「あのクソ上司が!!」

 俺の名は上村《うえむら》 正志《まさし》ただのサラリーマンだ。
 現在、千鳥足で家に向かっている。

 今日も上司から仕事を託され(押し付けとも言う)何とか就業時間内に終わらせた。その後、上司から飲みに誘われ(無理矢理)自分が如何にすごい人間なのか、ずっと力説されたうえに、無理矢理酒を飲まされた。

 「畜生!そんなに優秀なら自分の仕事ぐらい自分でやったらどうだ!!」

 上司に対しての鬱憤《うっぷん》を漏らしながら、家に入る。

 『The 男の一人暮らし』って感じの部屋だ。寂しい部屋とも言う。

 とりあえずスーツを脱ぎながら風呂に湯を沸かす。

 「明日も会社か・・辞めてー。」

 うちの会社は、建設会社の下請けだ。
 そんなに給料も高くない。
 貯金はそれなりにあるけどね。

 熱々の風呂に入った後、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。

 「アサヒ スーパァードラァイ!」

 言ってみただけだ。

 「最近、俺酒ばっか飲んでんな。健康診断に引っかかるかもなぁ。」

 毎日毎日飲みに連れて行かされ、家に帰ってからも酒を飲む。
 身体はボロボロだろうな。

 「今日はちょっと冷え込むなぁ。布団取り出すかな。」

 布団を取り出す為に、押し入れを開ける。

 「うわっ!結構、物入れてたなぁ。」
 
 押し入れの中には、上京してきた際に持って来た物が多く入っていた。

 「PS4とか懐かしいな!最近、ゲーム自体触ってなかったからなぁ。おお!ニンテンドー3DSだ!久しぶりにやろうかなぁ!」

 布団を出すという目的も忘れ、3DSのソフト入れを漁る。

 「『モンスターハンターX』とか『ファンタジーライフ』とか懐かしいな!っと、ヤバッ!落とした!」

 落としたソフト入れから、ソフトが散らばる。
 家の中なのでそんなにも慌てなくても良いのだが。

 「うわー、傷付いて無いよな?ん?これとこれ、ニンテンドーDSのソフトだな。」

 二つのソフトの表には、それぞれ『古代王者恐竜キング』『ぼくらはカセキホリダー」と書かれていた。

 「うわー!!懐かしすぎる!!夜更かししながらも、ずっとやってたな!カセキホリダーの3DS版は本体に入ってるはず。」

  簡単にゲームの説明をする。
 『古代王者恐竜キング』はお互いに恐竜を戦わせるゲームで、バトルはジャンケンを用いて戦う。ジャンケンに勝った時のみ攻撃をする事が出来、グー、チョキ、パーそれぞれに技をセットする事で、ジャンケンに勝った時に出した手のセットした技で攻撃するという簡単なゲームだ。
 アーケードゲーム版やアニメなどもあった。
 『カセキホリダーシリーズ』もバトルシステムは違うが、両方とも化石を発掘したり、化石を復元し恐竜を呼び出したりする部分は同じだ。

 「色々考えてたら、カセキホリダーやりたくなってきたな。よっしゃ!久しぶりに恐竜復元してみるか!主人公の名前『マサーシー』ってくだらねぇwww。」

 布団に入った後、深夜遅くまでゲームで遊んだ。というか寝落ちした。




 布団の近くにあった3DSの画面が切り替わる。

 「 Hello Dinosaurs King 」


 肌寒い。
 頬に何か当たっている。
 鼻がくすぐったい。土の香りがする。

 「んっ、んっんー、ふわぁぁぁ。今何時だ?」

 半分寝ぼけたまま起き上がる。目を擦っていると少しずつ意識が戻ってきた。
 意識が戻ると目の前には木があった。顔の目の前に。

 「はあ⁉」

 びっくりしながらも辺りを見渡すと一面、木しか無かった。

 「これは・・・・・・夢だな。夢にしては、感覚が鋭くなっているが。」

 何となく、頬を抓ってみる。

 「痛い・・・。夢であってほしかった・・・。」

 どうやら現実らしい。まだ完全には理解出来てはいないがな。

 「何か、こんな感じの話聞いたことがあるような・・。あっ!!!あいつが言ってたやつだ!!えーと、異世界転移モノ?マジかー。」

 確か、会社の同僚に『なろう系』の小説を書いているやつが居ることを思い出した。
 毎日毎日『異世界転移してぇ!!』とか『転生してモテたい!!』とかよくわからない事を言っていた。その時、異世界モノの王道として教えて貰った物の中に、似たような状況があったことを思い出した。

