「最近、失踪事件や不審死が増えているみたいですよ先輩」

 勇者達の定例会議でサツキが言った。

「失踪か」

 人の失踪はそれほど珍しいことでは無かったが。

「その数、報告があるだけでも従来の十四倍らしいです」

 イタヤは顔をしかめ、言う。

「それは……、妙だな」

 元勇者のトチノハも何かを考えるようにしていた。

「えぇ、そう思います……。それと関係があるかは分かりませんし、あくまで噂ですが、村や町を歩く美しい占い師がいるそうです」

「占い師ですか」

「えぇ、その占い師が数日街に居た後、人が消えたとか消えないとか」

「その噂、本当であれば怪しいですね……」

 うーんと言った後にイタヤが話す。

「俺も情報を集めてみます」

「私も、調べてみましょうかね」

 トチノハもそれに便乗する形で調査を始めるらしい。

「それでは、私達も裏の道具を回収しつつ、その占い師を探してみますか」

 会議は終わり、アシノ達は眠りについた。



 そんな事があってから各地を回ったムツヤ達は失踪した人間が居るという村に辿り着くことができた。

「では、この村で失踪事件が起きたと言うわけですね」

 アシノが隣人に尋ねると「えぇ」と返事が返ってきた。

「美人な占い師のねーちゃんが来て、毎日のように通っててよ、金も何も無くなって居なくなったから、村では駆け落ちでもしたんじゃないかって噂ですがね」

「そうですか。その失踪された方はどういったな人でしたか?」

「どうって言われても……。あー、頭は良い方でしたが、良すぎたみたいで色々と考え込んじまう性格でしたね。時々元気が無くなって塞ぎ込むっていうか」

「なるほど、お話ありがとうございました」

 アシノが話をしている間、ルーはこの辺りの名物である串に刺したじゃがいもへソースを掛けた食べ物を買食いしていた。

「アシノ、情報はってあっち!! ハフハフ……、りょーほーはほーひたの?」

「食いながら喋るな」

「みんなの分も買ってきたわよ!! アシノじゃがいも好きでしょ?」

 じゃがいもを食べ終え、アシノは話す。

「そうだな、占い師の女は怪しいと思う。もっと付近の村や街でも聞き込みをしてみよう」

「そうですね」

 モモが言うとユモトも頷いた。ヨーリィは無言でじゃがいもを食べている。

 ムツヤ達はその後も占い師の情報を集め続けていた。すると、一つの答えのようなものが浮かんできた。

 占い師とは別の人物達も同じ様に人を誘い、どこかに連れ出している事、その者達は帰ってこない事。

 ある日の晩、アシノは話をまとめて言う。

「集団誘拐事件って所か」

 ルーも椅子に腰掛けて返事をした。

「えぇ、そうみたいね」

 モモは立ちながら意見する。

「ですが、そうなると何処へ連れて行かれているのでしょう?」

 そんな問いかけにアシノは答えた。

「金目の物も消えてるってことは、恐らく金目当て……、って所だろうけど、なんとも言えんな」

 ふぅーっと息を吐いてアシノは続ける。

「考えていても仕方がない。裏の道具を集めながら情報収集だ」




 とある洞窟、そこへミシロは入っていった。洞窟の前には大量の死体が埋められている。

「あぁ、ミシロ様!! 今日もお美しい!!」

 裏の道具である杖を持つ『ルクコエ』がミシロに向かって言った。

「ルクコエ、今日もお願い」

「はい!! かしこまりました!!」

 ルクコエは杖を持ち、空いた方の手でミシロの手を握る。ぼうっと青い光が辺りを照らしだす。

 それと同時に、ミシロは力が流れてくるのを感じていた。

「今日もありがと、ルクコエ」

「そんな!! 恐れ多い!!」

 ミシロは羽をバサッと広げて言う。

「私、もっと強くなる。もっともっと」

「応援しています。ミシロ様」

 空へと飛び立つミシロを、ルクコエはどこまでも見送っていた。



 ミシロは人が来ない山奥で自己流の修行をしていた。

 空に魔力を込めた光の玉を打ち出し、魔剣『ジャビガワ』で木を斬り岩を斬り、地面へ突き刺して水の刃を作り出す。

「もっと、もっと強くならなくちゃ……」

 修行をして数ヶ月になるミシロ。その心には向上心と焦りがあった。

 季節は冬になった。ムツヤ達は宿場町で暖を取る。外で吐く息は白く、そして雪が降ってきた。

「うわー!! 雪が降ってますよー!!!」

 ムツヤは雪を見てテンションが上がっている。

「ムツヤさんが住んでいる所では雪が降らなかったんですか?」

 ユモトが聞くとムツヤは答えた。

「降らなかったでずねー。塔にも雪の部屋はあったんですけど、吹雪? って奴で寒くて嫌でじだ!!」

「うぅ……、私は嫌よ……。寒いってのは死の季節よ!!」

 ルーは毛布を被ってブルブル震えながら紅茶を飲んでいる。アシノは体を温めるためにウィスキーを飲んだ。

「黎明の呼び手の連中は各地で小規模な騒ぎを起こしているらしいが、捕まえても誘拐事件についての足取りは掴めないそうだ」

 勇者の会議が終わると、アシノは言った。

「ですが、私は恐らく裏の道具が関わっていると思いますね」

 モモが言うとアシノは頷く。

「あぁ、私もそう思う。そして、何かしらの目的があって計画的にやっているんだろうな」

「計画的……、ですか」

 ユモトはポツリと言葉を出す。

「裏の道具を回収していれば必ず答えに辿り着くはずだ。今は出来ることを地道にやるしか無い」

「えぇ、そうですね」

 モモは相槌を打ち、アシノは酒を飲む。

「もー寒くて嫌ぁ……。ムツヤっちあっためて!!」

 毛布をガバッと広げてルーはムツヤを中に入れてくっついた。

「やーん、ムツヤっち結構あったかーい!!」

 少し冷たいが、柔らかい感触を味わうムツヤは鼻の下が伸びている。

「やめろ、ばか」

 アシノがワインボトルのフタをパァンと飛ばしてルーの額に直撃させた。いつものお決まりの流れだ。

「もるじぇ!!」

 奇声を発してルーは倒れる。

「そんな事より、次の裏の道具の反応は山奥だ。今のうち休んでおけ」

「やー、冬山なんて登ったら死んじゃうわよ!! 春になるまで待ちましょう!?」

 ルーの言い分も一理ある。冬の山は登山家でも危険だ。

「山つっても標高は低い。それに頂上まで登るわけじゃないし、大雪が降ってるわけでもない」

「わ、私はこの宿で紅茶を飲んで待ってるわ!!」

「ダメだ」

「うえー!!!」

 こうして雪が降る中、裏の道具探しが決まった。