扉を開け、階段を登るムツヤ達。現在は十四階層だ。

 今度は砂漠が広がっており、太陽が容赦なく照りつけている。

「ここは……?」

 モモは一面の砂を見て呆然とした。

「いわゆる砂漠って所だな」

「初めて見ました……」

 アシノが説明すると、ユモトも興味深げに言う。

 この場の暑さに皆が早速汗ばみ始める。

「あづいー、じぬー……」

「ちょっと待ってぐだざい!」

 ルーが暑さで溶けそうになり、ムツヤはカバンを(まさぐ)った。

 何か黒い円盤のような物を人数分取り出して、一枚自分の頭の上に投げる。

 すると、円盤は宙に浮く傘のように日陰を作り出す。

「なにそれ!?」

「よぐわがんないでずけど、砂漠が出た時はごうじでまず」

 仲間達もムツヤに習って頭の上に円盤を投げた。日陰を作るだけでなく、心なしかひんやりとした風が降りてくる。

「確かに便利だけどまだあづいー……」

「文句を言うな。さっさと行くぞ」

 アシノが歩こうとすると、ムツヤは「ちょっと待ってぐだざい」と仲間を止めた。

「あと、このメガネとタオルを鼻と口に巻いて下さい」

 ムツヤはゴーグルとタオルを仲間達に渡す。言われるがままに仲間達はそれを装着した。

「このタオル。口に巻いているのに苦しくないわね」

 ルーはこのタオルも裏の道具なのかと興味を持つ。

 砂漠はどこまでも続くように広大だった。ムツヤが先導してくれているが、アシノ達は少し不安になる。

 風が吹き、砂が舞い上がり体中にパラパラと当たった。目と鼻、口を保護しているのはこの為かとモモは納得する。

 そんな時、地中からしっぽが生えたカニのような魔物が現れた。

「ありゃ異国の虫『サソリ』の魔物だな」

 アシノが言うと同時に、ムツヤは剣を構え仲間達に言う。

「アイツ等のしっぽには絶対に触らないでくだざい!!」

「参考までに聞くが、触るとどうなるんだ?」

 アシノが尋ねると、ムツヤからは恐ろしい返事が返ってきた。

「溶けまず!!」

「と、溶け!?」

 ルーはゾッとして魔物を見る。一斉に襲いかかってくるサソリの魔物をムツヤは片っ端から切り捨てていった。

「数が多い、ユモト、ルー、ヨーリィ!! 遠距離から数を減らしてくれ」

「はい!!」

 ユモトは返事をして氷柱をサソリにぶつけた。だが、分厚い甲殻を貫くことが出来なかった。

「それなら!!」

 雷の魔法を打つと、それは効いたみたいで魔物は感電し、その場で痙攣をする。

 そのサソリをルーの重量級の精霊が踏みつけてトドメを刺した。

「アシノ殿! 私は」

「モモ、お前は待機だ。裏の魔物相手で、刺されりゃおしまいだ。アイツ達を信じろ」

「はい……」

 何も出来ない自分がもどかしかったが、ここはぐっと堪えて仲間達を信じるしかない。

 粗方(あらかた)敵を倒し終え、一行は次の扉目指して歩いていた。次は十五階層だ。

 階段を上り、扉を開けると、そこで目にしたのは雪原だ。

「今度は雪!? 寒暖差でおかしくなっちゃうわよ!!」

 ルーの言う通りだった。裏ダンジョンの敵は魔物だけではない。その予測できない気候も肉体と精神を蝕んでいた。

「汗が冷えちゃう……。風邪ひきそう……」

 皆もルーと同じ気持ちである。ムツヤはコートを人数分取り出し、手渡した。

 ムツヤが先頭に立ち、魔剣『ムゲンジゴク』を縦に振るい、炎の斬撃を飛ばす。

 すると、雪原に一直線の道が出来た。

「凄い、道が……」

 ユモトは思わずそう呟く。その道を歩いていると、ムツヤがふと歩みを止めた。

「敵が来てまず!!」

 仲間達は周りを見渡す。すると、遠くに何かが見えた。

 それらは近付き、姿がはっきり見えるようになる。白い毛が生えた巨大な猿の魔物だ。

「あれは……」

 剣を引き抜いてモモは構えた。ムツヤは飛び出して猿の魔物を次々斬り捨てる。

 群れでやってきたようで、数が多すぎてムツヤが数匹倒し損ねた魔物がアシノ達を襲う。

 モモとヨーリィが前に(おど)り出て、魔物と対峙する。

 ヨーリィは木の杭を魔物に投げつけ、ナイフを顔面に突き刺した。思わず怯む猿の魔物。

 その生まれた隙に一気に駆け寄ってモモは剣で切り捨てた。

 別の魔物がモモに襲いかかるが、無力化の盾で拳を受け止め、その腕を斬り落とした。 

 ムツヤは爆発魔法や剣撃で派手に暴れている。やがて魔物は居なくなった。

「これで終わりか」

 アシノが言うと同時にムツヤが隊列に帰ってきた。

「皆、怪我は無い!?」

 ルーが心配そうに言うが、誰も怪我はしていない。

 しばらく歩くと、扉が見える。

 荒野を抜け、森林を抜け、ムツヤ達は二十階層までたどり着いた。

「二十階なので次は強い敵が出まず」

「十階層毎にボスが出るって所か?」

「はい、そうでず!」

 ムツヤの言葉を聞いて、仲間達はより一層気を引き締める。