それは日が高く登る昼間のことだった。貴族の私兵が山から来る魔物の大群を見たのは。

「なっ、何だアレは!!」

 急いで城に知らせようと引き返すが、首を矢で貫かれてしまい絶命する。

 どんどん近づくに連れて、城内も魔物の大群に気付く。

「兵は1人も残さず討ち取れ!!!」

 デュラハンが指揮を取り、魔物が押し寄せる。

「じょ、城門を閉めろ!!」

 硬い扉が閉ざされるが、空を飛べる鳥の魔物が上空から侵入を始めた。

「打て、打てー!!」

 城壁の上では兵たちが矢を放っていたが、上からも下からも現れる魔物達に蹂躙され、殺されていく。

 鋭い爪を持つ魔物達は城壁を登り始めていた。ナツヤや開放された鉱夫達は唖然とその光景を見ていることしか出来なかった。

 まるで夢の中に居るような、そんな感覚だ。

 城内に侵入した少し知能の高い魔物が、城門を開ける。デュラハンが剣をその開かれた門に掲げ。

「進めー!!! 抵抗する者は殺せ!!!」

 そう言って突撃した。城が陥落するまで、時間にして二十分も掛からなかった。 

 もはや、抵抗する者は居なくなり、使用人や貴族の家族しか城には残っていない。

 デュラハンが城から馬に乗り飛び出て、ナツヤのもとまでやって来た。

「もはや抵抗する者はおりません。どうぞ城内へ」

 魔物の引く車に揺られて坂道を駆け下りる。そこら中にある無惨な死体にナツヤは気分が悪くなった。

 城の中へと入る。そこには貴族達が捕らえられていた。

「な、なんなのだ、これは一体なんなのだ!!」

 年を一番とっている男がそう喚いていた。フユミトがナツヤに声をかける。

「憎い貴族様だよ。どうする?」

 その言葉でナツヤの怒りに火が付いた。

「俺はレイードの鉱脈で働かされていた!!」

 貴族はそれを聞いて言葉を返す。

「何だ、反乱か!? だが何故魔物が……」

「死ねえええええええええ!!!!!!」

 ナツヤは後ろ手に拘束されている男を殴った、何回も殴って蹴った。この男がこの世の全ての悪に思えた。

「ぐ、やめろ、やめてくれぇ!!」

 命乞いをされ、手を止めるナツヤ。フユミトがまた尋ねる。

「この人どうするの?」

「コイツが、こんな奴らが居るから!! 俺みたいなのが居るんだ!!」

「殺すかい?」

 殺すかと聞かれ、ナツヤは少し戸惑う。

「た、助けて、助けてください……」

 殴った貴族の妻らしき女も必死な顔で言った。

「この人達は、ナツヤが助けてほしいって思った時。助けてくれたかな?」

 ナツヤは覚悟を決める。

「デュラハン!! コイツ達を殺してくれ!!!!!!」

 デュラハンの返事はなかった。代わりに剣で貴族の首を刎ねる。

 悲鳴が上がった後、残った家族達も魔物の群れが押し寄せて、食いちぎられる。

「ふ、ふふははははは!!」

 ナツヤはかつて無い爽快感を味わっている。俺は人生に、運命に打ち勝った。

 そんな時、トロールが城内から出てきた。子供を3人担いで。

 子供は泣いて「助けてー!!」と叫んでいた。デュラハンとナツヤ達の前にトロール達はやって来る。

「まだ生き残りが居たか、どうなさいますか? ナツヤ様」

 そう聞かれてナツヤは戸惑う。相手は子供だ、それに泣いている。

「殺さないの? ナツヤ」

「いや、殺すって……」

 ナツヤは先程までの高揚はどこへやら、肝を掴まれたような気分になっていた。

「まさかさ、ナツヤ。子供には罪が無いなんて考えてる?」

 フユミトに心の中を見透かされたように言われ、何も言葉が返せない。

「で、でも子供にはっ!!」

 そこでフユミトに言葉を遮られる。

「この子供はナツヤ達が鉱脈で働いた犠牲の上に幸せを享受(きょうじゅ)していたんだよ。皆が一生食べられないようなごちそうを食べて、いい服を着て、苦しみもなくふわふわのベッドで寝ていたんだ」

 それを聞いてナツヤの心は揺れ動いた。

「憎いやつの子供だったってだけで罪になるには充分じゃない? それにこの子供達は大きくなったらあの鉱脈の主になっていたんだろうね」

「それは……。そうかもしれない……」

 ナツヤは歯を食いしばって下を向き返事をした。子供達は泣きわめいている。

「泣けば助かると思ってるのかな? ナツヤは泣いて助けてもらえた?」

「違う……」

「それに、見逃したら子供達は助けてもらったなんて思わないよ? 僕達を親の仇として一生恨む」

 ナツヤは荒い息をする。自分はなんて選択をしたら良いんだと。

「いかがなさいましょう? ナツヤ様」

 デュラハンに聞かれる。周りの魔物達もよだれを垂らし、今にも飛びかかりそうだ。

 でもダメだ、やっぱり子供は、憎いけど子供は……。

「おい、やっちまおうぜ!!」

「新入りの言う通りだ、ガキだって許せねぇ!!!」

 周りで話を聞いていた鉱夫達もそんな声を上げていた。

「や、やめ……、や……」

 ナツヤは戸惑いながら言葉が漏れていた。皆がナツヤを見ている。









「やれ!!!! 殺せ!!!!!」