「クソ、が......クソがああああああっ!!」


 死刑判決をくらった谷里は、ヤケを起こしてまた俺に殴りかかってきた。力ずくでは敵わないことは証明してやったはずだが、まだ俺に立ち向かうか。
 まぁこうしてヤケになって突っ込む以外の選択がないみたいだしな。

 「はーい、元気が良い、ことっ!」

 グチャ...ッ「~~~~あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!」


 拳を構えて走って来る谷里に、亜音速で繰り出した踵での蹴りを奴の右腿に叩き込んだ。肉が潰れて骨が砕く音がした。 
 谷里は走った勢いのまま前のめりに転倒。倒れたところを、奴の手足に枷をつけて拘束する。枷と言ってもただの枷じゃない。骨に達する程の大きさの棘を食いこませたオリジナル手足枷や!

 痛い痛いと喚いてる谷里を浮かび上がらせて、全校生徒および教師に見えるように晒す。

 「よくも俺にっ!意味不明な因で下らん因縁をつけて、暴力を何度も繰り返して!ズタボロにしてっ!二年半も俺を虐めやがったな!?
 理不尽に何度も何度も何度も何度も...!俺をゴミみたいに甚振って傷つけてくれたな!?
 お前には肉体的苦痛を散々受けさせられたから、同じように物理的手段でお前に地獄を体験させたるわっ!!」

 ドゴォ!「うぶぉ、え...」

 隙だらけの腹にアッパーをぶち込む。内臓に入ったらしく血と胃液を吐いて悶絶する谷里。

 「痛いか?重いか?お前程度のパンチよりも数倍強いやろうな。けどな、コレまだ本気ちゃうねん。せいぜい5割や」
 「あ”...あ、んだ、と......?」
 「15才に戻ったこの体でも、本気出して殴ったらお前らなんか簡単に殺してまう威力やからなァ、自分に弱体化魔術かけてパワー抑えてるんやわ。そうしないとサンドバッグにならへんから、なっ!!」

 ゴスッ ドスッ ガッガッガッ ガリィ! ベキィ!

 爪先蹴り、膝蹴り、ストレートやフックの連打、顔面パンチ等...谷里を完全にサンドバッグに見立てて好き勝手に殴って蹴って甚振る。一撃一撃に苦悶の声を上げて反応する谷里は、俺とギャラリーを大いに沸かせてくれた。

 「あっはははははは!!いちいち反応してくれてありがとうな!俺が甚振られてた時はそんなに声上げてへんかったけど、お前は殴る度蹴る度に、苦痛の反応を見せてくれるわ!甚振り甲斐があるわホンマ!」

 《あははははは!!ボコボコや!あの谷里が全身打撲痕だらけや!!》

 無慈悲に、理不尽に甚振られている谷里を大勢の生徒らが奴を指さして嗤う。その屈辱的仕打ちも谷里にさらなるダメージを与える。
 やっぱり何が堪えられないかっていうと、自分が酷い目に遭ってる様を見世物にされているという事実なわけよ。他の誰かに自分の醜態を晒している...その事実が自身をさらに傷つけていくんや。
 今のコイツの心の傷は尋常やないやろうな。何せ数百人から嗤われてんや、さぞ胸糞な気分やろうな!!

 「あ~~~最っ高やっ!!お前にはずっとこういう仕返しをしたかったんや!!俺をあんな目に遭わせたことに対する報復をずっと望んでた!それが今叶ってる!マジで最高や!!
 オラぁ!これで済むと思うなよ、人間のクズが!!」
 
 拳と蹴りの次は道具で傷つける。棘がついた鞭で、熱した硫酸で、鋏やペンチで、ナイフで、銃で。思いつく限りの手段で谷里の体を壊していった。

 「う”わああああああ”あ”あ”あ”あ”あ”...っ!!!ぎゃあああああああああ...!!!」
 「「「「「......っ!!」」」」」
 《フウウウウウウウウ!!良いぞ良いぞぉ!!!》

 悲鳴と歓声が混ざったカオス空間が、この体育館を形成していく。処刑を免れた気になっている連中は顔を逸らしている。教師どもは口では止めろと叫んでいるが動くことはせず棒立ちするだけ。五組の連中も同じ様なリアクションをしている。
 反対に他の生徒どもは面白がって囃し立てる。まさにカオスや。

