「ムツヤ殿!!」

 吹き飛んだムツヤに思わずモモは駆け寄った。

「危ない!」

 魔剣を構えた男がムツヤに近づき出す。ユモトとルーは魔法で氷柱を出して牽制をするが、男が魔剣で数回薙ぎ払うと全て溶けて消えてしまう。

「ムツヤ殿、ムツヤ殿!!」

 モモがムツヤを揺さぶるとうーんと言ってムツヤは上半身を起こす。ホッとしたモモの背後に魔剣を携えた男が立っていた。

「モモさん危ない!」

 思わずムツヤはモモを押し飛ばし、しゃがんだままで振り下ろされた魔剣を受け止める。また爆風が生まれてムツヤは吹き飛ばされる。

「ムツヤ殿!!」

 モモは叫ぶ、ゆらゆらと歩く男にアシノはビンのフタを、ヨーリィは木の杭を無数に投げつけた。

 男は薙ぎ払おうともせず、雄叫びを上げると業火が男を包んでそれらは燃え尽きてしまう。

「あまり調子に乗らないでくれるかしら」

 ルーは精霊を数体呼び出して男を襲わせる。精霊の振り下ろされた重い拳は確実に男を捉えていた。

 しかし、男が突きを繰り出すと、その拳はピタッと止まり、精霊は炎に包まれて崩れてしまう。

 その隙に2体の精霊が挟み撃ちで攻撃をしたが、男はぐるっと回転してどちらも切り崩してしまった。

「轟け雷鳴よ!!」

 ユモトは長い詠唱をして強力な雷魔法を放つ、この攻撃は確実に男を貫いてダメージを与えたが……

 一瞬男は仰け反って、その後はまた魔剣を構えて歩き出した。

 同時にムツヤは立ち上がって男と戦い始めた。剣同士をぶつかり合わせないように攻撃をかわし続け隙を伺っている。

「なんなの!? あいつ人間!?」

「あれは多分、魔剣に喰われてる」

 ルーの言葉にギルスは答えた。

「言い伝えだが、魔剣は絶大な力を与える代わりに、所有者の力量が魔剣に見合っていないと魂を喰われるらしい」

「魂を喰われる……ですか?」

 ユモトが言うとギルスは頷く。

「力量不足の分は、所有者の魂と命を代償にあんな力を手にすることが出来るって言い伝えだ」

 そう言ってギルスは男を見た。

 ムツヤは男と一定の距離を取ると、ムゲンジゴクを仕舞って氷の魔剣を取り出した。

 そして走って斬りかかってきた男のムゲンジゴクと鍔迫り合いになる。

 ジューという音とともに激しい湯気が辺りを包む。

 そして、数秒後ムツヤはパキッとした音を聞いた。氷の魔剣が折れたのだ。

 男の降りかかる剣をすんでの所でかわしてムツヤは剣を取り替える。今度は魔剣ではなく強度のある大剣だ。

 ガキンガキンと鈍い剣戟が響く、ムツヤの大剣は熱を帯びて赤くなり、次の一撃で真っ二つに折れてしまった。

「ムツヤくん、ムゲンジゴクを使え!!」

 ギルスに言われてムツヤはまたムゲンジゴクを取り出した。剣がぶつかり合う度に熱風と衝撃が辺りに響く。

 ムツヤは吹き飛ばされないように踏ん張っているが苦しそうだ。

 戦って時間を稼いでいる間に、ルーは精霊を大量に召喚する魔法陣を宙に描いていた。

「うごめけ、精霊たちよ」

 そこら中の土が人型になって魔剣を持つ男に襲いかかった。男は次々に精霊をなぎ倒していくが、一瞬の隙を作るには充分だった。

 ヨーリィが牽制で木の杭を投げつけ、ユモトは雷の魔法を男に浴びせた。数発攻撃が当たり、男は怯む。

 飛びかかったムツヤが男の首を刎ねることは可能だ。

 ムツヤは剣を振り下ろすと、虚ろな目をした男と目が合ってしまう、瞬間ムツヤの剣のスピードが落ちる。

 それを逃すまいと男は魔剣を振り上げた。

 ムツヤは腹を切られた、傷口からは業火が吹き出す。

「ムツヤ殿!!」

 モ叫ぶと同時にヨーリィが飛び出し、モモはムツヤを抱えてその場から離れた。

 業火はヨーリィにも燃え移っているが、ヨーリィは表情1つ変えない。

 ルーが水の魔法を使って火を消し、モモが預かっておいた『傷が一瞬で治る薬』をムツヤに飲ませると傷はすぐに消え去った。

 精霊たちも半数以上が倒されてしまい、アシノは皆に向かって叫んだ。

「いったん引くぞ、ムツヤにはアイツを倒せない」

「まっでぐださいアシノさん!! 俺がアイツを止めます!」

 ムツヤがそう言うとアシノはイラついて言葉を返す。

「人を斬ることが出来ない人間が、どうやって敵を倒すってんだ?」