 「でも、神様みたいな奴に会って無いよな?特にチート?みたいな物も貰って無いし。これで日本の何処かだったら、恥ずかしすぎるだろ・・。」

 頭の中でぐるぐる考えていたら、後ろの茂みから何か飛び出してきた。
 咄嗟に木に隠れると、飛び出してきたものに注意を向ける。
 後ろ姿からしてウサギのようだ。ウサギが顔を横に向けた時、信じられない物が見えた。

 「マジかよ・・。ウサギに角が生えてやがる!しかも《《二本》》も。」

 取り敢えず、ここは異世界らしい。
 確か、同僚が言っていた作品の中には、ホーンラビットという魔物が登場したはずだ。ただ、そいつの角は一本だった。二本なんて聞いてないぞ。

 「こりゃあ、全部が全部ライトノベルのような感じには、いかないっぽいな。そうだ!!異世界モノの常識と言えば!ステータス!!」


ー-------------------------------------
ー-----------
 名前 マサーシー
 年齢 21歳

職業 太古の召喚術士 Level 1

身体Level 1

 体力  100
 魔力  100
 運   10

スキル:『ダイナソー』『恐竜図鑑』『ショップ』『鑑定』

称号:『Dinosaur King』『自称 恐竜博士』『お前の女は俺の物』


ー----------ー
ー-------------------------------------


 「本当に出ちゃったよ・・。」

 目の前に浮かぶ、青白い画面を見る。
 色々、気になる部分があるけれど、まずは。


 「『お前の女は俺の物』ってなんなんだ!!!」

 何となくツッコまなければいけない気がした。後悔は無い。

 「えーと、名前がマサーシーって、これ恐竜キングで使ってた名前だよな?まぁ、本当の名前とそんなに変わって無いからいいかな。体力はどういう基準なんだ?」

 ほとんどの場合、ステータスにはHPやMP、攻撃力などが表示されている事が多いのだが、見た感じ大雑把にしか表示されていない。
 そもそも、数値として高いのかも分からん。予想としては、平均的な数値だと思う。

 「スキルの項目か、『ダイナソー』と『恐竜図鑑』はそのままだろう。何故ダイナソーと表示されているのか分からないが。恐竜図鑑に関しては、児童書籍のようなものなのか?『ショップ』は多分何か買えるのだろう。お金が無いが。『鑑定』は王道中の王道だろうな。」

 さて、問題は称号だ!!ツッコミどころが多すぎる。
 何で『Dinosaur King』なんだ?直訳で『恐竜キング』ひねりが無さすぎる。そもそも恐竜の王者って、ティラノサウルスじゃあなかったっけ?俺、人間よ?
 次は『自称 恐竜博士』。何?自称って。そもそも恐竜博士とか言ってたの、保育園の頃だぞ!!子供の言ったことを称号にすんなよ!。
 そして、一番の問題児?問題称号?『お前の女は俺の物』。俺、一回もそんなこと言ったこと無いぞ?誰かに見られたらどうするつもりだ!!軽蔑されるだろ!どっかのガキ大将のような口振りで、人の女に手を出すなよ!!というか、この称号付けたやつ、絶対日本のこと知ってるよな!

 一通りのツッコミが終わった後、ステータス画面の左上が点滅している事に気が付いた。
 よく分からないが、触れてみると、画面が切り替わった。
 画面には、小学生ぐらいの年齢の子が映っていた。

 「どもども、呼ばれて飛び出て『ピー-------------------』
神様です。」

 初っ端からぶっこんできたぞ、おい! 

 「突然のことで驚いたかもしれないが、君には異世界に来て貰った。何でこんなことをしたのか疑問に思うだろうが、君にはとっくに説明してある。記憶が無いだけでね。そちらに送る際、トラブルが起きたせいで一部の記憶が消去してしまったみたいだ。申し訳ない。ただ、安心してほしい。奇跡的に消えた記憶のうち、全てが神界で説明した時のものだったから良かったよ。最悪、全ての記憶が消えた状態で送られていたかもしれないからね!」

 話をかみ砕くのに時間がかかったが、俺は記憶が一部無いらしい。てか、俺、神界に行ったんか・・。
 
 「もう一度言っておくが、そちらの世界に行きたいと言い出したのは君の方からだ。そもそも君を神界に召喚した理由は、僕の話し相手になって欲しかったからなんだが、意味が分からないって顔をしているな。」

 俺は今そんな顔をしているらしい。
 だって考えてもみろ、平々凡々な、この俺が神様の話し相手とかありえないだろ。
 『赤ちゃんが突然踊り出す』ぐらいおかしな事だぞ!

