五十一階層からは敵の攻撃が更に激しくなった。
ムツヤがどんどん片付けてくれているので、まだ良いのだが、並の冒険者。いや、勇者でも厳しい戦いだ。
仲間達は身を寄せ合い、ムツヤの戦いを見る事しか出来ない。
五十五階層の険しい荒れ地を抜け、一息つく。
「あと、五階か」
アシノがポツリと呟いた。
「やっとサズァン様に会えるってわけねー」
ルーもそう言葉を出す。ムツヤは心ここにあらずと言った感じで座ったまま下を向いていた。
「なぁ、ムツヤ」
アシノは神妙な顔をして話しかける。ワンテンポ遅れてムツヤはハッと顔を向けた。
「サズァンと戦いになったとしてだ。お前は奴を倒せる……、いや、殺せるのか?」
あえて強い言葉でアシノは言い直す。ムツヤはまた顔を下に向けてしまった。
「俺は……」
「サズァンはきっとお前にしか倒せない。覚悟を決めてくれ」
仲間達も黙ってそのやり取りを見つめる。
「サズァン様が……、何を考えているのか分かりません。分かりまぜんが……」
ムツヤはギュッと目を瞑り、歯を食いしばっていた。
「皆さんを、世界の人を守るためだったら、俺は戦います!!」
「ムツヤ殿……」
「そうか……」
モモは心配そうにムツヤを見つめ、アシノがそう言い上を向く。ルーは笑顔で語りかけた。
「まぁ、まだサズァン様を倒さなくちゃいけないって決まったわけじゃないし、話し合いで解決できるかもしれないわよ!! とにかく会ってみないと!」
「そうでずね……」
ムツヤはいまいち元気の無いままだったが、次の階層へと階段を登り始める。
そして、ムツヤ達は五十八階層を制圧し、あと一歩という所までやって来た。
「次の階には絶対に触手だらけのトカゲが出てきまず」
「そうか、分かった」
ムツヤの言葉にアシノは短く返事をする。
扉を開けると、仲間達は異臭を感じた。
「うわっ、クッサ!!」
ルーは思わずそう口にした。
「アレがサズァンを守る最後の砦って所か」
アシノも思わず顔をしかめて、部屋の中央に居る触手トカゲ、テンタクルドラゴンを見る。
こちらに気付いたテンタクルドラゴンは毒液を飛ばしてきた。ムツヤは仲間のために防御壁を張り、カバンから弓矢を取り出して射る。
命中した瞬間、テンタクルドラゴンの体が光り、グロテスクな穴を作った。
一方的に矢を射るムツヤ。光の矢を浴び続けるドラゴンは、やがて空を向き大きく咆哮して呆気なく絶命した。
ムツヤは空間の毒を除く玉を投げ、この階層も制圧する。
「よし、よくやったムツヤ」
アシノに褒められるが、浮かない顔をするムツヤ。
それも無理はない。この階段を登ってしまえば、この塔の主であるサズァンが待っているのだから。
「お前ら、覚悟は良いか?」
扉の前でアシノが皆に尋ねる。
「私はバッチリよー!!!」
ルー以外は、ゆっくりと頷くことで返事をした。
長い階段を登る。ムツヤは心臓がバクバクとしていた。
他の皆も緊張している。どの様にサズァンは待ち構えているのだろうかと。
最上階らしい立派な扉の前に辿り着く。ムツヤが先頭に立ってその扉を押し開けた。
「やっと登ってきたのね」
声に仲間達は武器を強く握る。
暗闇の中で蝋燭の光を浴び、黄金色に赤みを含ませて照らし出される椅子、そこから誰かが立ち上がるのが見えた。
それと同時に部屋のシャンデリアが光り、ムツヤ達と相手を明るく照らす。
一歩一歩、ムツヤ達に近付いてくるその相手は、褐色の肌に長い銀髪。
目の上や唇。爪は毒々しく紫色で、見覚えのある人物。いや、神。
その相手はムツヤが初めて出会った女である。邪神サズァンだ。
「お久しぶりね、皆」
世界を滅ぼすと言っておきながら、サズァンは本当に懐かしむように軽く笑顔を向けてきた。
「久しぶりだな、邪神様よ」
アシノが言葉を返した。そして続けて言う。
「私はまどろっこしい事が嫌いなんでね、単刀直入に聞く。あんたは本当に世界を滅ぼそうとしているのか?」
一瞬の間が永遠にも感じられた。ムツヤは未だに間違いであって欲しいと思っている。
「えぇ、私は世界を滅ぼすわ。その為にこの塔にずっと居たんだもの」
「やはりか……」
話を聞いてアシノはキッとサズァンを睨みつけた。
「サズァン様、何で世界を滅ぼそうなんて考えているのかしら?」
ルーの問いかけにサズァンは、また話し始める。
「あのね、私はあなた達とは戦いたくないの」
会話が噛み合わない返答だった。
「あんたが何を考えているのか分からないが、戦いたくないなら今すぐ裏ダンジョンを引っ込めて、世界を滅ぼそうなんて馬鹿な考えをやめろ」
アシノが言うと、サズァンは寂しそうに笑う。
「ごめんなさい。もう、私にもそれは出来ないの」
「どういう事なんですか!? サズァン様!!」
ここに来てムツヤが初めて叫んだ。
「そうね……。あなた達には……。あなた達には、この裏ダンジョンの真実を教えてあげるわ」
そう言ってサズァンがパチンと指を鳴らす。それと同時にムツヤ達の意識が途絶えた。