 「なァ谷里。程度は少し違うけど、俺はこうやってお前らから嗤われ罵られながらいつも虐げられてた...。今のお前が見てる景色は、かつて俺が見てたのと同じや。
 ははは、マジでいい気味やわ。お前は常に虐げる側の人間やったからな。今だけやない、将来のお前も、虐げる人間になってたな」
 「………!?」
 「オッサンの年になったお前は、一丁前に家庭を持ってたなぁ。けど反面、会社では若い部下に過度なパワハラを強いるクズ野郎となってる。
 そんな将来が訪れることがないよう、俺がここでお前を消してやる。ある意味人助けになると思わへんか?」
 「あ”......にを、言っへ......」
 「こっちの話や。つまりお前は大人の年になっても本質は変わらず誰かを理不尽に虐げる人間やってことや。俺が忌み嫌う最低でクズな人種がお前やってことや。まぁ理解せんでええわ、もう殺すし」

 鋼製のメリケンを嵌めた拳で顔面を思いきり殴りつける。ゴキリと音がしたと同時に顔の形が凄く歪み、顎がぶらんと外れた。
 さらに歯を一本一本ペンチで引っこ抜いていく。地獄のような激痛が谷里を襲い続ける。
 さらにさらに、爪先にナイフを仕込んだ靴で股間を蹴り刺す!

 「ヴhふぃgfvklbcm、えうぇんwbvっ!!!」

 谷里のこれ以上ない悲鳴が体育館内に響いた。虐め主犯連中と教師どもと五組は目を逸らして耳を塞いで震えている。俺とギャラリーどもは相変わらず愉快気だ。
 
 「はっはっはー!少しは虐げられてる人間の立場を理解したか?まぁ理解したところでお前みたいな人間はまた同じ行為を繰り返すやろうし、何よりも俺はお前をぶち殺したくて仕方ないから、もうここで殺されるんやけど」
 「は、はぐぁ......。あああああああ、ぁ......」


 殴られ蹴られ、刺されて斬られて、撃たれて潰されて、焼かれて溶かされて、腹を裂いて自分の内臓を見せられることもされて...全身に色んな深い傷を負った谷里の心はもう折れている。目には生気が失いかけている。そろそろ潮時だ。こっちとしてもこいつの顔は不快過ぎて長くは見たくねーしな。

 止めに入ろうとしたところで谷里が何か呟く。

 「み.........ず......き」
 「あ?.........あっ、そういやお前には年下の彼女がおるんやったな?それもこの学校での後輩やったっけ?みずき......ああ、アイツか」

 未来のコイツの妻は植田瑞希っていう女やったな。その女とは中学からの付き合いだったっけ。
 ......最後に良い事思いついたぁ!


 『おーい、植田瑞希ー!その中におるよなー?お前の彼氏を今からぶち殺すからよぉく見とけよー!?』

 悪意ある笑い声を上げながら、何百キロもある鋼鉄製の棍棒を振り回して谷里に近づく。その谷里の目の前に小さなモニターを出現させて奴の彼女を映し出してやる。
 茶髪のポニーテールの髪型で、美少女に分類されるであろう顔の女子生徒が、画面に映し出される。


 「み、みず...き......っ!!」
 「そうや、お前の彼女や。リアルタイムでお前を見てる彼女の様子をドアップで映したったぞ。良かったな?最後に彼女の――」



 『きゃははははっ!気持ち悪い顔してて笑えるっ!最後は派手に頭砕かれて死んで下さいね先輩』


 「――可愛い笑顔と、罵声のセットがもらえて」

 「―――――」

 彼女...植田の予想外の罵倒を聞いた谷里の顔が完全に凍りつき、完全に死んだ表情になった。大好きな彼女から死に際にそんな言葉をかけられたことが、よっぽどショックだったらしい。


 「物理的に甚振るだけやったんとちゃうんかやって?
 ンなもん嘘や」

 「み......ず―――」


 そして無慈悲に振り下ろした鋼鉄の棍棒が、谷里の頭を粉々に砕いた。スイカのように割れて、中身が汚く飛び散る。
 モニター越しの植田は面白そうに笑っていたが、実際の植田は終始引きつった笑いを浮かべていた。けどそんなものを見せるよりはこっち(嘘)の方がコイツに良いダメージを負わせると思ったんでこうした。

 『うっし、二人目ー!《《残り九人》》』

 俺がマイクでそう告げると、観客生徒どもは盛り上がり、虐め主犯連中は顔を凍りつかせるのだった。