 「赤ちゃんが急に踊り出したら、ある意味ホラーだね!」

 今、こいつ心読みやがったぞ!!
 
 「いや、口に出てるから・・・。まぁ、そんなことはどうでもいいんだよ。君をわざわざ神界に呼んでまで話した内容は、恐竜についてなんだ!!」

 「えーと、いまいち話が見えてこないんですけど・・、恐竜の事だったら専門家の人を呼んだ方が良かったんじゃ?」

 「僕だって最初は専門家の人を呼んださ!!でも、専門家の人が話す内容は、やれ『この恐竜は今のこの生物の遺伝子に似ている』とか『この恐竜は薬になるかもしれなかった』とか、ロマンが分かっていない人が多かったんだよ!!」

 あー、そりゃあ仕事として恐竜の生体について調べている人と話せばそうなるわな。

 「じゃあ、恐竜について趣味を持っている人は?」

 「・・・・君の身近な人にそんな人居たかい?ん??」

 現代の技術を使えば、VRとかで恐竜を再現出来るだろう。だが、趣味でやっている人はいないな。あれは、アミューズメントパークとかで人を集める為にやっている物だ。
 趣味で再現していたら、余程のマニアだろうな。

 「最終手段として、恐竜に一番興味を持つ年頃の、保育園や幼稚園の子も呼んでみたんだ!だけど、すぐに飽きる子が多くて、会話にならなかったんだ!」

 おおぅ、とうとう子供まで呼んだのか。外見が子供なだけに、話が合いそうだが一応神様だからな。

 「それで、何で俺が呼ばれたんだ?特に恐竜に対して趣味のような物を持っていたことは無いんだが。あれっ?もしかして!!」

 「そうだよ!『恐竜キング』。君やってたでしょ?あれ面白いよね!!発売された時、急いで下界に降りたよねー!!」

 「マジか・・。たまたま『恐竜キング』を見つけて、久しぶりにやっただけなのに・・・。」

 「記憶に無いだろうけど君、余程の恐竜好きみたいだね。あんなにも白熱した談義は久しぶりだったよ!!」

 何してんだ過去の俺!!
 何故だ!久しぶりに『恐竜キング』やったせいなのか!!

 「そしたら君、異世界に行きたいとか言い出したからさぁ。理由を聞いてみたら、『地球に恐竜が存在しないなら、せめて似たような生物が居るような世界に行きたい』って言うじゃん?」

 「確かに俺は小さい頃、恐竜に憧れた。存在しないと言われた時、思わず泣きだしてしまったくらいな。てっきり諦めがついたと思っていたが、そうか・・。」

 「という訳でこの世界に連れて来たんだ。でも、残念ながら恐竜のような生物は中々いなくてね、そこで君のスキルだ!!」

 「あー、この『ダイナソー』ってやつと『恐竜図鑑』ってやつか。」

 「そうそう!!一応、この世界には『テイマー』と呼ばれる職業があってね。その人達は魔物を使役できるんだけど、君の場合は恐竜を召喚して使役出来るんだ!!」
 驚きのあまり声が出なかった。
 絶滅した存在を召喚する。それも、憧れだった《《者》》をだ。

 「それって、全ての恐竜を召喚できるのか?」

 「そうだよ!!でも、注意して欲しいのは召喚できる恐竜は、卵から孵化した恐竜か、化石から復元した恐竜しか召喚できないからね!」

 「まてまて⁉もしかして、恐竜の卵と化石を手に入れないといけないのか?そんなの持ってないぞ?」

 「大丈夫!そのための『ショップ』スキルだよ!!試しに『ショップ』スキルをタッチしてみて?」

 取り敢えず言われた通りにタッチしてみた。すると画面が二つに分かれ、片方に神様の画面、もう一つがショップの画面になった。何故か神様がドヤ顔をしている。ちょっとムカつく。
 ショップの画面はこんな感じに表示されている。

ー-------------------------------------
恐竜マート

所持金 5白金貨6金貨73銀貨44銅貨

・恐竜化石 
・恐竜の卵
・サドル
・ROCK MAN
・食料
・日用品

ー-------------------------------------

 「どうだい凄いだろ!!恐竜関係の物以外にも、少しは元の世界の物も買えるようにしたんだよ!!」

 未だにドヤ顔をしているが、その前に説明して欲しい。

 「まず、この所持金ってなんだ?どこからのお金だ?

