「わがりまじだ」

 トイレを終えて一段落していると、またムツヤへ来訪者が現れた。

「お兄ちゃん、まだ起きてる?」

 扉を開けてやって来たのはヨーリィだ。トコトコと歩いてベッドに座る。

「ヨーリィ」

 ムツヤが名前を呼ぶとヨーリィは要件を言う。

「魔力が少なくなってきた。今のお兄ちゃんからは補給が出来る?」

「あぁ、大丈夫だよ」

 ムツヤがそう言うと、ヨーリィはもぞもぞと布団に入ってきて手を繋いで寝る。

「お兄ちゃんは……」

「ん?」

 ヨーリィが何かを言いかけた。しばらく沈黙した後続ける。

「お兄ちゃんは、サズァン様と戦うことになったら、戦える?」

 なるべく考えないようにしていた事を言われ、ムツヤは少しだけドキッとした。

「大丈夫、きっと何がの間違いだよ」

 そう答えると、ヨーリィはじっと見つめ直す。その視線から逃れられないムツヤは別の回答をした。

「えっと、もしサズァン様が、本当に世界を滅ぼそうとしでいるなら……。俺は止める」

「そう……」

 自分から聞いたのに、あまり興味が無さそうにヨーリィは呟き、その後言葉を続ける。

「もしも……」

 そして、ヨーリィは視線を()らせて言った。

「もしも、マヨイギ様が同じ様に世界を滅ぼすって言ったら、私はマヨイギ様の味方をしてしまうかもしれない」

 それだけ言い終えると、ヨーリィは目を閉じる。

「そっか……」

 ムツヤはそう言って頭上を見上げた。

「俺は……、俺は、サズァン様も大事だけど、一緒に居る皆も、この世界の人達も大切だ」

 今、一緒に居る仲間達、それに旅で出会った人達の事を思い出す。

「サズァン様が何で世界を滅ぼすって言っているのかわからない。でも、直接理由を聞けば分かるかもしれない」

 自分自身に言い聞かせるようにムツヤは話し続けた。

「私は、お兄ちゃんの味方をする」

「ありがとな、ヨーリィ」

 そんな話を終えると、二人はすやすやと眠ってしまう。



「ハァイ、ムツヤっちー?」

 ヨーリィとの会話が終わって数時間後、ルーが部屋のドアをバンっと開けた。

「んー? ルーさんでずか?」

 上体を起こしてムツヤが部屋の入り口を見る。

「ムツヤ、起きられるぐらいにはなったか?」

 アシノがルーの後ろから声を掛けた。

「はい! もうちょっと休めば大丈夫でず!」

「そうか、無理はするなよ。お前だけが頼りなんだ」

 誇張表現でも何でも無く、世界の命運はムツヤに掛かっている。

 そんな本人はそれを分かっているのか分かっていないのか、といった状態だったが。

 ムツヤと仲間達は充分に休んで四十階層を出た。

 道中の魔物はムツヤが軽々と倒していっているが、敵は確実に強くなってきている。

 仲間達はピッタリとムツヤから離れず、自分の身を守ることに専念した。

 照明弾を打ち上げて真っ暗な森を抜け、雪が吹き荒れる雪原を抜け、一歩、また一歩とサズァンに近づいていく。

「次が四十八階層か」

 荒野を歩き、現れた扉の前でアシノが言う。休んだとはいえ、やはり仲間達には疲労が見えていた。

「あー……。もう私疲れた!」

「五十階に居るボス部屋の手前で休憩する。あと次の一階を頑張れ」

 四十九階層は巨大な滝が流れる場所だ。ムツヤ達が近付くと、滝が割れて数匹の大きな水龍が出てきた。

 ムツヤは魔法で雷の槍を作り出し、それを投げて手早く水龍を片付け始める。

 仲間達の出る幕はなく、四十九階層を制圧した。

「もう大丈夫な感じ?」

「はい、魔物の気配はありまぜん!」

 それを聞いてルーはその辺の岩に腰掛ける。

 カバンから取り出した青いカサカサとした絨毯と、軽食を取り出すとルーが寝っ転がった。

「ねぇ知ってる? 滝の音って癒やしの効果があるらしいわよ」

「へー、そうなんでずか!」

「いや、裏ダンジョンで癒やしもクソもあるかよ……」

 ユモトは全員にお茶を配り、ヨーリィはクッキーをモソモソと食べる。




 それぞれが休憩をし、英気を養うと、気合を入れて五十階層に挑んだ。

 そこは薄暗く、ジメジメとした部屋だった。その奥に何かが居るのが見える。

「あれは!!」

 思わずモモが驚く。一度サンライト地方で戦ったことがあるオオムカデがそこには居た。

 ムツヤは飛び出してオオムカデの頭に剣を突き刺し、先制攻撃を決める。そこからは業火が吹き出た。

 身を(よじ)らせ、大暴れするムカデ。ムツヤは構わず斬り刻んでいく。

 オオムカデが煙になって消え、これで終わりかと思うアシノ達だったが、その考えは甘かった。

 次に空から降ってきたのは、大きな蜘蛛(くも)だった。

 ネバネバとした糸を吐いてムツヤを絡め取ろうとするが、余裕を持って躱す。

 その後現れたのは、大きなカマキリの魔物だ。素早く振られる鎌を避けて頭を一刀両断。

 次々に現れる虫の魔物をムツヤは斬り捨てていった。

「何か、気持ち悪い魔物ばっかり出てくるわね」

 ルーはそんな事を言いながらムツヤを見ている。

 しばらく戦うと、どうやら階層を制圧した様で、魔物の気配は無くなった。

「残るはあと十階か」

「えぇ、行きましょう」

 アシノとモモが短く言葉を交わし、ムツヤの後を付いていく。