これは今から千年前のサズァンの記憶。
「よしっと、これで全部か」
魔物へ突き刺した剣を引き抜いて男が言う。
その男は短めの茶髪で、フルプレートアーマーを身に纏っていた。
「えぇ、終わりましたねソイローク」
そう声を掛けたのは、長い金髪で白を基調とした魔法使い服を着ている女だ。
デザインはそのままユモトが着ている服に似ていた。という事は、女はゴイチの一族の魔法使いだろう。
ソイロークと呼ばれた男は、後ろに立つ魔法使い達に声を掛ける。
「ニシナー、サズァン。今回も助かった」
「はい!」
ニシナーと呼ばれた女は笑顔を返す。その隣には褐色の肌と銀髪。サズァンが立っていた。
だが、見慣れたサズァンの格好とは違う。ニシナーとは対照的に、黒く長いドレスで、紫色のメイクをしていない。
「ソイローク様、ニシナー様、お疲れ様でした」
二人を様付けで呼んでいる所から、サズァンより上の立場なのだろう。
それもそのはずだった。ソイロークは勇者であり、ニシナーはゴイチで一番の魔法使いだ。
三人は魔人討伐のために旅をしていた。
「それでは、私はこの辺りで」
「いつもすまないな」
サズァンの言葉にソイロークはそう返す。
この時代は黒魔術師は魔人になる一歩手前だという偏見があり、黒魔術を使う一族の末裔であるサズァンは、戦いの時以外二人と距離を取って旅をしていた。
「いつかきっと、皆も分かってくれる日が来ます」
ニシナーはサズァンを勇気づける。
「俺が魔人エィノキを倒したら、皆も俺の話を聞いてくれるだろう」
二人とサズァンは魔人を追いかけ、その途中、とある街に滞在していた。
近くで魔人の目撃情報があるのと、魔物が活性化していたので数日魔物狩りをして過ごしている。
魔人と魔物のせいで国自体が疲弊し、貧しかった。この街も例外ではない。
「そこのお姉ちゃん!! 助けて!!」
サズァンがスラム街と化した街はずれで安宿を取ろうとしていたら、小さな女の子に声を掛けられた。
「どうしたの?」
「友達が死んじゃいそうなの!! 助けて!!」
「っ、わかったわ!」
ただ事ではない様子にサズァンは女の子の後を追い、スラムの奥へと入っていった。
やがて、細い路地に着くと、女の子はそこで待ち構えていた青年達の後ろへ隠れる。
「これは、どういう事かしら?」
「姉ちゃん、いい服着てるな。金を置いてってくれよ」
女の子は嘘をついていたらしい。最初からこうする事が目的だったのだ。
「痛いのは嫌だろ? 死にたくないだろ?」
青年達はナイフをチラつかせてサズァンの元へやってくる。
サズァンは少しも怖気ずに右手の人差し指をナイフへと向けた。
瞬間、氷柱が打ち出され、青年の手からナイフが弾かれる。
「っつ!!」
青年が思わず手を押さえると、体の力が抜け、痺れて動けなくなった。
あっという間に青年達の自由を奪うサズァン。一歩一歩と彼等に近付く。
すると、先程の女の子が飛び出てきた。
「や、やめろー!!」
ナイフを構えてそう叫ぶ。サズァンはゆっくりとしゃがみ、女の子と目線を合わせた。
「ごめんね、お金はこれしか渡せないわ。それと……」
サズァンは懐を漁って希少な甘味、飴玉の入った袋を取り出す。
「良かったら食べてね」
それらを地面に置くとサズァンは立ち上がり語りかける。
「褒められた行為じゃないけど、あなた達も生きるために仕方がなかったのでしょう」
女の子はサズァンを見上げた。
「きっと、きっと勇者様が魔物と魔人を倒して下さります。どうか、希望を捨てないで生きてね」
そう言ってサズァンは去る。女の子と青年が見えなくなってからサズァンは悔しさを噛み締めていた。
あんな子供でも悪事を働かないと生きていけない現状に。そして、金を渡す以外に何もしてやれない自分自身に。
だが、それも魔人エィノキさえ倒せば収まる。それまでの辛抱だと自分自身に言い聞かせた。
翌日になり、サズァンは情報を集めるために冒険者ギルドへ向かった。
その帰り道で、昨日の女の子にばったりと出くわす。
「あっ」
女の子はサズァンを見かけると、そう小さく声を漏らした。
「あら、元気かしら?」
そう言うと、女の子は目線を下に逸らす。
だが、その後サズァンを見て言葉を出した。
「あのっ、昨日はごめんなさい!! そして、ありがとうございました」
それを聞いてサズァンはにこやかに微笑んだ。
「あなた、名前は?」
「名前……。私はミルって言います」
「そう、ミル。いい名前ね」
ミルは言われて少し照れ、その後笑顔を作った。
「私はサズァン。よろしくね」
街に滞在して数日。冒険者ギルドで有力な情報が入る。
北の枯れたダンジョンで大きな魔力の反応があったらしい。
勇者ソイロークとニシナー。サズァンはその地を目掛けて旅をした。
道中の魔物が明らかに強く、魔人エィノキに近付いている確信が湧いてくる。
魔物を倒しながら三日掛けて枯れたダンジョンにたどり着いた。