 「あー、それはね!前の世界で君が持っていた全財産を、こちらの世界の通貨にしたんだ!一応、取り出すことも出来るよ!」

 物を買う機会がほとんど無かった為、自分の貯金も正確には覚えてはいないが、それなりに持っていたように思う。

 その後、貨幣価値について聞いたところ、銅貨1枚=100円、銀貨1枚=1000円、金貨1枚=10万円、白金貨1枚=100万円らしい。という事は大体、567万7400円ってことか。

 説明が終わった後、それぞれの店?テナント?を見ていく。

 説明された通り、恐竜化石と恐竜の卵には全ての恐竜の物が揃っていた。ただ、安い物でも白金貨2枚は必要な為、簡単には買えない。
 次はサドルを押してみた。サドルは恐竜の大きさによって値段が大きく変わり、オプションでバックや座席を増やせるらしい。トリケラトプスやステゴサウルスに取り付ければ、大きな荷物等も運べるかもしれない。
 一番気になる店は飛ばして、食料や日用品の部分を調べる。
 食料の欄には、ジャガイモやネギなどの食材の他、かつ丼やすき焼き等、調理済みの物まで買えるみたいだ。
 日用品の欄は、タオルや歯ブラシ、シャンプー等生活に不自由無く暮らせそうだ。何より聞いた話だと、この世界は異世界定番の中世ぐらいの文明らしい。これなら、日本産のシャンプーや料理を売れば、大儲け出来そうだ!!

 まぁ、そんなうまい話があるわけないよな。
 日本産がっぽり計画は中止となった。
 どうやら商売の神様との取り決めで、ショップで買った物を他の人に売ったり、譲る事は禁止らしい。ただ、食材や調理済みの物に限り、食べさせる事は可能らしい。要は、『お金を取るな』ということだ。しかも売られている値段は全て、通常の値段の2倍かかる。高過ぎだろ!
 ふと気になって、質問してみた。

 「この世界に牛や鶏などの動物は居るのか?」

 もし、牛や鶏が居れば、料理を作って売れるかも。

 「残念だけど、この世界には動物が存在しないんだ。動物の代わりに、魔物が食材として利用されているんだよ。例えば、さっき話したテイマーの人達が、コカトリスとかレッドブルを使役して、繁殖させたりね。」

 なるほどなぁ。それなら、さっき見たウサギみたいな奴も魔物なのか。ただの動物なら殺しずらかったのだが、魔物なら大丈夫そうだな。『郷には郷に従え』と言うもんな。この世界じゃ、手を抜いた瞬間死ぬかもしれないんだ。
 コカトリス、絶対強いじゃんか!レッドブルとか、翼を授けてくれないかなぁ。

 取り敢えず、商売は無しの方向でいこう。
 最後に、気になったこの『ROCK MAN』を押してみようか。

 「なあ、これ何で『ROCK MAN』って名前なんだ?色々まずくないか?」

 「青い方のロック『ピー』では無いから安心して!押してみたら分かるから!!」

 さっきから、『ピー』って音入ってるけど、神にも著作権ってあるのかな?自分で入れてたらバカみたいだけど。
 そろそろ、日も落ちてきた為、早く神様との会話を終わらせないとまずそうだ。
 『ROCK MAN』を押してみると、そこには化石を掘ったり、削ったりする為の道具や化石や卵から恐竜を復元、孵化等をする装置があった。
 
 「自分で化石を掘らなきゃいけないのか、削るのとか難しそうだなぁ。」

 初期装備と言えばいいのか、最低限の道具は無料で貸し出ししてくれるらしい。

 「なるほど!!『ROCK MAN』って、発掘者とかの意味合いで付けられたのか。」

 「他にも、『ワークマン』を参考にしたよ!!」

 まさかの『ワークマン』だった。まぁ、ほとんど同じようなものか。
 後、『ピー』が入って無かったぞ今!『ワークマン』は大丈夫なのか?

 まずい、日が完全に落ちてしまう。魔物が蔓延る森を、一人で夜を明かさなきゃいけなくなる。せめて、恐竜が傍に居て欲しい。

 「今の所持金で、即戦力になる恐竜を買わなければ!!」

 「大丈夫だよ!最初だけだけど、この恐竜のうち一匹を無料でプレゼントするから!!」

 そう言って映し出された画面には、3匹の恐竜が映し出されていた。