ムツヤの気配を察知したのか、集団は一斉にムツヤの方を向く。ムツヤは先頭の数人を殴り、蹴り飛ばした。

 その時、何か違和感を覚える。人のようで、人じゃない感覚。かと言って魔物でもない感じだ。

「貴様!! 何者だ!!」

 集団の後ろに居る男がムツヤに向かって叫ぶ。

「お前!! 魔人の残した武具を持っているだろう!?」

 ムツヤが言い返すと、驚いたように返事をする。

「武具の存在を知り、この強さ……。勇者の仲間か?」

「そうだ!!」

 今度は返事の代わりに何人かが飛びかかってきた。

 また、蹴り飛ばし、殴り捨て、片付けていく。常人ならば気を失うだろう。そう、常人ならば。

 倒れた者は次々に起き上がってムツヤに襲いかかる。何かの強化魔法だろうか。

「丁度いい、ミシロ様に良い手土産が出来そうだ!!」

 ミシロという言葉にムツヤは何かを思い出す。そうだ、思い出した。魔人ラメルと一緒に居た女の子だ。

 そして、目の前の何度も何度も立ち上がる敵をムツヤは不気味に感じていた。

「ムツヤ、どんな状況だ!?」

 連絡石からアシノの声が入る。

「何度倒しても向かってくる人達がいまず!!」

「ムツヤ、手加減するな!! じゃないとお前が危ない!!」

「わがりまじだ!!」

 今度は腕に強化魔法を掛けて一気に顔を殴りつけた。相手は首が吹き飛ぶ。

 ムツヤはまた命を奪ってしまった罪悪感が一瞬頭をよぎるが、戦いに集中する。

 しかし、驚くことが目の前で起きた。首が無い人間が依然として剣を振りかざして来ていたのだ。

 その刹那、斧を持った者がそれで殴りつけるように振るう。

 その斧には見覚えがあった、紛れもなく裏ダンジョンの道具だ。

 剣で防ぐが、(ゆう)に数十メートル吹き飛んだ。それを逃さぬように矢が飛んでくる。

 空中でムツヤは剣を器用に使い矢を落としたが。

「なかなかやるみたいだな。だが、時間は稼いだ」

 男が言うと、ぞろぞろと増援が出てきた。百人ほどの軍勢にムツヤは一人で戦いを挑む。

 魔剣ムゲンジゴクで横薙ぎに斬りつけ、何人かを燃えカスにした。

 相手が人ではないと分かったムツヤは手加減無しで炎の魔法弾を打ち込んだ。

「させるか!!」

 男は軍団の者に強力な魔法の防御壁を築いて、それらをやり過ごす。ムツヤはその壁を切り上げて破壊した。

「あの炎は!!」

 アシノ達はムツヤが戦っている所までやって来る。ルーはムツヤの言葉から何かを考えていた。

「何度倒しても向かってくる……、まさか」

 馬車を止めて皆は降りる。そこで目の前に広がる軍勢と対峙した。

 その軍勢のリーダーらしき男は言う。

「増援か、無駄な事を」

 軍勢を向かわせ、アシノ達は武器を構えた。

 ルーの精霊が一人の人間を倒した瞬間、疑念は確信へと変わる。

「やっぱり、これは死霊術よ!!」

「何っ!?」

 アシノはルーの言葉に驚く。禁じられてはいたが、そもそもが幻の術が死霊術だ。

 死んだ人間を意のままに操ることが出来る。

「これだけの人を……、墓荒らしかしら?」

「ふん、そんな事はしていない」

 男はニヤリと笑って叫んだ。

「全員、村を回って殺してやったのさ。その方が手っ取り早い!!」

 それを聞いてムツヤ達は言葉を失った。最初にユモトが思わず口にした。

「な、なんてことを!!」

「俺はなぁ、村に恨みがあったんだよ」

 唐突に男は死霊を操りながら自分語りを始める。

「俺の家族は謎の病気にかかってよォー!! 伝染るんじゃないかって村八分にされてな」

「食料はおろか、井戸の水さえも汲めなかった。家族はみんな死んだよ!!」

 そう言った後にムツヤめがけて死霊を特攻させた。

「だからって、だからって村の人を殺したお前は許せない!!」

 ムツヤは剣を引き抜いて一人ひとり斬り捨てていく。炎に包まれると、さすがの死霊も炭と化した。

「この人達はもう死んでいるわ。悲しいけど全力で戦うわよ!!」

 ルーは精霊を召喚しながら言う。ユモトも炎の魔法で死霊を燃やし、モモとヨーリィは細かく刻むように死霊を斬った。

「中々やるな、流石勇者パーティか」

 男は少し焦っていたが、こちらには切り札がある。ラメル様の武具を持った死霊だ。

「とっておきを使うぜ!!」

 槍を持つ死霊、斧を持つ死霊がムツヤの元へと走っていった。

 素早く連撃をする槍、荒々しく振り下ろされる斧。だが、ムツヤには効かない。それらを避けて反撃を食らわせた。

「くそっ、どうする……」

「だいじょーぶ?」

 そんな時上空から声がした。男は空を見上げる。