「あーじゃあ俺とじいちゃんの二人しか居なぐでですね、周りは結界で囲まれてたのですよ」
「結界で……?」
モモとロースは互いを見つめ合って不思議そうな顔をし、視線をムツヤに戻す。
「失礼ですがムツヤ様、住んでいた場所の名前は何というのでしょう、もしかしたら何か分かるかもしれませんので」
村長のロースは至極当然な質問をする。
だが、その質問にはムツヤも困ってしまう。
「うーん…… 今まで気にしたことも無かっだし、じいちゃんも『田舎』としか言わなかったから…… そう言えばわからないです。聞いておけば良かった……」
確かに閉じた空間に住んでいるのであれば、そこが世界の全てだから地名なんて物は無いのだろうとモモは察した。
「そうですか。いえ、お話を遮ってすみません」
ロース村長はそう言って少し考える。
確かに変に知らない地名が出るよりもその答えの方がしっくりと来る。
「そんなある日、俺はこの本を拾いましで。外の世界には冒険者ってのが居で、女の子とハーレムっでの作るんだと思ったらドキドキして眠れなくなっで」
「えっ」
ムツヤが急にとんでもない大火炎魔法の爆発級発言をしてモモは固まる。
村長も思考がピタリと止まってしまった。
手に持っている本の表紙には際どい格好をした女のイラストが描かれている。
「俺もハーレムを作りたいと思っで、それでじいちゃんにお願いしで外の世界へ出してもらっで、気が付いたらあの森に居たってわけなのですよ」
モモとロースは話を整理するために考えた、ムツヤ殿は結界に住んでいた。
ここまでは、まぁわかる。それでハーレムを作るために外の世界に来たと言っていた。
「ちょっと待って下さいムツヤ殿、ムツヤ殿はえーっとその…… ハーレムを作るために冒険の旅へ出たのか?」
「そうです!! 話を読むだけでドキドキするのですがら、きっど作っだら凄い楽しいに違いないと思っで」
子供のようなキラキラした笑顔を作って、最低のゲス男みたいな発言をする村の恩人に、自分は何と言えば良いのだろうかとモモは悩んだ。
多分、ムツヤ殿はハーレムというものを勘違いしていると。
「ムツヤ様…… そういったハーレムを作る人間も確かに居ることは居るでしょうが…… 夢を壊してしまい申し訳ない、一般的にハーレムなんて作れないし、作らないのです」
モモの代わりにロースが言いにくい事を伝えてくれた、するとムツヤは衝撃を受けて固まってしまう。
「そうなんでずか!?」
「まぁ……」
ロースにそう言われると分かりやすいぐらいにムツヤは落ち込んだ。
今にも口から魂が抜け出ていってしまいそうだった。
「あの、ムツヤ殿、そこまで気を落とされずに」
男がハーレムを諦めた。
それだけ聞けば、馬鹿な夢から目覚めて身の程を知っただけの事なのだが、モモは何だかいたたまれなくなり、ムツヤを励まそうとする。
「そうですね、せっかく苦労して家を出たんですから、これぐらいで俺は夢を諦めません」
「えっ」
短い間だがムツヤの事を何となくわかっていたモモは悟ってしまった。
雲行きが怪しくなる、またとんでもない事を言い出すと。
「本の冒険者も夢は諦めなければ叶うと言っでましだし、それで、最後は魔人を倒しでいましだ。俺はそのハーレムを作るためにこの世界に来たんです、ですがら絶対にハーレムを作っでみせます。夢は諦めません!」
「えーっと、いやその何というべきか」
目の前でハーレムを作るなどと言っている男が居たらとしたら、そいつはほぼ間違いなくクズだろうし軽蔑の対象になる。
しかしながらモモは純真な目でそんな野望を語る男に何と言葉を掛ければ良いのか戸惑った。
「そこでモモさん。さっき何でもしてくれるって言ってましたよね?」
「あっ、うっ、それはその」
