夕日に照らされる村の外にアシノ達とジョンは居た。村人総出で見物人になっている。

「私の能力は周りを巻き込みます。戦うのならば、代わりに腕の立つ者と対峙して頂きます」

「ふっ、舐められたものですね……」

 口ではそう言っていたが、ジョンはあの鳥に追われた時を思い出して膝がガクガクしていた。

 あの時とは違うと自分に言い聞かせ、正気を保つ。向かいに居るアホっぽそうな男ならば、今回は勝てると。

「いつでもどうぞ」

 アシノに言われ、ジョンは拳を構え、一気に衝撃波を出した。

 拳の形をした青色の波動が飛び、ムツヤを捉える。

 しかし、それは最小限の動きでかわされてしまった。

「おぉ……!!!」

 見慣れない魔法に驚く村人達。ジョンの仲間である女剣士と魔法使いがエールを送る。

「ジョンの兄貴ー!! 負けるなー!!」

「ジョン様ー!! 頑張ってー!!」

 パンチを繰り出しながら突っ込んでくるジョン。ムツヤは足を引っ掛けて転ばせた。

「うぐうう!!」

 地面に倒れるジョンは屈辱を味わう。




 その後もムツヤに攻撃をかわされ、転ばされ、ジョンはボロボロになっていく。

「はぁはぁ、ちぐじょー!!」

 鼻血を出しながらジョンは言う。

「そろそろ降参された方が良いのでは?」

 敵とは言え流石に見ていられないアシノが言うが、ジョンは立ち上がった。

「俺は勇者だ!! 誰が何を言おうと勇者なんだ!!」

「アシノ!! ヤバいわよあの人!! 本当に死んじゃうわよ!!?」

 目を閉じてアシノは考える。面倒くせーと。

「あーもう、分かった。あなたは勇者です。お前等ー撤収だー」

「わがりまじだ!!」

 ムツヤはジョンに背を向けて歩き出した。皆もぞろぞろとアシノにの後を着いていく。

 村人と仲間からは歓声が上がった。

「やはりジョン様は勇者です!!」

「ジョンの兄貴!!」

「はぁはぁ、俺はやったぞー!!!」




 ムツヤ達は村から離れた人通りが殆どない森の中で家を取り出す。

「しかし、アシノ殿。あのジョンとかいう男、アレで良かったのですか?」

 モモの言葉にソファーで眠そうに目を閉じるアシノは返事をする。

「まぁ、良いんじゃないのか?」

 もしゃもしゃクッキーを食べながらルーも言う。

「勇者の偽物って、いつの時代もいるしねー」

 そんな中、ギルスから連絡が入り、目の前に姿が映し出された。

「みんな、動いている裏の道具の反応が近くにある。気を付けてくれ!!」

 裏の道具の反応はあの村からだった。ムツヤ達は急ぎ村へと向かった。

 一方その頃、村には珍妙な客が現れる。

「オラオラァ!! 魔人『チィター』様のお出ましだ!!」

 村の遥か彼方から一気に走ってやって来た男がそう名乗った。

「ま、魔人だと!?」

 村の衛兵がそう言って槍を構える。

「そうだ、俺様こそが新たなる魔人、チィター様だ!!」

 確かに目の前の男は人間離れした速さで走ってきた。自分達だけでは勝てないかもしれない。

 だが、今この村には彼がいる!!

「勇者様だ、勇者様を呼べー!!!」

「なっ、勇者だと!?」

 一人が宿に向かいジョンを呼びに行った。



「ジョン様、カッコ良かったです!!」

「流石、勇者様だよなー」

 女魔法使いと剣士に囲まれ、ジョンは気を良くしている。

「ふふ、それほどのものじゃありませんよ……」

 そんな中、衛兵の叫びが外から響く。

「勇者様!! 魔人が現れました!! お助け下さい!!」

 ジョンは持っていたコップを落とし、地面に転がった。そんな事もお構いなしに事態は動く。

「魔人だと!? ジョンの兄貴!!」

「ジョン様!!」

「あ、あぁ、分かっています」

 内心ガクガクしているジョンは仲間達と魔人の元へ連れ出された。

「貴様が勇者か、俺様は魔人チィターだ!!」

「魔人チィターですか? 聞いたことありませんね……。私は勇者ジョン!! 今降伏すれば許してやらない事もありませんよ?」

 ジョンに言われ、チィターは怒る。

「俺様は魔人だ!! それにジョンだかジョニーだか知らねえが、そんな勇者聞いたことねーぞ!!」

「私は勇者だ!!」

 ジョンはそう言い張った。

「まぁいい、戦ってみれば分かることだ。俺のスピードに付いてこれるかな!?」

 チィターは風のように走る。目で追えないぐらいの速さだ。それを見てジョンは焦る。コイツは本当に魔人なのではと。

「えぇい!! 食らえ!!」

 やけくそにパンチを数発出すと、チィターに当たりこそしなかったものの、地面は爆撃を受けたように(えぐ)れ、木々は真っ二つに倒れた。

 それを見てチィターは冷や汗を流す。コイツは本当に勇者なのではと。

 チィターは一気に距離を詰めて連撃をジョンに食らわせた。ボコボコにされたジョンは吹き飛ぶ。

「へっ、勇者ってのも大したことねーな!!」

「ジョン様!!」

 だが、吹き飛んだジョンは立ち上がり、パンチを繰り出した。

「それがスゲーのは分かったけどよ、当たらなきゃ意味がねーんだよ!!!」

 チィターの言う通りだった。ジョンのパンチは一発も当たっていない。