そんな二人の慎ましい幸せな日々も長くは続かなかった。

「お、お前達は何なんだ!!」

 ガラの悪い冒険者といった感じの男たちがノエウとナリアの前に現れる。

 ノエウは木の棍棒を手に、ナリアの前に立ち塞がった。

「ど、どっかいけ!!!」

 男たちは一言も話さずに襲撃を開始した。遠慮なく剣でノエウに斬りかかっる。

「あー!!!!」

 その瞬間、ナリアが声を荒げて怒り、蜘蛛の糸をそこら中に吐いた。男たちはそれに絡め取られてしまう。

「くそっ!」

「うわああああ!!!」

 ノエウはその男に叫んで突っ込む。そして木の棍棒で頭を殴った。男はガクリと気絶をする。

「野郎!!」

 他の男たちもノエウとナリアの息のあった連携で次々にやられていった。

「はぁはぁ…… あ、ありがとうな、ナリア」

「あー」

 どんな奴が来ても自分がナリアを絶対に守るとノエウは固く誓う。

 そんな襲撃が度々あったが、その都度2人で追い返していった。ナリアが隣に居れば怖いものなんて何もないとノエウは思っていた。

 それからしばらくして、ノエウとナリアの前に男が1人現れた。ノエウは警戒してナリアの前に立つ。

「こんにちはー。そう怪しいものじゃ無いので警戒しないで下さいよー」

「だ、だ、誰だお前!!」

「いえいえ、僕はあなたを助けに来ました」

 薄っぺらい笑みを浮かべて男は言った。

「助ける?」

「えぇ、これからそちらのお嬢さんを殺しに来る悪いやつが来ます」

 男がナリアに手を向けたので、ノエウはナリアの事を言っているのだと理解する。

「ほ、ほ、ほんとか?」

「えぇ、そこであなたにはこの武器を差し上げます」

 そう言って男は棍棒をノエウに手渡す。

「これさえあれば誰にも負けません、そちらのお嬢さんを守ってあげてくださいね。それでは失礼」

 男は風のように去っていった。そして同時にぞろぞろと人間が出てきた。

「おい、そこのお前!! アラクネから離れろ!!」

 ムツヤ達はめちゃくちゃに振り回される男の棍棒に手を出せずにいた。

「おい、お前はキエーウの一員なのか?」

 アシノが疑問に思っていた事を口にする。裏の道具は持っているが、キエーウの仮面は被っていないし、アラクネと一緒にいる事も疑問だ。

「な、何いってんだ、キエーウってなんだ?」

 男がしらばっくれている様には見えなかった。

 だとすると、やはりキエーウに利用されていて、なおかつ、村長が言っていたアラクネに化かされている人間の可能性が高い。

「全員、男を殺さないように戦うぞ。アイツは利用されているだけかもしれない。まずはアラクネからだ!!」

 全員返事をしてアラクネを集中的に狙うが、男が前に立ちはだかりアラクネを庇う。

 ルーとユモトは遠距離の魔法を打ったが棍棒の一振りで突風が起きてすべて弾き飛ばされた。

「何あれ!? 反則じゃない!?」

 まずいなとアシノは思う。相手がどんどん強くなっていく。

 魔剣ムゲンジゴクを扱いきれずに飲み込まれて消滅した男のことを思い出す。

 男を殺してしまうのならば簡単だが、武器を取り上げるのはその数倍難しくなる。

「作戦を変える、みんな一斉に男を狙うぞ!! ただし、殺すな、武器を取り上げるぞ!!」

 アシノが言うと、最初に仕掛けたヨーリィだった。木の杭を投げて牽制をし、男は棍棒を振り回した風圧でそれを弾き飛ばす。

 その風に紛れてヨーリィは男の右腕に蹴りを入れたが、体重の軽いヨーリィのそれはあまり効いていないようで、逆に男の棍棒で殴り飛ばされた。

 大きく弾き飛ばされて体がところどころ枯れ葉に変わる。

 次に行ったのはルーの精霊達だ、それも棍棒で次々消されていくが、時間稼ぎには充分だった。

 魔法の詠唱を終えたユモトが先端を丸めた殺傷能力の少ない氷柱を無数に飛ばし、アシノもビンのフタを乱れ打ちした。

 男は怯んで顔の前に手を持ってくる。そこにモモとムツヤが飛びかかった。とっさに男は棍棒を振るが、モモの無力化の盾で衝撃を吸収されてしまう。

 その隙を見逃さずにムツヤは棍棒を掴み、男から取り上げる。アラクネもルーの精霊が抑え込んだ。勝負が決まった瞬間だった。

 パチパチパチ。

 その一瞬の静寂を破るかのように何処からか拍手が聞こえた。

「誰だ!!」

 アシノが言うと、木の後ろからフードを深くかぶり、仮面を付けた男が現れた。

「お見事、いやー実にお見事です」

 キエーウの仮面を見たモモはギリリと歯ぎしりをする。

「1人ぐらい殺してくれると思ったんですがねぇ、やはり亜人にすら劣る人型の魔物を好きになるお馬鹿さんには無理でしたね」

「お前はキエーウだろ? 何故人間を利用した?」

 アシノは疑問に思っていたことを言い放つ。すると男は笑って答えた。

「亜人や魔物を好きになる人間など欠陥品です。そんな人間はゴミクズです」

「誰が誰を好きになるなんて自由じゃない」

 ルーは怒りをあらわにして男を睨む。

「おやおや? ですがあなた達はそのお馬鹿さんが好きになっていたアラクネを殺そうとしたではありませんか?」

 うっ、とルーは言葉に詰まった。すると男はケタケタと笑い始めた。

「おっと、今日のところはこのぐらいで失礼しますね、さようなら」

「待て!!」

 ムツヤが走り出して男を捕まえようとするが、男は恐ろしい速さで森の中に消えていった。

 とっさにルーは探知盤を取り出すが、男は裏の道具を持っていないらしく居場所を映し出すことができない。

 探知魔法を使いムツヤは男の場所を追おうとしたが、移動速度が速すぎてうまく捉えることが出来なかった。

「逃したか、さて、この状況はどうしたものかな」

 精霊に拘束されている男にアシノは話しかける。

「おい、私達はお前の敵じゃない。どうしてアラクネと一緒にいるのか説明できるか?」

「あ、あ、アラクネって、な、ナリアのことか?」

 アシノは男がアラクネにナリアと名前を付けていることを理解した。ルーと目で会話をし、拘束を解いたが、男とアラクネは襲いかかってくる様子はない。

「まずは自己紹介からねー、私はルー!」

「る、ルー? お、俺はノエウ」

 ルーは小さい子に話しかけるように優しくノエウに話し始めた。

「どうしてこの森にいるのか、ナリアちゃんと一緒にいるのか教えてくれないかな?」

 つたない言葉で、たくさんの時間を掛けてノエウは説明を始めた。自分が村長の隠し子であること、村を追い出されたこと、ナリアと出会ったこと。

「っつ、胸クソ悪い話だな……」

 話を聞き終わってアシノはそう吐き捨てた。

「お、おれ、いままでたくさんの人に襲われた、けど、ナリアと一緒に戦った」

「恐らく村の住人か雇った冒険者がノエウ殿とナリアを始末しようとしたのではないかと私は思います」

「多分そうだねー、村を街にさせるためにはノエウっちの存在が邪魔だったんだろうね」

「私達に抵抗してノエウも一緒に死んだら儲けもの、アラクネだけを倒せば、村長の手先がノエウを始末しするって所か」

 アシノ達は考察をする。その横でヨーリィは不思議そうにナリアを眺めていた。