このタイミングで先程の口約束を持ち出されたモモは身構えた。
ムツヤの考え、次の行動、発言の何ひとつが分からない。ロースも流石に顔をしかめる。
「本当はお礼とか別に良かったんですけど、少しだけ頼み事をお願いしたいので聞いてもらえませんか?」
まさかとモモは思う。
いくらなんでもオークの中でも一番ぐらいに醜い自分を、と思いながら高鳴る鼓動と真っ白になった頭ではパッと浮かんだ言葉を口から吐き出すことしか出来ない。
「えっえっと、ムツヤ殿は素敵な方で、でもムツヤ殿は人間で私はオークで、し、しかも私は醜いですし……
それに知り合って時間が急すぎると思いますし、確かに何でもと約束はしましたが、お互いをもっと良く知り合ってからというか、で、でもムツヤ殿がどうしてもと仰るのなら……
それでハーレムじゃなくて本当に真剣に私だけなら…… って私は何を言っておるのだ!」
「どうしたんですかー? モモさーん?」
ムツヤは今までとは明らかに違う、慌てふためくモモのことが若干心配になる。
モモは今まで男から甘い言葉を言われた事がない。
オークの美的感覚では鼻が低く、下顎から立派な牙が生え、体は太い者が美男美女とされている。
その価値観から言うとモモはオークにとっては醜く見えてしまう。
それ故に、せめて私は強くあろうと、逞しい戦士になれるようにと、この様な態度と話し方になったのだが、今やそれはみじんも感じられない。
「でもやはり勘違いで斬りかかった私を身を挺して助け、更には妹や村のみんなの命を救っていただいた恩は忘れる事が出来ませぬ。戦士に二言は無い! 私はムツヤ殿に一生忠誠を誓い」
「いや、別に一生じゃなくても良いんですけど…… 近くの大きな街まで案内してくれるだけで良いんだけどなーって」
首を傾げながらムツヤがそう言うとアレほど赤かったモモの顔が段々と真顔になって、静かに椅子に座った。
「結界で……?」
モモとロースは互いを見つめ合って不思議そうな顔をし、視線をムツヤに戻す。
「失礼ですがムツヤ様、住んでいた場所の名前は何というのでしょう、もしかしたら何か分かるかもしれませんので」
村長のロースは至極当然な質問をする。
だが、その質問にはムツヤも困ってしまう。
「うーん…… 今まで気にしたことも無かっだし、じいちゃんも『田舎』としか言わなかったから…… そう言えばわからないです。聞いておけば良かった……」
確かに閉じた空間に住んでいるのであれば、そこが世界の全てだから地名なんて物は無いのだろうとモモは察した。
「そうですか。いえ、お話を遮ってすみません」
ロース村長はそう言って少し考える。
確かに変に知らない地名が出るよりもその答えの方がしっくりと来る。
「そんなある日、俺はこの本を拾いましで。外の世界には冒険者ってのが居で、女の子とハーレムっでの作るんだと思ったらドキドキして眠れなくなっで」
「えっ」
ムツヤが急にとんでもない大火炎魔法の爆発級発言をしてモモは固まる。
村長も思考がピタリと止まってしまった。
手に持っている本の表紙には際どい格好をした女のイラストが描かれている。
「俺もハーレムを作りたいと思っで、それでじいちゃんにお願いしで外の世界へ出してもらっで、気が付いたらあの森に居たってわけなのですよ」
モモとロースは話を整理するために考えた、ムツヤ殿は結界に住んでいた。
ここまでは、まぁわかる。それでハーレムを作るために外の世界に来たと言っていた。
「ちょっと待って下さいムツヤ殿、ムツヤ殿はえーっとその…… ハーレムを作るために冒険の旅へ出たのか?」
「そうです!! 話を読むだけでドキドキするのですがら、きっど作っだら凄い楽しいに違いないと思っで」
