死にたいのならば大人しくしていなさい」

「いいえ!! 誰も殺させやしません!!」

 そして、仲間達もモモの周りに集まり、武器を構えた。

「そう、それじゃ痛いかもしれないけど恨まないでね」

 サズァンが剣を手に持ち、歩みを進める。

 剣を振り上げ、モモ目掛けて思い切り下ろした。

 そんなモモとサズァンの間に飛び込む人影。

 剣がぶつかり合う音が響く。

 ムツヤだ。

「ムツヤ殿!!」

 はぁはぁと荒い息をしながら、仲間達の前に立ち塞がる。

 無言のままサズァンは回し蹴りを放つが、避けられてしまう。

 飛び上がり、黒魔術の秘技である黒炎で辺りを焼き尽くした。

 ムツヤは地面に防御壁を張り、その上を駆けてサズァンに近付く。

 目に追えない速さで斬り合いが始まる。

 お互い途中で魔法を打ち、牽制しながら隙を伺う。

 サズァンにも疲れが見え始めてきた。

 好機ではあったが、体力を削られているのはムツヤも同じだ。

 間合いを取り、手を伸ばし、地面を踏みつけ、魔法のみの応酬戦になる。

 天変地異でも来たかのように、火、氷、雷、闇、光、ありとあらゆる魔法が乱れ飛ぶ。

「そろそろ終わりにしましょう? ムツヤ」

 サズァンがそう言って一気に距離を詰める。

 下から斬り上げた剣がムツヤの左腕を捉えた。

「っ、ぐあああああ!!!」

 ムツヤが叫びながら左腕を抑えようとする。

 しかし、そこには抑えるべき物が無かった。

 片腕は斬り落とされ、宙を飛び、地面に転がる。

「ムツヤ殿ぉぉぉ!!!!!」

「ムツヤ!!!」

「ムツヤさん!!」

「ムツヤっち!?」

 皆が一斉にムツヤの名を呼ぶ。

 隻腕になったムツヤは右手だけで剣を強く握っていた。

「次は首ね。ムツヤ、何か言い残したことはあるかしら?」

 冷酷に言うサズァン。ムツヤは叫ぶ。

「俺は、俺は負けない!!!」

「そう、それじゃ……」

 サズァンはムツヤの首目掛けて一直線に突きを繰り出した。



 ムツヤは全神経を集中させ、右腕にありったけの力を込める。

 剣を弾き飛ばし、そのままサズァンへ一直線に手を伸ばした。

「がっ」

 サズァンの口から息が漏れ出る。ムツヤは剣が肉を斬り裂く感触を手に感じ取った。

 ムツヤの魔剣はサズァンの胸に深々と刺さり、貫いている。

「どうやら、私の負けのようね……」

 先程までの剣幕が顔から取れ、寂しげで、優しい笑顔を向けるサズァン。

「サズァン様……」

 そんな彼女をムツヤは目を伏せて見ていた。

「ムツヤ、あなたに嫌な役目を押し付けてごめんね」

 そんな事を言うと、サズァンは前のめりに倒れ、ムツヤにもたれかかる。

 最後の力を出して、ムツヤを抱きしめていた。

「私は自分が正しいのか間違っているのか分からなかったわ。でも……、誰かに止めてほしかった……」

 ふふっと血を吐きながらサズァンは言う。

「ムツヤ、やっとあなたに触れられたわ」

「サズァン様!!」

 そう言われ、ムツヤの目から涙が流れ始める。

「さようならムツヤ。みんな、どうかムツヤをよろしくね……」

 サズァンの体がどんどん透き通っていき、光となり消えてゆく。

 そして、完全に消えてしまい。カランと音を立て突き刺さっていた魔剣が地面へ落ちる。

 それと同時に、激しい揺れが起きた。天井が崩れ始めている。

「え、何っ!? 地震!?」

 ルーが慌て、周りを見る。

「う、うわっ!!」

 ユモトは目の前に落ちてきた壁を見て後ずさった。

「塔の主様(あるじさま)が居なくなったからか!?」

 モモは急いでムツヤの左腕を回収し、本人へと手渡した。

 ムツヤが自己回復魔法で腕をくっつけると、アシノが叫ぶ。

「まずいぞ、お前ら!! 塔の外まで走れ!!」

「ちょっと、これ間に合うの!?」

 ムツヤは周りを見渡し、崩れた壁から光が漏れているのを見つけた。

 爆発する玉をそこへぶつけると、ぽっかり人が通れるぐらいの穴が空く。

「皆さん、ここから飛び降ります!!」

「い、いや、死んじゃうでしょこの高さ!!」

 ムツヤの言葉にルーはそう返す。

「大丈夫だ、そうだろ? ムツヤ」

 アシノの言葉にムツヤは元気よく返事をする。

「皆さん、これを背負ってください!!」

 ムツヤは道具を仲間達に手渡して言った。

「あらー、大きなリュックサック……。ってこれでどうするのよー!!!」

 ルーが言う通り、配られたそれはどう見ても大きなリュックサックだ。

「もっと空が飛べる羽とか、そういうの無いのー!?」

「ありません!! でも大丈夫です!!」

 揺れは更に激しくなる。モモは遠くの地表を見て足がすくんだが。

「私はムツヤ殿を信じています」

 そう言って飛び降りた。

「いやー!! モモちゃーん!!!」

「僕も行きます!!」

 あの臆病なユモトも覚悟を決めたらしく、飛んだ。

「ユモトちゃんまで!?」

 ヨーリィも続いて無言で飛び降りていった。

「ほら、つべこべ言わず来い」

「いーやー!!!!」

 アシノがルーの手を掴んで飛び降りる。その後をムツヤも追った。