三階には荒野が、四階には山脈が広がっている。

 敵は、ほぼムツヤが倒してくれたが、付いていくだけでも仲間達は疲弊していた。

 五階に到達すると、綺麗な湖畔が広がっていた。

「ちょっ、ちょっと私疲れたかも、休憩しない? 綺麗な場所だし!」

 ルーが言うとアシノは仲間達を見た。確かに皆、疲労が見える。

「ムツヤ、裏ダンジョンの最上階まで何階あるんだ?」

「えーっと、サズァン様の所まで六十階です!!」

 それを聞いてルーは絶望した。

「六十!? あと何十回もこんな場所を通らなくちゃならないの!?」

「猶予はあまり無いんだ。少し休んだら行くぞ」

「あっ、でもここは……」

 ムツヤが言うより先に湖から何かが勢いよく飛び出て、水しぶきが辺りに舞う。

 美しい風景で忘れかけていた。ここはあくまで裏ダンジョンだという事を。

「何よあれ!?」

 現れたのは一瞬、巨大な蛇に見えたが、よく見ると巨大な水龍だ。

「あんなのどうやって倒せば!?」

 ユモトは杖を握って震えていた。そんな仲間達を尻目にムツヤは敵に向かって飛び出す。

 水龍は宙を飛んだ後、ムツヤに向かって一直線に向かってくる。

 剣を強く握り、すれ違いざまに水龍の首を一撃で切断した。そして一言。

「皆さん! 大丈夫でじたか!?」

「大丈夫かって……。何か前もこんな事あったな」

 アシノが言うと、緊張の糸が切れたモモもクスッと笑う。

「そうですね、ありましたね。こんな事」

 周りの魔物をある程度蹴散らし、ムツヤ達は休憩を取っていた。魔物が消えた後にユモトの病気を直した青い薬が落ちていた。

「そっか、僕の病気を治してくれた薬って、ここで……」

「そうでずね、飲むと疲れが取れますんで皆さんどうぞ!」

 もうカバンに数え切れないほどあったが、せっかく拾ったので皆で飲む。それぞれ副作用の奇声を発した。

「かー、やっぱ効くわね」

「だが、この量の薬やら武器やら、どこから現れてくるんだ?」

「わがりまぜん」

 アシノに尋ねられるが、裏ダンジョンを遊び場にしていたムツヤでさえ、その事を知らなかった。

「サズァン様に会ったら、全部話して貰いましょう。もうぜーんぶ!」

「そうでずね……」

 ムツヤは今、何を考えているのか分からないサズァンを思って立ち上がる。

 一行はムツヤの案内で十階層までたどり着いた。レンガ造りの暗くジメジメした部屋が現れる。

 明かりは所々にある松明だけだ。

「暗いな。ムツヤ、照明弾を使っても大丈夫か?」

「はい、大丈夫でず」

「そうか、ユモト頼む」

 ユモトは「はい」と返事をして照明弾を打ち上げる。

 まばゆい光が辺りを照らし出した。周りに魔物の気配は感じられない。

「っつ!! アイツ等だ!! 皆さん、気を付けてくだざい!!」

「どういう事だムツヤ!?」

 返事が来るよりも早く、何かがメキメキと動き出し、地面に石が次々に転がる。

 壁から三メートルはある人形の岩が現れ、ドアの両脇にあるドラゴン型の石像も羽ばたきだした。

「ゴーレムとガーゴイルか!!」

 アシノが言うと、皆も武器を構え、それらを見つめる。

 ムツヤはカバンから大きなハンマーを取り出して、まずはゴーレムの元へと向かう。

 飛び上がり、ゴーレムの頭にハンマーを叩き下ろす。たちまち頭は形を変え、粉々に崩れ去った。

 その間、ガーゴイルがアシノ達に向かって火の玉を吐く。

 ユモトとルーが防御壁を二重に張り、起動を逸らすことは出来たが、本体も突っ込んできた。

「お前ら!! 伏せろ!」

 アシノの号令に皆は従った。防御壁はいとも簡単に割られ、頭上をガーゴイルが飛んだ。

 ムツヤが走ってこちらへやって来て、またガーゴイルをハンマーで壊す。

 数匹居るガーゴイル達をハンマーで砕き、静寂が訪れる。

「おかしい……」

 戦い終わったムツヤがポツリと呟いた。

「何がだ?」

 アシノが聞くと渋い顔をしてムツヤは答える。

「この魔物達はもっと上の階で出てくるはずなんでず!!」

 そう、ムツヤは三十階ぐらいまでは、特殊な魔物以外は素手で倒すことが出来た。

「裏ダンジョンに何か異変が起きているのか? いや、元々異常な場所ではあるが」

 考えていても仕方がないと、次の扉を開ける。今度は沼地が広がっている。

「気を付けてくだざい、この沼に入ると体が溶けますんで」

 サラリと恐い事を言うムツヤ。仲間達は大きく沼を避けて歩き始めた。