「おー、おはよう皆!!」

 ギルスから赤い玉で通信が入る。寝不足気味なのか、目の下にはクマができていた。

「裏の道具の行方(ゆくえ)を追っていたんだけどね、まぁそこら中に落ちてるわけだけど」

「そうだな」

 アシノは言いながら、ムツヤのカバンから裏の道具が飛び散ったあの日を思い出す。

「人の目につかない場所に落ちている物は、後で君達やスーナの街の冒険者ギルドの警邏(けいら)が回収するとしてだ」

「何よ、もったいぶらないで言いなさいよ!!」

 ルーはいちいちギルスに突っかかる。ギルスはルーをスルーして続けた。

「一番気をつけなきゃいけないのは『動く』裏の道具の反応だ」

「人が持ち歩いている可能性があるって事か」

「その通り、それが大人しく回収してギルドに渡す冒険者だったら良いんだけど」

 あまりギルスは浮かない顔をする。アシノは昨日のことを話題にした。

「さっそく昨日、裏の道具を悪用する奴が現れた」

「本当かい!? 大丈夫だったか?」

「あぁ、幸いにもマヌケなやつでな」

 アシノがそう言うと「それは良かった」とギルスは苦笑いする。

「巨大探知盤でギルドに向かわず動いている点を追っていたんだ。そっちのは街中だったから逆に盲点だったよ。申し訳ない」

「良いんだ、それで分かったことは?」

「イタヤさんがソルトフィールド地方に石を埋めてくれたお陰で、サンライト地方も少しだが見ることが出来るようになった。そこで気になる裏の道具の反応があったんだ」

 ギルスは皆に見えるように一枚の探知盤を取り出した。

「ここの裏の道具の反応なんだが、夜になると高速で移動するんだ」

 そう言って地図に光る赤い点を指差す。

「夜になると動く……」

 ユモトが口に出すと、ルーも真剣な顔をして言う。

「そうね。人が操っているか、そういう自立型の裏の道具なのか」

「俺もそう思ってね、ちょっと気になったんだよイタヤさんに聞けば何か情報を仕入れているかもしれないね」

「なるほどな、わかった。少し聞いてみる」

「頼んだよ勇者アシノ。それじゃ俺は監視と研究に戻るから」

 ギルスとの通信が終わり、次はイタヤに情報を聞いてみることにした。

「はいはい、おはようございます」

 アシノがさっき聞いたことをそのままイタヤに伝えると「そうだなー」と言って、ハッとした顔をする。

「そう言えば、サンライト地方でオオムカデが出たとか出ないとか聞きましたね」

「オオムカデ……ですか」

 オオムカデと聞いてアシノ達は何かを思い出そうとしていた。最初に思い出したのはモモだった。

「ラハガのオオムカデ伝説ですか?」

「あー、そんな伝説あったわねー」

「サンライト地方のラハガにはオオムカデと大蛇が戦ったという伝説があるのです」

「オオムカデでずか!?」

 モモの話にムツヤは思ったより食いついていた。

「普通のムカデの一万倍大きいらしいぞ! まぁ、伝説だから。実在はしないだろうがな」

 イタヤがハッハッハと笑いながら言うが、次のムツヤの言葉でその笑いは止まる。

「え、塔で戦ったことありまずけど……」

「あっ、あー……。居るんだオオムカデ……」

 裏ダンジョンのスケールの大きさを知る一行だが、アシノが待てよと考え事をした。

「ムツヤ、そのオオムカデを召喚できる裏の道具は無かったのか?」

 その言葉にムツヤはうーんと考えて話し始める。

「俺が使った中にはありまぜんでじだ」

「そうか、気付いていないか、裏の道具を応用しているのかもしれないな」

「あ、あの!! 本当に伝説通り、オオムカデが現れたってことは……」

 ユモトがおずおずと言うと、アシノは否定をする。

「いや、裏ダンジョンならともかく、この世界でそれは無いと思う。それこそ裏の道具でも使わない限りはな」

 アシノの言葉にイタヤはやれやれと頭をかいた。

「こりゃ厄介なことになりましたね。俺達も応援に行きましょうか?」

「いえ、イタヤさん達には一刻も早く裏の道具の回収をお願いしたいです」

 アシノの言葉にイタヤは頷く。

「了解! それじゃサンライト地方はお任せしますよ!」

「えぇ、それでは早速出発します」

 イタヤとの会話を終え、ムツヤ達はサンライト地方を目指して馬車を走らせる。



「サンライトってどんな場所なんでずか?」

 馬車の中で干し肉をかじりながらムツヤが質問をした。すると、クッキーを頬張っているルーが答える。

「山だらけの場所ね、中でも霊峰『ニャンタイ山』が有名よ!! ギチットで一番高い山ね。後は昔の王様のお墓があるわ!!」

「へー!! 楽しみでず!!」

「観光旅行に行くわけじゃないんだぞー」

 横になって目を瞑っていたアシノが言う。

 そんな中、探知盤を眺めるユモトが「あっ」と声を出した。

「この裏の道具の反応、動いてます!!」

「回収に当たる冒険者だったら良いんだが、一応見に行ってみるか」

 その反応までは十キロメートルほど、一行は少し寄り道をすることになった。