ムツヤ達はまず、スーナの街を北から時計回りに石を埋めていく予定になっている。

 調度いい距離に村があるので一行はそこまで向かうことにした。

 道中、日が暮れてしまったのでそこで野営をする。

 ムツヤの開くと家が出てくる魔術書を使えれば良いのだが、誰に見られるとも分からないので今回も粗末なテントで我慢をした。

「あーあー、こちらギルス」

 ムツヤの持っていた裏ダンジョンで取れる長距離用の話せる連絡石が光り、ギルスの声がした。

「はい、ムツヤです」

「よし、ムツヤくん。忘れないように青い石を地面に、なるべく深く埋めておいてくれ」

「わかりました!」

 連絡石をモモに預けてムツヤは地面に手を置く。

 しばらく待った後に離すと、地面から噴水のように土が噴いて手のひらサイズの深い穴が出来る。

「何その魔法!? 私にも教えて!!」

 ルーがその様子を騒いで見ていた。

「後で教えまずよ」

 ムツヤはそう言いながら穴に青い石を落とした。

 そうとう深いらしく、石の光は見えなくなる。吹き出した土でその穴を埋めて作業は終了だ。

「オッケー、バッチリ探知盤には映ってるよ」

「探知盤を見ないで良いのは助かりますよね」

 ユモトが言うと、うんうんとムツヤとルーが頷く。

 そして、次の日の昼には目的の村まで着いた。村と言っても冒険者ギルドの支部もあるし、宿屋も道具屋もある大きな村だ。

 ムツヤ達はその村の冒険者ギルドへと向かう。

「アサヒの村へようこそ! お客様この村のギルドは初めてですよね?」

 入り口に立っていた受付嬢がムツヤやモモを見て話し始めたが、後から入ってきたアシノを見て目を丸くした。

「えっ、まさか、その赤い髪と鎧…… 『赤髪の勇者アシノ』様ですか!?」

「まぁ…… そうだな」

 アシノは気まずそうに返事をした。

「ど、どうしましょう。ちょっと支部長に」

「いや、ちょっと寄っただけだから別にそこまでは……」

「そういう訳にはいきません!!」

 受付嬢は奥の部屋へと走り去っていく。それを見てルーはニヤニヤと笑う。

「赤髪の勇者様は人気者ねー」

「うるせぇ」

 アシノは少し照れながらふてくされていた。

 しばらくすると、受付嬢と共に中年の男がやって来た。

「いやぁ、アシノ様とお連れの皆様。どうもお久しぶりです、冒険者ギルド、アサヒの支部長を務めさせて頂いています。ブーチョです」

 ブーチョと名乗る男はそう言ってアシノに握手を求める。

「お久しぶりです、ブーチョさん」

 アシノは握手をしながら言った。当たり前だが面識があるらしい。

「それで、どういった御用でこの村へいらしたのでしょうか?」

「いや、なんて事の無い旅の道中ですよ」

「そうですか、何かお力になれることがあったら何なりとお申し付け下さい」

 少し談笑をしてムツヤ達はギルドの支部を後にした。

「アシノさんが敬語を使っているところ初めて見ました」

 ふとムツヤが言うとルーはバカ笑いをする。

「私だって場に応じて敬語ぐらい使うわ!!」

 ルーの頭を引っ叩いてアシノは言った、この後は宿屋の予約を取らなくてはならない。

 少し歩くと宿屋に着いた、ドアを開けるとカラカラとドアチャイムの音がなる。

「いらっしゃいませー」

 スーナの街の宿屋のように老婆ではなく、若い娘が笑顔で出迎えてくれた。

「3人が泊まれる部屋を2つ頼みたい」

「かしこまりましたー!」

 娘はカウンターの下から鍵を取り出して、アシノに手渡す。

「当宿屋にはお風呂がありませんが、歩いてすぐの場所にアサヒの村名物の温泉がありますので是非そちらをご利用下さい!」

「温泉!? アシノ温泉だって!!」

 ルーがはしゃいで言うと娘は突然「あー!!!」と大声を出して驚いた。

「も、もしかして、失礼ですが勇者アシノ様ですか!?」

「え、あ、うん……」

 またアシノは照れながら返事をする。

「え、えーっと、そうだ、サイン下さい!! サイン!! 飾りたいので!!」

「いや、サインなんて……」

「ダメですか?」

 娘はいつの間にか取り出した色紙を両手で持ちアシノを見つめていた。

「勇者アシノ様は本当人気者ねー」

 温泉の脱衣所で服を脱ぎながらルーは言う。

「うるせぇ」

 宿屋の娘に押し切られる感じでついアシノはサインを書くと、その場で宿屋のカウンターに飾られてしまった。

「やはり、勇者ともなると皆の憧れになるのでしょう」

 モモはフォローしたつもりで言ったが、アシノは拗ねたままだ。

「今の私はビンのフタを飛ばすことが出来るだけだぞ」

「ですが、それ以前のアシノ殿の功績は本物じゃないですか」

「……そっか」

 アシノは一言言って温泉へと向かった。

「まったく、アシノって素直じゃないんだから」

 女性陣が温泉を満喫している頃、ムツヤとユモトも温泉に入っていた。カバンは目の届く位置に置いてある。

 昼間だったので客はムツヤ達だけだった。疲れた体に温泉が染みる。

「いやー、温泉って良いですねー」

「本当ですね」

 ムツヤが温泉にどっぷりと浸かっているのを笑顔でユモトは見つめていた。

「ムツヤっちー聞こえるー?」

 壁で隔たれた向こう側からルーの声が聞こえる。

「はーい、聞こえますよー」

 ムツヤは大きな声で返事をした。

「初めての温泉はどーおー?」

「はい、とっても気持ちいいですー」

 その時ルーは何かを思い出した様にニヤニヤして言う。

「また女湯覗いちゃダメよー?」

 ユモトとモモはブーッと吹き出す。ムツヤは思い出してあわあわとしていた。

「い、いや、あの時はカバンを追ってただけで」

「ルー殿、あれは不可抗力で仕方がなかったと思います!!」

「あんまりムツヤをイジメてやんなよー」

 ルーは爆笑していた。そして、温泉から上がると6人は並んで牛乳を飲んだ。

「プハー、最高ね!!」

 そんなムツヤ達に訪ね人が現れる。