ムツヤがどんどん片付けてくれているので、まだ良いのだが、並の冒険者。いや、勇者でも厳しい戦いだ。
仲間達は身を寄せ合い、ムツヤの戦いを見る事しか出来ない。
五十五階層の険しい荒れ地を抜け、一息つく。
「あと、五階か」
アシノがポツリと呟いた。
「やっとサズァン様に会えるってわけねー」
ルーもそう言葉を出す。ムツヤは心ここにあらずと言った感じで座ったまま下を向いていた。
「なぁ、ムツヤ」
アシノは神妙な顔をして話しかける。ワンテンポ遅れてムツヤはハッと顔を向けた。
「サズァンと戦いになったとしてだ。お前は奴を倒せる……、いや、殺せるのか?」
あえて強い言葉でアシノは言い直す。ムツヤはまた顔を下に向けてしまった。
「俺は……」
「サズァンはきっとお前にしか倒せない。覚悟を決めてくれ」
仲間達も黙ってそのやり取りを見つめる。
「サズァン様が……、何を考えているのか分かりません。分かりまぜんが……」
ムツヤはギュッと目を瞑り、歯を食いしばっていた。
「皆さんを、世界の人を守るためだったら、俺は戦います!!」
「ムツヤ殿……」
「そうか……」
モモは心配そうにムツヤを見つめ、アシノがそう言い上を向く。ルーは笑顔で語りかけた。
「まぁ、まだサズァン様を倒さなくちゃいけないって決まったわけじゃないし、話し合いで解決できるかもしれないわよ!! とにかく会ってみないと!」
「そうでずね……」
ムツヤはいまいち元気の無いままだったが、次の階層へと階段を登り始める。
そして、ムツヤ達は五十八階層を制圧し、あと一歩という所までやって来た。
「次の階には絶対に触手だらけのトカゲが出てきまず」
「そうか、分かった」
ムツヤの言葉にアシノは短く返事をする。
扉を開けると、仲間達は異臭を感じた。
「うわっ、クッサ!!」
ルーは思わずそう口にした。
「アレがサズァンを守る最後の砦って所か」
アシノも思わず顔をしかめて、部屋の中央に居る触手トカゲ、テンタクルドラゴンを見る。
こちらに気付いたテンタクルドラゴンは毒液を飛ばしてきた。ムツヤは仲間のために防御壁を張り、カバンから弓矢を取り出して射る。
命中した瞬間、テンタクルドラゴンの体が光り、グロテスクな穴を作った。
一方的に矢を射るムツヤ。光の矢を浴び続けるドラゴンは、やがて空を向き大きく咆哮して呆気なく絶命した。
ムツヤは空間の毒を除く玉を投げ、この階層も制圧する。
「よし、よくやったムツヤ」
アシノに褒められるが、浮かない顔をするムツヤ。
それも無理はない。この階段を登ってしまえば、この塔の主であるサズァンが待っているのだから。
「お前ら、覚悟は良いか?」
扉の前でアシノが皆に尋ねる。
「私はバッチリよー!!!」
ルー以外は、ゆっくりと頷くことで返事をした。
長い階段を登る。ムツヤは心臓がバクバクとしていた。
他の皆も緊張している。どの様にサズァンは待ち構えているのだろうかと。
最上階らしい立派な扉の前に辿り着く。ムツヤが先頭に立ってその扉を押し開けた。
「やっと登ってきたのね」
声に仲間達は武器を強く握る。
暗闇の中で蝋燭の光を浴び、黄金色に赤みを含ませて照らし出される椅子、そこから誰かが立ち上がるのが見えた。
それと同時に部屋のシャンデリアが光り、ムツヤ達と相手を明るく照らす。
一歩一歩、ムツヤ達に近付いてくるその相手は、褐色の肌に長い銀髪。
目の上や唇。爪は毒々しく紫色で、見覚えのある人物。いや、神。
その相手はムツヤが初めて出会った女である。邪神サズァンだ。
「お久しぶりね、皆」
世界を滅ぼすと言っておきながら、サズァンは本当に懐かしむように軽く笑顔を向けてきた。
「久しぶりだな、邪神様よ」
アシノが言葉を返した。そして続けて言う。
「私はまどろっこしい事が嫌いなんでね、単刀直入に聞く。あんたは本当に世界を滅ぼそうとしているのか?」
一瞬の間が永遠にも感じられた。ムツヤは未だに間違いであって欲しいと思っている。
「えぇ、私は世界を滅ぼすわ。その為にこの塔にずっと居たんだもの」
「やはりか……」
話を聞いてアシノはキッとサズァンを睨みつけた。
「サズァン様、何で世界を滅ぼそうなんて考えているのかしら?」
ルーの問いかけにサズァンは、また話し始める。
「あのね、私はあなた達とは戦いたくないの」
会話が噛み合わない返答だった。
「あんたが何を考えているのか分からないが、戦いたくないなら今すぐ裏ダンジョンを引っ込めて、世界を滅ぼそうなんて馬鹿な考えをやめろ」
アシノが言うと、サズァンは寂しそうに笑う。
「ごめんなさい。もう、私にもそれは出来ないの」
「どういう事なんですか!? サズァン様!!」
ここに来てムツヤが初めて叫んだ。
「そうね……。あなた達には……。あなた達には、この裏ダンジョンの真実を教えてあげるわ」
そう言ってサズァンがパチンと指を鳴らす。それと同時にムツヤ達の意識が途絶えた。


