ナツヤは再び翼竜を召喚して上空へ羽ばたき、火の玉をサツキに向かって吐かせた。

 それに対し、剣を数回ふるい火の玉を消滅させ、サツキは魔剣で上昇気流を作り、空へと舞い上がる。

 二刀流のサツキは腕を開き、思い切り魔力を込めた。剣には竜巻がまとわり付き、竜の体を抉る。

 たまらず咆哮を上げた後、竜は消滅した。落下するサツキは地面に向けて風を放ち、フワリと着地する。

 そんな芸当が出来ないナツヤは地面に叩きつけられそうになるも、またスライムに包まれ無傷だった。

「やりますね」

 土埃の中からナツヤが現れた。そして、手を天高く上げる。

 次の瞬間だった。カマキリやアリ、ハチなど虫を模した巨大な魔物達がサツキを取り囲む。

「っく……」

 一体一体戦えば、余裕で勝てるだろうが、いくらなんでも数が多すぎる。

 そんな時だった。虫の魔物が弾け飛んだ。その方向を見ると。

「遅くなりました」

 元勇者トチノハと仲間達が立っていた。

「トチノハさ……、トチノハ!! 何をしに来たのですか!?」

 一応、敵同士ということになっているので周りの目を気にしてサツキは言う。

「まぁまぁ、今は魔人に集中しましょう」

 トチノハの仲間であるエルフの『キヌ』がサツキに言った後で、トチノハはナツヤに向かって語りかける。

「ナツヤさん……。で良かったかな? 実は私も虐げられていた亜人と共に国を変えようとしていたんですよ」

 協力関係にあるとは言え、いつトチノハが裏切ってもおかしくはない状況だ。

 そんな中、そのような事を言い出したのでサツキはまさかと思った。

「確かに今の国王は牛の糞以下です。ですが、あなたのやり方は、あまりにも一般の国民を犠牲にしすぎる」

「黙れ、知ったような口を効くな!!!」

 ナツヤは虫の魔物を仕向けるが、トチノハの爆破魔法で木端微塵に吹き飛んでいく。

「あなたは勇者として止めなくてはいけない」

 トチノハはナツヤに矢を放つと、魔物が前へ出て体で受け止めた。

「サツキさん。狙うなら恐らく本体です。彼は魔物を使う力はあっても、本人はそこまで強くない」

 トチノハの言葉にサツキは軽く頷く。

「面白そうな事になってますねー」

 魔物達を切り裂く稲光。カミクガと聖女クサギもサツキの元までやって来た。

「とにかく魔人に攻撃を入れるぞ!!」

 クサギが全員に支援魔法を掛ける。皆、体が軽くなるのを感じた。

 キヌが矢で魔物を射止め、モモの父親であるオークの『ネック』は大剣で魔物を斬り捨てていく。

 カミクガが道を切り開き、その後ろをサツキとトチノハが走る。

 ナツヤを守ろうと前に出てきた魔物を爆破魔法で消し飛ばし、その空いた隙間からサツキが飛び出た。

 サツキの剣は一直線にナツヤの首を捉え。



 喉仏を貫いて、串刺しにした。



 ナツヤは真っ暗な空間に居た。不思議と不安は感じない。

「ナツヤ、残念だったね」

 フユミトが現れた。ナツヤはゆっくりと前を向く。

「俺は……、死ぬのか?」

 ナツヤの問にフユミトはゆっくりと頷いた。

「肉体は、もう保たないね」

「そっか……」

 死ぬというのに、ナツヤは安らかな気分だ。怒り、憎しみ、悲しみの感情から解放されていた。

「死ぬのは、怖くないかい?」

 フユミトに聞かれ、ナツヤは答える。

「怖くは……、ないかもしれない」

 お世辞にもいい人生だとは言えなかった。クソみたいな人生と、クソみたいな世界から旅立てるなら、こんな嬉しいことはない。

「でもね、ナツヤ。ナツヤの意志は消えないよ」

「どういう事だ?」

「『黎明の呼び手』は人々の中に生き続ける。ナツヤのした事は無駄じゃなかったんだよ」

 もはやどうでも良かったが、意志が消えないというのは良いかもしれない。

 黎明の呼び手よ、世界を壊せ。全てを壊せ。



 サツキが突き刺したナツヤの亡骸は魔物のように、煙となって消えてしまった。

 それと同時に、魔物達も消え、歓声が上がる。

「それじゃ、捕まる前に逃げるとしますよ」

 トチノハ達はどさくさに紛れて何処かへ姿をくらます。

「サツキ、やったじゃん!!」

 クサギが駆け寄ってサツキに声を掛けるも、浮かない顔をしていた。

「私は、私は弱い者の声を力で封じ込めてしまったのだろうか」

「サツキ……」

 クサギはなんて声をかければ良いのか分からなかった。

 確かに、相手は人生によって狂ってしまい。魔人になった者だ。

 答えはしばらく見つからないのかもしれない。



 アシノ達にも魔人撃破の知らせが届いた。

「ムツヤ、魔人が倒されたみたいだ」

「!! わがりまじだ!!」

 馬車より先行して全力疾走していたムツヤもその知らせを受けて足を止める。



 ナツヤが倒されて三日後、勇者たちは王都に集められていた。

「よくやったな、サツキよ」

 王から直々に讃えられたサツキだが、今だ悩みのある顔をしている。

「はっ、身に余る光栄でございます」

 思い切ってサツキは言うことにした。

「王、恐れながら進言したき事がございます」

「なんだ、言ってみろ」

「はっ、件の魔人ナツヤですが、元は奴隷のように強制労働を強いられていた一介の国民でした。それが魔人の残した武具を手にし、あの様になりました」

 王は明らかに不機嫌そうな顔になっていく。

「二度とあの様な存在を生み出さないために、国民が平等扱いを受けられるように……」

「もう良いサツキ」

 王はサツキの言葉を遮った。

「良いか、お前は勇者であり、政治家ではない。お前達は魔人の残した武具を集め、国を守ることを考えれば良いのだ」

「はっ、失礼致しました!!」

 サツキは悔しそうな顔を伏せて言う。