魔人エィノキが待ち構えている枯れたダンジョンの前へ、勇者ソイローク達は辿り着く。

 入り口にはスケルトンやゾンビといった人形の魔物から、昆虫のような魔物まで、勢ぞろいだった。

「こりゃ選びたい放題だな」

 ソイロークはニヤリと笑って軽口を叩く。

「えぇ、行きますよ!」

 ニシナーはソイロークに身体強化の魔法を掛けた。それと同時に彼は飛び出す。

 詠唱を終えたサズァンが上空から真っ黒な剣の雨を降らせた。

 ざっくりと魔物の数を減らし、生き残った強い魔物をソイロークが斬り捨てていく。ニシナーも炎、氷、雷といった魔法を放ち援護した。

 入り口の魔物をあらかた倒し終え、いざ枯れたダンジョンへ踏み込もうとした時、ソイロークはふと歩みを止める。

「なんだ、お出迎えか」

 魔人エィノキが宙を飛んで、枯れたダンジョンの奥からやって来たのだ。

「貴様たちは勇者か?」

「あぁ、俺の名はソイローク。冥土の土産に覚えていってくれよ!!」

 そう言って、彼は魔人エィノキに斬り掛かった。

 分厚い防御壁で剣撃を弾き、勇者たちをエィノキは見下ろす。

「二つ良いことを教えてやろう」

 唐突にエィノキは語りだした。

「ひとつ、お前達は俺の目的を邪魔することが出来ない」

 そこまで言うと、エィノキは無数の光弾をソイローク向けて打ち下ろす。

 軽々とそれらを(かわ)してソイロークが見上げると、続けて言葉を出し始めた。

「もうひとつ、俺を倒した所で世界は平和になんかならない」

「そりゃ良いことを教えてもらった。どっちもお前の妄想だがな!」

 ニシナーとサズァンが援護で魔法を放つ。雷鳴を轟かせながら雷がエィノキの防御壁を削る。

 次に、ソイロークの重たい一撃で防御壁は音を立てて崩れた。

 エィノキは地上に降り立つと、剣を引き抜いてソイロークと対峙する。

「来い」

 挑発を受けてソイロークが飛び出した。剣と剣がぶつかり合う。

 斬り合いは僅かにソイロークが押していた。お互いにかすり傷が体に増えるが、致命傷にはならない。

 永遠に続くかと思われた一進一退の戦いは、唐突に終わる。

 ソイロークの力を込めた剣がエィノキの首を捉えて、斬り飛ばしたのだ。

 静寂が辺りを包む。息を切らせながらソイロークが言う。

「終わった……、のか?」

 首と胴が離れた魔人は動く気配もない。

「ついに、ついにやり遂げたのですね!」

 ニシナーが駆け寄りソイロークに言った。サズァンも少し気が緩んだその瞬間だった。

「娘、一つ良いことを教えてやろう」

 頭の中に響く声にサズァンは辺りを見渡した。遠くのソイロークとニシナーは声に気付いていないようだ。

「お前はこの世界に絶望する。その時、またここを訪れろ」

 声を聞いた後、サズァンは呆然とその場に立ち尽くしていた。

「サズァン? サズァン、どうしたんだ!? 怪我でもしたか?」

 遠くから駆け寄るソイロークとニシナー。ハッとして我に返るサズァン。

「い、いえ、今、魔人エィノキの声が……」

「魔人は死んだ。大丈夫だ!」

 ソイロークに言われ、確かにそうだと思ったサズァンは笑顔を作る。

「そうですね、そうですよね。ついに……。流石ですソイローク様、ニシナー様!!」

 三人は急いでこの吉報を知らせるために近くの街の冒険者ギルドへと帰ることにした。

 と言っても急いで三日は掛かる道。ひとまずその夜は野宿をする。

 皆で焚き火を囲んで座った。食事を終えるとソイロークが話し始める。

「これで、やっとこれで世界が平和になるんだな」

「えぇ、そうですね。ソイローク」

 ニシナーと共に、二人は緊張がほぐれた笑顔を見せていた。

「もう魔物に怯えなくてもいい。魔人による街の襲撃にも怯えなくてもいい。皆が平和に、幸せに暮らせるんだ」

「そう……、全て終わったのですね」

 翌日の日が昇る時、ソイローク達は出発した。そして、二日後、街に帰る。

 サズァンは一足先に宿屋へと向かった。ソイロークとニシナーは冒険者ギルドへと向かう。

 ソイロークはギルドのドアを開け、叫んだ。

「皆、やったぞ! 魔人エィノキは倒した!」 

 全員の視線がソイロークとニシナーへ向かう。一瞬間を置いて、理解した者達が立ち上がる。

「ほ、本当ですか……? 勇者ソイローク」

「あぁ、本当だ!!」

 ギルドからは歓声が上がり、皆がソイロークを称えた。

 知らせはあっという間に国中に広まる。

 王の元へ向かう間、寄る街の全てで皆がソイロークを暖かく迎えた。

 王都へ着く頃には、市民も兵士も総出で勇者ソイロークの凱旋を待っている。




「よくやった。勇者ソイロークよ」

「はっ!!」

 城内にある王の間でソイロークとニシナーは膝を付いて王と対面していた。

「さて、後日お前達を称える式典を開きたい」

「身に余る光栄でございます。ですが、今は一刻も早く国の復興に力を入れたいと思いますので……」

 ソイロークはそう言うが、王は話を遮る。

「勇者という存在は戦うだけでない。皆に希望を与えるのも仕事だ。皆がお前達をひと目見たいと思っている」

「左様でございますか……。それでしたら、謹んでお受けしたいと思います」