「それじゃ後は……」

 アシノが言うと同じく、皆が激しい音を立てるムツヤの方を見る。

 仮に本体と同じ力を持つとすれば、一番厄介なのはムツヤの影だ。

 一つ疑問が残る。ムツヤは今までどうやってこの影に勝っていたのだろうかと。

「使うじかないか!!」

 ムツヤは青いオーラを纏い、身体能力を上げる。すると、影を少しずつ圧倒し始めた。

「焼け石に水かもしれんが、遠距離攻撃でムツヤを援護してくれ!」

「わかったわ!」

 ルーは精霊を向かわせ、ユモトは雷と炎を飛ばす。ヨーリィは近付ける所まで近付き、木の杭を投げていた。

 アシノの言う通り、精霊は剣で薙ぎ払われ、魔法は直撃してもダメージを受けていないようだ。

 だが、一瞬の隙は作れた。ムツヤは影の右腕を落とすことに成功する。

 左手だけで剣を振るうムツヤの影、明らかに力が落ちていた。

 ムツヤは影の剣を弾き、そのまま横薙ぎに胴体を斬り裂く。

「よしっ!」

 消滅する影を見てアシノが言った。だが、ムツヤもそれを見届けると、片膝を地面に着いてしまう。

「ムツヤ殿!!」

 モモが駆け寄るとヨロヨロとムツヤが立つ。倒れそうになるが、モモに支えられる。

「例の青いオーラを使ったせいか。薬で治らないんだったな」

「はい、すみまぜん……」

 駆け寄った仲間達に心配をされるムツヤ。申し訳無さそうな顔をした。

「いや、私達も疲労が溜まっていた。この辺りで睡眠でも入れておこう」

 ムツヤのカバンから家が飛び出る本を取り出し、使う。

 モモが部屋に一室にムツヤを運ぶと、ベッドに寝かせた。

 一階ではユモトが料理を作っている。ルーは紅茶を飲みながらクッキーを食べていた。

「いやー、まさか裏ダンジョンでこんな風に(くつろ)ぐとはねぇ」

「お前は気を抜きすぎだ」

 アシノに言われ、ルーはエヘッと舌を出す。

 しばらくすると、ユモトが腕をふるった料理が運ばれる。

「モモ、悪いがムツヤに食べさせてやってくれ」

「え、あ、はっはい!!」

 モモはそう言って料理を持ち二階へと消えていった。

「モモちゃんもムツヤっちの事になると、一人の恋する乙女ねー」

 ルーはニヤニヤしながら言い、料理を口に運んだ。

「ムツヤ殿、失礼します」

 モモは部屋をノックしてムツヤの部屋に入る。

「モモさん」

「ムツヤ殿、お加減はいかがですか?」

 優しい笑顔でモモは尋ねた。

「えぇ、ちょっどだけ使ったので、そんなには大丈夫でず!」

「お料理を持ってきました。体は動きますか?」

 ムツヤは腕を動かそうとするが、プルプルとしている。

「す、すみまぜん……」

「大丈夫ですよ、ムツヤ殿さえ良ければ、その、私がムツヤ殿に食べさせても大丈夫でしょうか?」

「えーっと、それじゃ、お願いじまず」

「は、はい、わかりました!」

 仲間内で付き合いの一番長い二人だったが、何だかギクシャクしたやり取りを交わす。

「そ、それじゃいきますよ!」

「はい」

 モモはスープをスプーンで(すく)い、ムツヤの口元へと運んだ。

「んむっ、美味しいです」

「そ、そうですか! それは良かった!」

 照れを隠しながらモモは笑顔で言う。その後もパンや肉などをゆっくり時間を掛けて食べさせた。

「ごちそうさまでした」

 そう言った後に少し力を取り戻したムツヤは立ち上がろうとする。

「む、ムツヤ殿!? 無理をなさっては……」

「ですけど、そのーちょっと……」

「何か御用がありましたら私がどうにかしますので」

 モモに言われ、ムツヤは下を向いてもじもじとした後に呟いた。

「その……、トイレ……」

「あっ!!」

 互いに気まずくなる。だが、どうしたものかとモモは考えた。

「そうですね……、ユモトにトイレまで支えてもらうよう言ってきます!」

「ありがとうございまず」

 仮にも女である自分が付いて行ったらムツヤ殿も嫌だろうと思い、モモはユモトを呼びに行った。

 話を聞いたユモトがムツヤの寝る部屋までやって来る。

「ムツヤさん、失礼します」

 ノックをして部屋に入るユモト。ムツヤはベッドに腰掛けていた。

「ユモトさん、ずみまぜん……」

「いえ、良いんですよ!! 一緒に行きましょう」

 ユモトはムツヤの肩を支える。

 プルプルと震える足で歩くムツヤ、密着されたユモトは何だか気恥ずかしくなってしまった。

「ムツヤさん、着きましたよ」

「はい、ありがとうございまず」

 扉を開けてムツヤはよろよろと自力で歩いて中へと消えていく。

 ユモトは少し離れてムツヤを待つ。しばらくして扉が開いた。

「ユモトさん、またお願いじまず」

「はい!」

 ユモトは不謹慎かもしれないが、こんな小さな事でも、ムツヤが頼ってくれて、その力になれることを嬉しく感じてしまう。

「また困ったことがあったら言って下さいね!」