「俺のせいだ……、俺のせいでギルスさんがッ……!!」

 ムツヤは歯を食いしばって地面を殴った。

 ムツヤ達はしばらく呆然としたり、泣いたりしていたが、アシノが家から持ち出した担架にギルスを乗せて白い布を被せた。

「スーナの街へ戻るぞ」

 アシノの言葉に全員頷いて、担架はムツヤとモモで持ち上げた。

 話は昨日まで遡る。





 みんなガヤガヤと家の中へ入る。居間には先に帰っていたヨーリィとギルス、アシノが座っていた。

「お、やっと来たか」

「せっかく昼寝でもするかと思ってたのによ」

 アシノは不満そうに言う。ユモトは「お茶を淹れてきますね」と言ってモモと台所へ消えていく。

「そう言うな、研究発表と今後の作戦の提案だから皆に聞いて欲しいんだ」

「そうそう、主に私の、私による、私が考えた皆のための作戦よ」

 ギルスが言うとルーは身を乗り出して激しい自己主張をしてくる。

 そんなルーの頭をギルスが押さえつけると「へぎゃぶ!!」と言って椅子に落ちていった。

 しばらく待つとユモトとモモによるおいしい茶と菓子の用意が出来たので、ギルスは1口紅茶を飲んでから話し始める。

「まずこれを見てくれ」

 ギルスはとある物を取り出して言った。それは横に長く探知盤の画面が2つ並んで取り付けられているものだった。

「ん? ナニコレ? 探知盤並べただけじゃない、こんなの作りたくないよーだ!」

「ほんのついさっきだが探知盤を分解したら、どうやら連結が出来そうな事に気付いてね。簡単にだが連結させてみたんだ」

 ギルスはルーを無視して探知盤に魔力を込める。

「これを見たら『私も作りたい』って騒ぎ出すに決まってるぞ」

「ほんとかしらー?」

 すると探知盤の2つの画面に同じ地図と、ムツヤ達がいる辺りに赤い点が浮かびだす。

「ナニコレ? 壊れてるじゃない!」

「この探知盤の石が同じ場所にあるからだ」

 そう言ってギルスは探知盤の核である青い石を2つテーブルに並べた。

「1つの探知盤が映し出せる地形は、魔力の扱いに慣れたものでも石を中心にして半径20kmが限界だ」

「あっ」と何かに気付いたようにユモトは言う。

「つまり、映し出せる地図の端っこ同士をうまく合わせるように石を置けば……」

「そう、ご明察。巨大な1枚の探知盤ができる、ユモトくんはルーよりも賢いな」

「やー!!!」

 先に正解を言われてルーは騒ぎ出す。またそのルーを無視してギルスは話を続けた。

「俺はこうして、縦と横に探知盤を連結させて巨大な探知盤を作ろうと思う」

「でも石の波長を合わせれば他の場所の地図も表示できるんでしょ? 探知盤大きくしたらムツヤっちのカバンにも入らなくなるしー」

 ルーはギルスに噛み付いていた。

「連結させた探知盤は1人で操作をすることが出来る。だからコレをギルドのどこか1室にでも広げて、俺が司令塔になろうと思うんだ」

「なるほど、石をそこら中に撒いておけばギルス1人で裏の道具の動きがわかるってわけか」

「そうだ」

 アシノが言うとギルスはニッと笑って答える。

「どうせ俺は戦いが出来ない、冒険について行っても邪魔になるだけだ。それならばギルドで裏の道具の監視をして、動きがあったらこの割ると話ができる玉で連絡を入れようと思う」

 そう言ってギルスは遠くの人間と話が出来るあの玉を取り出す。

「もしかしたら、裏の道具の動きを追っていれば、キエーウの本拠地が分かるかもしれないしな」

 キエーウの本拠地は国や警備隊も足取りを掴めていない。末端の構成員を尋問して聞き出した場所も、もぬけの殻であることばかりだ。

 おそらくは、定期的に場所を移動しているか、幹部クラスでないと本拠地を知らないか。もしくはその両方なのか、キエーウには謎が多い。

「キエーウの本拠地が……」

 亜人であり、村の仲間を殺されたモモはそう呟いてギュッと拳を握った。

「ま、反撃開始って所かな」

 ギルスはソファにどかっともたれ掛かるように座る。

「ギルスさん、ありがとうございます。これで、ようやく裏の道具を取り戻せます」

 ムツヤは頭を下げる。ギルスは軽く手を上げて「大したことじゃないよ」と言った。

「早速、今すぐにでもギルドに向かうか?」

 アシノが言うとギルスは返事をする。

「そうだな。だがキエーウはコチラの動きを監視しているだろうから、ちょっとしたトリックを使いたいんだ」

 ギルスが言うとユモトは不思議そうな顔をして聞いた。

「トリック…… ですか? でも探知盤だと周辺に赤い点はありませんが」

「キエーウが全員、裏の道具を持っているとは限らないよユモトくん。多分何も道具を持っていない人間が千里眼やらで監視していると思ったほうが良い」

「あっ、確かに!」

 ユモトがそう納得すると、今まで黙っていたルーがまた騒ぎ出した。

「それでー、トリックって何よ、もったいぶらず話しなさいよ!!」

「簡単に言うとだな、俺が死ぬんだよ」

「あら、自殺願望があったのかしら。だったら私の精霊で今すぐ楽に……」

 ギルスが俺が死ぬと言うと、ルーはウキウキとして精霊を召喚しようとしていた。

「馬鹿か!! 本当に死ぬわけじゃねぇ!!」

「どういう事なんですか?」

 ユモトはおずおずと不安そうにギルスに聞く。

「簡単に言えば、俺が裏の道具の暴走で死んだように見せかけるって事だよ」

「なるほどな」

 アシノはあまり興味が無さそうに言っていたが、モモは今更ながらに気付いた。

「ちょっと待て、見せかけるってのは良いが、この会話は外に聞こえていないのか?」

 するとギルスはフッと笑って話し始める。

「それは大丈夫だ、音の妨害魔法は張っておいた」

「そうそう、ギルスの魔力で張ってあるからペラペラ話してるわけ」

「なるほど、その為に……」

 ルーとムツヤは妨害魔法の存在に気付いていたが、中にいる魔法使いのユモトは「えっ」と言って周りを見渡した。

「修行が足りんなぁ、ユモトくぅん」

 ルーに言われて、ユモトは自分の実力不足を恥じて顔を赤らめ、身を小さくした。

「す、すみません。ギルスさん、凄い妨害魔法ですね」

妨害魔法というのは、使い手の腕が高度になるほど張ってあることが分からないものだ。

「研究所ってのは音の妨害魔法が必需品だったからな。使い慣れているだけだよ」

 ハハハとギルスは笑って言った。

「さて、話を戻そう。ムツヤくん、死んだように見せかける裏の道具…… 出来れば見た目が派手な方が良い、そういった物は無いかい?」

「それだったら……」

 それから数時間、7人で念入りに計画を立てる。

「よし、決まりだな。明日の昼に決行だ」

 ギルスはニヤリと笑って言った。

「よーし、名付けて『ギルス実験で死にました作戦!!』」

「何でお前そんなネーミングセンス無いんだよ!!」

 ルーとギルスはふざけあっていたが、ユモトとモモは果たして上手くいくのかといった不安はある。