子供のようなキラキラした笑顔を作って、最低のゲス男みたいな発言をする村の恩人に、自分は何と言えば良いのだろうかとモモは悩んだ。
多分、ムツヤ殿はハーレムというものを勘違いしていると。
「ムツヤ様…… そういったハーレムを作る人間も確かに居ることは居るでしょうが…… 夢を壊してしまい申し訳ない、一般的にハーレムなんて作れないし、作らないのです」
モモの代わりにロースが言いにくい事を伝えてくれた、するとムツヤは衝撃を受けて固まってしまう。
「そうなんでずか!?」
「まぁ……」
ロースにそう言われると分かりやすいぐらいにムツヤは落ち込んだ。
今にも口から魂が抜け出ていってしまいそうだった。
「あの、ムツヤ殿、そこまで気を落とされずに」
男がハーレムを諦めた。
それだけ聞けば、馬鹿な夢から目覚めて身の程を知っただけの事なのだが、モモは何だかいたたまれなくなり、ムツヤを励まそうとする。
「そうですね、せっかく苦労して家を出たんですから、これぐらいで俺は夢を諦めません」
「えっ」
短い間だがムツヤの事を何となくわかっていたモモは悟ってしまった。
雲行きが怪しくなる、またとんでもない事を言い出すと。
「本の冒険者も夢は諦めなければ叶うと言っでましだし、それで、最後は魔人を倒しでいましだ。俺はそのハーレムを作るためにこの世界に来たんです、ですがら絶対にハーレムを作っでみせます。夢は諦めません!」
「えーっと、いやその何というべきか」
目の前でハーレムを作るなどと言っている男が居たらとしたら、そいつはほぼ間違いなくクズだろうし軽蔑の対象になる。
しかしながらモモは純真な目でそんな野望を語る男に何と言葉を掛ければ良いのか戸惑った。
「そこでモモさん。さっき何でもしてくれるって言ってましたよね?」
「あっ、うっ、それはその」
このタイミングで先程の口約束を持ち出されたモモは身構えた。
ムツヤの考え、次の行動、発言の何ひとつが分からない。ロースも流石に顔をしかめる。
「本当はお礼とか別に良かったんですけど、少しだけ頼み事をお願いしたいので聞いてもらえませんか?」
まさかとモモは思う。
いくらなんでもオークの中でも一番ぐらいに醜い自分を、と思いながら高鳴る鼓動と真っ白になった頭ではパッと浮かんだ言葉を口から吐き出すことしか出来ない。
「えっえっと、ムツヤ殿は素敵な方で、でもムツヤ殿は人間で私はオークで、し、しかも私は醜いですし……
それに知り合って時間が急すぎると思いますし、確かに何でもと約束はしましたが、お互いをもっと良く知り合ってからというか、で、でもムツヤ殿がどうしてもと仰るのなら……
それでハーレムじゃなくて本当に真剣に私だけなら…… って私は何を言っておるのだ!」
「どうしたんですかー? モモさーん?」
ムツヤは今までとは明らかに違う、慌てふためくモモのことが若干心配になる。
モモは今まで男から甘い言葉を言われた事がない。
オークの美的感覚では鼻が低く、下顎から立派な牙が生え、体は太い者が美男美女とされている。
その価値観から言うとモモはオークにとっては醜く見えてしまう。
それ故に、せめて私は強くあろうと、逞しい戦士になれるようにと、この様な態度と話し方になったのだが、今やそれはみじんも感じられない。
「でもやはり勘違いで斬りかかった私を身を挺して助け、更には妹や村のみんなの命を救っていただいた恩は忘れる事が出来ませぬ。戦士に二言は無い! 私はムツヤ殿に一生忠誠を誓い」
「いや、別に一生じゃなくても良いんですけど…… 近くの大きな街まで案内してくれるだけで良いんだけどなーって」
首を傾げながらムツヤがそう言うとアレほど赤かったモモの顔が段々と真顔になって、静かに椅子に座った。