攻撃を食らいまくりボロボロになるジョン。まだかろうじて立っていた。

「くそっ、いい加減しつこいな!! だが、もうじき俺の仲間達も来る。村の財宝も女も全部俺の物だ!!」

「そんな事はさせるか!!」

 ジョンは空飛ぶパンチを繰り出し続ける。もちろん自称魔人のチィターには一発も当たらない。

「そろそろ終わりにしてやる!!」

 ナイフを構えてチィターが言った。

 そして、近付いたその瞬間だ。この一瞬をジョンは狙っていた。

 直線状にパンチをすると、それはチィターにカウンターを食らわせる形で当たる。

「ぐげえええ!!!」

 吹き飛んでのたうち回るチィター。それを見て村人達からは歓声が上がった。

「ジョン様!!」

「うおおお!!! 勇者様!!」

 歓声を受けるも、最後の力を出し切ったジョンは倒れる。女魔法使いと剣士が駆け寄った。

「ジョン様!! ジョン様しっかりして下さい!!」

「ジョンの兄貴!!」

「おーっと、そこまでだ」

 そこにチィターの仲間らしき者達が現れる。

「チィター様が世話になったようだな」

 荒くれ者が肩を貸して気絶したチィターを起こす。ジョンに近付く彼らの前に、女魔法使いと剣士が立ちはだかった。

「どけ嬢ちゃん達。後でたっぷり相手にしてやるからよォ!!!」

「どきません!! 今度はジョン様を私達が守ります!!!」

 荒くれ者は斧を振り上げて言う。

「じゃあ、ちょっと痛い目見てもらおうかな?」

 そう言った次の瞬間。荒くれ者は吹き飛んでいった。一体何だと皆が思う。

 見覚えがある気がする男、先程の偽物勇者パーティの一人がドロップキックをかましていたのだ。

「何だコイツ!?」

 男は素手で荒くれ者たちを次々なぎ倒していく。

「くそっ、さっきは不覚を取ったが、今度こそ負けやしねえ!!」

 起き上がるチィターは素早く走り回るも、その後をピッタリと着いていく男。

「嘘だろ!? この俺のスピードに!?」

 そして、頭にチョップを食らわすとチィターは沈んだ。



 自称魔人達の拘束が終わった頃に、ジョンは目を覚ました。

「ジョン様!!」

「ジョンの兄貴!!」

 仲間達はジョンを見て安堵する。

「お、俺は……」

 村人達も目を覚ましたジョンにホッとした。

「よく村を守って下さいました」

 目の前には赤髪の女。正真正銘本物の勇者アシノだ。

 ジョンは涙と鼻水を垂らしながら全てを話した。自分が勇者じゃないこと、勇者だと言い張って皆を危険に晒したこと。

「そうでしたか……」

 女魔法使いが言うと、ジョンは自嘲気味に返す。

「幻滅させちゃいましたね……」

「そんな事ありません!!」

 女魔法使いはそう叫んだ。それに続いて剣士も言う。

「ジョンの兄貴は勇者じゃなかったかもしれねぇ、でも、私達を守ってくれた!!」

 村人達もそうだそうだと言い始めた。ふぅっと息を吐いてアシノが話す。

「ジョンさん。もう一度、ちゃんと勇者を目指してみてはどうですか? 今この国には危機が迫っています」

「はい!!」

 ジョンは泣きながら返事をする。自称魔人のチィターは、裏の道具の靴を取り上げられ治安維持部隊に引き渡されていった。




 暗い森の中、魔人ラメルから力を引き継いだ少女、ミシロは居た。

 誰か人の気配がし、水の出る魔剣『ジャビガワ』を引き抜く。

「誰? 出てきなよ」

「魔人様、魔人様でしょうか!!」

 ミシロは驚く。自分を魔人と呼ぶ人間がいた事に。

「私は魔人様じゃないよ」

「いえ、あなたのお噂は聞いています」

 ミシロは魔剣を振って水の刃を飛ばすも、それは避けられてしまった。

「私どもは、魔人様を崇拝する『黎明の呼び手』の者です」

「なにそれ、知らない」

 素っ気なく返すミシロだったが、次の言葉に興味を持つ。

「私どもは世界に道具を残した魔人ラメル様を信仰しております」

「ラメル様を知ってるの?」

「はい」

 ラメルの名が出て、ミシロは人間たちを見据えた。

「恐れながら、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「私はミシロ」

 短く言葉を返すと、人間たちは膝をついて頭を下げる。

「ミシロ様、ミシロ様はラメル様とどの様なご関係で?」

「そんなの、知ってどうするの?」

 相変わらず魔剣を握り締めたままだが、相手も肝が据わっているのか動じない。

「ラメル様は私どもにとって神を超えた存在でございます。少しでもラメル様の事を知りたいのです」

 人間のくせに良いことを言うなとミシロは思った。

「私はラメル様に助けられた。力も貰った。だからラメル様がしたかった世界をメチャクチャにするって夢を叶えたいの」

「やはりラメル様とお繋がりがあったのですね!! ミシロ様、その思い我々も同じでございます」

 どうも相手は嘘をついているように思えない。

「本当に?」

 剣を突きつけてミシロは聞いた。

「本当にそう思ってるの?」