「ギルス、どうせお前には嘘が通用しないから最初に言っておくぞムツヤ殿は少々『訳あり』だ」

 意味深にモモはそう言うが、ギルスは笑って答える。

「大丈夫大丈夫、俺はこの店で盗みを働く者以外は、冒険者から殺人犯まで誰でもウェルカムだ!」

 ギルスは徹底的に客を選ばなかった。誰からでも買うし誰にでも売る。

 良くも悪くも大衆とは違う倫理観を持っていた。

「で、その剣を売りたいんでしょ?」

 言葉に出してもいないのに自分の望みが分かるなんて、流石は商人だなとムツヤは感心する。

 だが、普通の服装で高価な剣だけを握りしめて武器屋に入れば誰だってわかるものだ。

「これ、親の形見の剣なんでず。俺は冒険者になってハーレムを作るために田舎から来ました。だからこれを買って下さい!」

 しまった、とモモはまた額に手を充てた。外でハーレムハーレム言わないようにちゃんとムツヤを教育しておくべきだったと。

「ハーレム? ってことはモモちゃんはハーレム要員1号って事!?」

「ち、違う!!」

「モモさんは違いまず、俺も勘違いしでだんですが。本当はオークは女騎士を襲わないし人間とオークが好きになる事は無いんですって」

 それを聞いてギルスはまた笑い出す。また今日も退屈な1日になるかと思っていたが、退屈せずに済みそうな予感がした。

「まぁいいや、親の形見ね。そういう事にしておくよ」

 ギルスはにやりとモモに意味ありげな笑顔を見せる。

 商売をする上でお客と仲良くなることは必要ではあるが、面倒に巻き込まれそうな事は聞かないほうが良い。

 そうでないと、善意の第三者で居られなくなってしまう。

「それじゃ査定をするから貸してくれるかなムツヤくん、俺のことはギルスって呼んでくれ」

「あ、それじゃお願いしますギルスさん!」