大きな街『スーナ』へと続く道を歩く男女二人組が居る。

 男の名前は『ムツヤ・バックカントリー』だ、肩まで伸ばした黒髪と茶色い目。

 彼の住んでいた家は裏庭が裏ダンジョンで、小さい頃からそこで遊んでいる。

 なので反則級の強さと、この世の理をひっくり返しかねない道具を山程持っていた。

 腰に下げている剣は斬ると相手が燃え上がる。

 いわゆる魔剣だ。銀色の鎧はどんな高温にも低温にも耐性があり、快適だからといつも着ていた。

 女の名前は『モモ』、オークは種族全員が家族という思想があるので名字はない。

 緑色の肌で、頭に被った兜から結った栗色の長髪をしっぽのように出している。

 見た目はオークと言うよりも人間に近い。

 朝にオークの村を出て夕暮れまでには街に付く計算だったが、2人共体力には自信があったのと、荷物はカバンに仕舞ったので身軽な事があり、だいぶ予定より早く街に着きそうだった。

 二人は取り留めもない雑談をしていたが、その話題が尽きた頃、何か話題をと考えたモモは一番重要な質問をしていなかった事に気が付く。

「ムツヤ殿、私が言えることではないが、街に付いた後で当面の生活はどうなさるおつもりですか?」

 ムツヤはカバンから取り出したパンをむしゃむしゃと食べながら答える。

「とりあえずそーでずねー、店って奴でカバンの物を何個か売っでバレシってのに変えようがなと思っでまず」

 バレシはこの国の通貨で10バレシで丸いパンが1つ買えるぐらいの価値だ。

 オークの村からは感謝の気持ちとして「今の村にあるだけです」と30000バレシ程の金を送られたが、ムツヤは辞退した。

 今だに亜人は人の見た目からかけ離れるほど差別を受ける。

 オークが就ける職業は少なく、そうでなくても、畑と狩りで必要なものを必要な分だけ自給自足する事を好む彼らにとってそれは大金であった。

 村を出る前に集会所でその謝礼金の事を告げられたが、惨劇が起きた事に付け込んでいる様で気が引けたムツヤはそれを受け取らなかったのだ。

 村長とムツヤの間で受け取ってくれ、要りませんとのやり取りが2,3回続いた後にモモからこんな提案をした。

「しかし、薬代と村を救ってくれたお礼をしなくては一族の恥だ。なので30000バレシには遠く及ばないと思うが、私をしばらくムツヤ殿の従者にしては頂けないだろうか?」

「従者っで言うど…… 一緒に旅をしでぐれるどいう事ですよね?」

 ムツヤがそう言うとモモは笑顔で頷いて胸を張る。

 そして、カシャカシャと小気味よい鎧の金属音を出して姿勢を正す。

「お任せを、ムツヤ殿の身の回りのお世話と、いざとなったらこの身を盾にしてでもお守りいたす!」

 結局ムツヤが受け取ったのは1000バレシと食料が2日分、そしてオークの従者だった。



「まぁ武器や防具に色々とありますし、適当に売れば大丈夫ですよ」

 あっけらかんとムツヤが言うと、突然胸元の紫色のペンダントが光りだした。

 モモは慌てて立ち上がり、ムツヤは眩しさから手のひらで目を隠す。