葬儀が終わるとムツヤ達はギルドへ戻り、服を着替えた。そして地下室へと案内される。

「ようみんな、俺の葬式はどうだった?」

 作業着を着たギルスが笑いながら言っていた。

「なんか、皆さんを騙しているようで心が痛かったです」

「騙しているっていうか騙してるんだけどね」

 ユモトが言うとギルスは笑って言う。

「たくさんの人が泣いてましたよ」

「うんうん、やっぱり俺の人徳が為せる技だねぇ」

 ムツヤの言葉を聞いて、ギルスは腕を組んで言う。

 葬儀に参加した者がこの会話を見たら助走をつけてギルスを殴るだろう。

「それで、大きい探知盤はできたの?」

 さっきまで唐辛子で泣いていたルーが聞いた。

「明日ぐらいまで時間はかかるぞ、どうせ出発は明日だからいいだろ」

「仕事おそーい」

「そんな簡単なモンじゃねぇぞ探知盤って!!」

「話し合いはおしまいだ。大事な話はまだ残っている」

 アシノが言うとみんな黙ってそちらの方を向く。

「ユモト、モモ、明日から旅が始まる。家族がいるなら許可は取っておけ」

 アシノは2人のほうを見て言った、ユモトとモモは真面目な顔になり「はい」と言う。

「私は妹しか家族がいません。妹には長い旅になるともう伝えておりますが、村長に1言断りは入れておきたいです」

「モモちゃんの村の人って裏の道具の事知ってるんだよね」

 ルーが思い出したように話すとモモは頷く。

「えぇ、村長が他言無用にするよう言ってありますが、村長にはムツヤ殿から会話のできる玉をお借りして話したいと思います」

「そうだな、どうせ知られている上にキエーウに狙われている私達がモモの村に行くのは危険だろう。それで話をしておけ」

 またモモは「はい」と返事をした、次はユモトの番だ。

「僕はお父さんに、ムツヤさん達と遠くまで旅をするって言ってこようと思います」

 杖をギュッと握ってユモトは言う。

「なら俺も一緒にゴラテさんに挨拶しに行きましょうか?」

「そうよムツヤっち『息子さんを僕に下さい』ってビシッと言ってくるのよ!」

 ルーが茶化して言うとユモトは顔を真っ赤にしていた。

「ななな、なんですかそれ!!!」

「お前は余計なことを言うな」

 アシノが頭を引っ叩いて制裁するとルーは「ふべち」と言って大人しくなった。

「まぁ私やルーは色々と面倒な手続きがあるからな、その辺はやっておくから後はお前達でいい感じにやっておいてくれ」

 アシノの言葉に返事をした後、ムツヤとユモト、モモとそしてヨーリィは冒険者ギルドの受付へ向かう。

 ゴラテの姿を探すが、見当たらないので多分家だろうと、ユモトの家を目指し歩き出した。

「お父さーん、ただいまー」

 ユモトが玄関のドアを開けて言うと、奥の方からドタドタと足音が聞こえてくる。

「ユモトー!!!」

 長いヒゲを生やした中年の男、ゴラテが駆け寄ってユモトの手を握った。

「久しぶりだな、元気だったか? 怪我してないか? 変なことされてないか?」

「ちょっ、お父さん恥ずかしいからやめて!!」

 まるで娘を心配する父親のようだったが、ユモトは男である。

「おう、ムツヤにモモの嬢ちゃん」

「お久しぶりですゴラテさん」

 ムツヤはゴラテに挨拶をし、その後ろでモモは軽く頭を下げた。

「立ち話もなんだから、ほら、上がった上がった!」

 ゴラテに案内されて家の中へ上がる。前に来た時は散らかりっぱなしだったが、今は綺麗に整頓されている。

「あ、僕お茶入れてくるね」

「おう、頼んだぜ。あぁ、適当に座ってくれ」

 ここでもユモトはお茶係になっていた。台所へと消えていくとゴラテは椅子に座って話し始める。

「あの病弱だったユモトがあんなに元気になって、俺は嬉しくて仕方がないぜ」

「そうですね、本当良かったです」

 ムツヤも笑って言うが、ゴラテは少し暗い顔をする。

「あん時はユモトが治ったってんで心がいっぱいになっちまってたが、ムツヤ。お前さんには悪い事したな、親御さんの形見を使わせちまうなんて」

「いえ、それは気にしないで下さい!」

 頭を下げるゴラテにムツヤは慌てて声を掛けた。

「金なんていくら用意しても足りねぇだろうけど、借金を返したら必ず礼はするからよ」

「ですから、そういうのはいいですって!」

 その後もゴラテとムツヤは「礼をする」「礼はいらない」のやり取りを何度もしていた。その間にユモトがお茶の準備をしてやってくる。

「何の話をしてるの?」

「あ、何でもねぇ、何でもねぇよ!」

 ユモトに気を使わせない為に2人共話をスッパリとやめた。

「久しぶりに息子が家に帰ってきたんだ、どんな冒険をしたかゆっくり聞かせてもらおうか」

 ユモトは席に着くとゴラテを見つめ直してハッキリと口に出して言う。

「お父さん、急な話でごめん。僕、もっと長い旅に出たいんだ」

 ゴラテは一瞬目を見開いた後に、ゆっくりと目を閉じた。そしてまた目を開く。

「そうか……」

 そう一言話した後に沈黙が流れるが、再びゴラテは話し始めた。

「俺もお前ぐらいの年の頃は冒険者として旅をしていたからな、止める事は出来ねぇよ」

 そう言ってゴラテはお茶をすすった。ユモトは父親に気持ちを伝える。

「僕は、もっと色んなものを見てみたいんだ」

「それは構わねえ、構わねぇんだが……」

 少し間を置いてゴラテは話を続けた。

「お前、赤髪の勇者とつるんでるんだろ。それに今日葬式があったギルスとも」

 ユモトだけでなくムツヤとモモも血の気が一瞬引く。

「なぁ、ユモト。お前何かヤバいことに首を突っ込んでるんじゃないのか?」

 全員が沈黙したが、それは肯定を意味することになる。

「俺はな、お前が死んじまうことだけが心配なんだ。お前が居なくなったら俺は……」

 強い父親が腹を割って話している事にユモトは涙が出そうになった。だがユモトはちゃんと父を見て言った。

「お父さん、今僕がしていることは…… ギルドの秘密でお父さんにも言えない…… でも終わったら全部話すから、今は僕を信じて欲しいんだ!!」

 ユモトが言い終わるとふぅーっと息を吐いてゴラテは話す。

「そうか…… お前のことだから間違っても悪い事をしていないのはわかる」

「お父さん…… 勝手なことを言ってごめん」

「良いんだ、だが1つだけ約束してくれ」

 ゴラテの言葉をみな固唾を飲んで待つ。

「絶対に生きて無事に帰ってきてくれ、それだけでいい」

 ユモトは鳥肌が立ち、ギュッと目をつむった後に言った。

「うん、絶対に帰ってくるよ。約束する!」

「ムツヤ、モモの嬢ちゃん、ユモトをよろしく頼む」

 いきなり名前を呼ばれた2人はビクッとしたが、深々と頭を下げるゴラテに返事をする。

「ユモトさんは絶対に俺が守ります!」

「私も同じ気持ちです」

 話がまとまり、ムツヤ達は玄関に立っていた。

「それじゃ、行ってきます」

「おう、行って来い」

 そう言って玄関を出ると、ユモトは最後までゴラテを見てドアを閉じる。