「勇者……、か」

 意外にもナツヤは落ち着いていた。

「ナツヤ、冷静だね」

 フユミトに言われ、あぁと言葉を返す。

「勇者ってのは弱い者の味方だろ? いつ勇者が俺達の味方をしてくれた? 俺はそんな者を勇者だと認めない」

 仲間達からもそうだそうだと声が上がる。

「そうだよ、俺達にとってはナツヤさんが勇者みたいなもんだ!!!」

「俺が……、勇者?」

 そう言われ、ナツヤは照れと高揚感を感じていた。フユミトが言う。

「そうだね、僕や仲間をどん底から助けてくれた。そして弱い者の心が分かるナツヤこそ勇者だ」

「そうだ!! 勇者ナツヤだ!! アンタこそ勇者だ!!」

 ナツヤは目を閉じて、スゥーッと息を吸う。

「あぁ、俺が国を変えるんだ!!」

 その決意を見てフユミトはふふっと微笑んだ。

 そんなやり取りをして、少し皆が落ち着いた頃。ナツヤとフユミトは軽食を食べながら、今後の動きについて相談をしていた。

「僕は、最初に襲った貴族の城で籠城をするのが良いと思うよ」

「そっかー……」

 正直言って、ナツヤは良い思い出が無いあの場所の付近へ行くのは気が引けたが、勇者を迎え撃つにはフユミトの言う通りにした方が良い気がする。

「金も食料も、武器もある。僕達はもう弱者じゃない。それに僕達にはナツヤが居る」

 フユミトにまっすぐ見据えられて言われ、ナツヤは思わず照れて視線を逸らす。

「そうだな、俺が皆を守る」

「そうと決まれば引き返そう」

 ナツヤとフユミトは翼竜に、仲間達は荷車に乗っかった。



 黎明の呼び手が去った後の街は静まり返っていた。悪夢だったのでは無いかと思えるほどに。

 食い散らかされた死体に、血の跡。まさに街は地獄絵図だ。

「お父さん、お父さん!!」

 抵抗した富裕層は容赦なく剣で刺された。父を失った少女の泣き声が響く。



 翌日、街の惨状は王都まで届く。首謀者の名前はナツヤと言うことが分かり、国はナツヤを魔人と認定し、急ぎ勇者に討伐させることにした。



 ムツヤ達はとある街の冒険者ギルドに居た。

「赤髪……、勇者アシノ様ですか!?」

 ギルドの受付嬢にそう言われ、アシノは答える。

「えぇ、そうです」

「突然の事で申し訳ありませんが、ギルドマスターが待っています。奥の部屋へご案内します!」

「わかりました」

「アシノ様、ようこそお越し下さいました。そして、突然申し訳ありません」

 この街のギルドマスターが言う。

「いえ、何かご要件があるのでしょうか?」

 アシノが返すと、ギルドマスターは少し言いにくそうに話す。

「レイード地方に魔人が現れました名をナツヤと言います。国からの命令で、アシノ様には魔人ナツヤの討伐をお願いしたいのですが」

 アシノは初めて聞いたとばかりに、目を丸くする。

「魔人ですか……。分かりました。レイード地方へと向かいます」

 その後、数回会話をはさみ、正式にアシノが魔人ナツヤを討伐することになった。

 出発してから、すっかり夜になり、ムツヤ達は野営の準備を始める。

 街道無を視してレイーど地方へと向かっている為、宿は無かった。

 定期連絡の時間だ。アシノは他の勇者に連絡を入れる。

「アシノせんぱーい!!」

 手を振るサツキを無視してアシノは話し始めた。

「私は正式に魔人討伐の依頼を受けました。イタヤさんはどうですか?」

「あぁ、俺もだ。足並みを合わせますか?」

 イタヤの言葉にアシノは答える。

「えぇ、その方が良いでしょう。あとどのぐらいでレイード地方に着きますか?」

「頑張れば4日って所かな」

「分かりました。私達の方が先に着きそうなので、周辺の街で情報を集めます」

「よろしくお願いします。アシノさん」

 そんな会話をしていると、トチノハが話し始めた。

「私達も陰ながら加勢させて頂きますよ」

「分かりました。よろしくお願いします」


 アシノ達がナツヤを倒すために、馬車でレイード地方へ向かい始めた頃。その敵達は最初に襲った貴族の城へと向かって行った。

 襲われた痕跡や、黎明の呼び手の情報を集めるために数十人軍隊が居たが。

「進めー!!!」

 デュラハンや魔物達の行軍により、簡単に壊滅してしまった。

 静まり返った城内へ入ると、フユミトは城門を確認する。

「うん、城門は大丈夫みたいだ。他の防壁もそんなに傷が付いていない。籠城にはもってこいだね」

 その報告を聞いてナツヤは頷く。

「よし、勇者が何だ!! 全部迎え撃ってやる!!」

 仲間達は歓声を上げていた。ナツヤは手始めに城の周りに魔物達を配置する。

 夜になり、ナツヤとフユミトは同じ部屋で過ごしていた。ナツヤはここ数日で初めて知ったビールを飲んで機嫌が良い。

「酒ってやつは良いな。フユミトも飲んだらどうだ?」

「いいや、僕は大丈夫だよ。お酒弱いんだ」

 そうなのかと、つまみのサラミを食べて一気にビールで流し込んだ。

「勇者を倒したら、俺はどうすれば良いと思う?」

「うーん、そうだね」

 フユミトは少し間を置いて話し始める。

「やっぱり王都を襲って、ナツヤのやりたいようにすれば良いと思うよ」

「そっか」

 やりたい事は決まっている。二度と自分のような人間が生まれないために、平等な国を作ることだ。

「まずはこの国を変えて、いずれ世界も変えたい。弱者なんて居ない、平等で、みんなが幸せに暮らせる世界が」

「ナツヤならきっと出来るよ」