「よしっと、これで全部か」
魔物へ突き刺した剣を引き抜いて男が言う。
その男は短めの茶髪で、フルプレートアーマーを身に纏っていた。
「えぇ、終わりましたねソイローク」
そう声を掛けたのは、長い金髪で白を基調とした魔法使い服を着ている女だ。
デザインはそのままユモトが着ている服に似ていた。という事は、女はゴイチの一族の魔法使いだろう。
ソイロークと呼ばれた男は、後ろに立つ魔法使い達に声を掛ける。
「ニシナー、サズァン。今回も助かった」
「はい!」
ニシナーと呼ばれた女は笑顔を返す。その隣には褐色の肌と銀髪。サズァンが立っていた。
だが、見慣れたサズァンの格好とは違う。ニシナーとは対照的に、黒く長いドレスで、紫色のメイクをしていない。
「ソイローク様、ニシナー様、お疲れ様でした」
二人を様付けで呼んでいる所から、サズァンより上の立場なのだろう。
それもそのはずだった。ソイロークは勇者であり、ニシナーはゴイチで一番の魔法使いだ。
三人は魔人討伐のために旅をしていた。
「それでは、私はこの辺りで」
「いつもすまないな」
サズァンの言葉にソイロークはそう返す。
この時代は黒魔術師は魔人になる一歩手前だという偏見があり、黒魔術を使う一族の末裔であるサズァンは、戦いの時以外二人と距離を取って旅をしていた。
「いつかきっと、皆も分かってくれる日が来ます」
ニシナーはサズァンを勇気づける。
「俺が魔人エィノキを倒したら、皆も俺の話を聞いてくれるだろう」
二人とサズァンは魔人を追いかけ、その途中、とある街に滞在していた。
近くで魔人の目撃情報があるのと、魔物が活性化していたので数日魔物狩りをして過ごしている。
魔人と魔物のせいで国自体が疲弊し、貧しかった。この街も例外ではない。
「そこのお姉ちゃん!! 助けて!!」
サズァンがスラム街と化した街はずれで安宿を取ろうとしていたら、小さな女の子に声を掛けられた。
「どうしたの?」
「友達が死んじゃいそうなの!! 助けて!!」
「っ、わかったわ!」
ただ事ではない様子にサズァンは女の子の後を追い、スラムの奥へと入っていった。
やがて、細い路地に着くと、女の子はそこで待ち構えていた青年達の後ろへ隠れる。
「これは、どういう事かしら?」
「姉ちゃん、いい服着てるな。金を置いてってくれよ」
女の子は嘘をついていたらしい。最初からこうする事が目的だったのだ。
「痛いのは嫌だろ? 死にたくないだろ?」
青年達はナイフをチラつかせてサズァンの元へやってくる。
サズァンは少しも怖気ずに右手の人差し指をナイフへと向けた。
瞬間、氷柱が打ち出され、青年の手からナイフが弾かれる。
「っつ!!」
青年が思わず手を押さえると、体の力が抜け、痺れて動けなくなった。
あっという間に青年達の自由を奪うサズァン。一歩一歩と彼等に近付く。
すると、先程の女の子が飛び出てきた。
「や、やめろー!!」
ナイフを構えてそう叫ぶ。サズァンはゆっくりとしゃがみ、女の子と目線を合わせた。
「ごめんね、お金はこれしか渡せないわ。それと……」
サズァンは懐を漁って希少な甘味、飴玉の入った袋を取り出す。
「良かったら食べてね」
それらを地面に置くとサズァンは立ち上がり語りかける。
「褒められた行為じゃないけど、あなた達も生きるために仕方がなかったのでしょう」
女の子はサズァンを見上げた。
「きっと、きっと勇者様が魔物と魔人を倒して下さります。どうか、希望を捨てないで生きてね」
そう言ってサズァンは去る。女の子と青年が見えなくなってからサズァンは悔しさを噛み締めていた。
あんな子供でも悪事を働かないと生きていけない現状に。そして、金を渡す以外に何もしてやれない自分自身に。
だが、それも魔人エィノキさえ倒せば収まる。それまでの辛抱だと自分自身に言い聞かせた。
翌日になり、サズァンは情報を集めるために冒険者ギルドへ向かった。
その帰り道で、昨日の女の子にばったりと出くわす。
「あっ」
女の子はサズァンを見かけると、そう小さく声を漏らした。
「あら、元気かしら?」
そう言うと、女の子は目線を下に逸らす。
だが、その後サズァンを見て言葉を出した。
「あのっ、昨日はごめんなさい!! そして、ありがとうございました」
それを聞いてサズァンはにこやかに微笑んだ。
「あなた、名前は?」
「名前……。私はミルって言います」
「そう、ミル。いい名前ね」
ミルは言われて少し照れ、その後笑顔を作った。
「私はサズァン。よろしくね」
街に滞在して数日。冒険者ギルドで有力な情報が入る。
北の枯れたダンジョンで大きな魔力の反応があったらしい。
勇者ソイロークとニシナー。サズァンはその地を目掛けて旅をした。
道中の魔物が明らかに強く、魔人エィノキに近付いている確信が湧いてくる。
魔物を倒しながら三日掛けて枯れたダンジョンにたどり着いた。


