俺の「全員ぶっ殺宣言」に、全員困惑し混乱している。
 虐めの事情は分かった。学校側が虐めを隠していたことも分かった。それらについて俺が大層ご立腹だということも分かった。けど自分らをこの場で殺すって、ハァ?……といったところやろうか。

 この学校に在籍している生徒と教師の総数は、ざっと六百と数十人。それらをたった一人の男子生徒が全員殺す言うもんやから、本当に何言ってんだこいつって思ってるんやろうな。さっき人を一人殺したのを目にしたとはいえ、多数に無勢に変わりないと思ってるんやろうな。

 あちこちで俺をコイツ馬鹿かって感じの視線を向けられてるのが分かる。中にはさっきの見せしめと今自分らの身動きが利かないことからコイツ...マジなのかもって震えている奴もいるが。


 「というわけや。俺はこれからお前らに復讐する」

 虐め主犯の11人の前に立って再度指を突きつける。

 「この二年半、よくも俺を理不尽に虐げ辱めてくれたなァ。人として終わってる、腐りきったゴミクズどもが...!
 ただ殺すだけじゃ足りひん。お前らには“地獄”というもんをたっぷり体験させて、今までの行いを後悔させるまでは、絶対に楽に殺したりはしねぇ...!
 今度は俺がお前らに理不尽を強いる番やっ!」

 そう言ってからパチンと指を鳴らす。直後11人の拘束を完全に解除させる。突然の自由に全員その場で躓く。


 「無抵抗のお前らを甚振るのはおもんないからなァ。ほら、俺もお前らに甚振られる際はしっかり抵抗してたやろ?まぁ押さえられて蹴られまくったのが大半やったけど。
 だからお前らも自由に俺に抵抗してみろや。通報しに行くのも良し、また俺を囲って押さえつけて、リンチするも良し。お前らにとっての“いつも通り”をまたやってみろよゴミクズどもっ!」

 中指を突き立ててその指をクイクイと曲げて挑発する。案の定沸点が比較的低い奴ら、主に谷里と中村と本山が殺気立って俺を囲むようにして立ち塞がる。


 「さっきから杉山の分際でふざけたこと言いやがって...!」
 「お前が虐められるのはお前が悪いからやろうが!」
 「人のことを悪く言ったり、何か気に入らんこと言われたら暴力振るいやがって!」
 「雑魚だのクズだの好き勝手言いやがったな、陰キャのくせによ...!」
 「さっきまで俺らを縛ってた意味不明な力とかあの先生破裂させたのもどうせくだらない手品か何かやろ!?お前なんか雑魚のままや!!」


 三人以外の連中も口々に俺を罵倒する。俺が見せた力の一端は全部、手品演出だと決めつけて、俺は以前と同じ雑魚だと思い込んでやがる。自分らが完全に有利であるとまだそう思い込んでいる。
 ここまで馬鹿だと笑えるどころか、怒りすらこみ上げてくる...。

 「ここまで低脳で馬鹿のクズどもに俺はずっと虐げられてたのかって思うと、自分が恥ずかしくて情けなくて、もの凄い憤りを感じるわ。お前ら雑魚のクズどもなんかに蹂躙されてたって事実が忌々しく思うわほんま」

「「「うるせえんだよ死ねぇ!!!」」」


 二回目の罵倒にぶちキレた三人が一斉にかかってくる。俺はあえて棒立ちのままでいて反撃態勢に入らないでいた。そして谷里の拳が顔面に入る。次いで中村のアッパーが腹に入る。最後に本山の蹴りが横腹に入った。以前の俺だったら、ここで痛みに蹲ってダウンしてたやろーけど……。
 が、今回はそうはならんけどな!

 三人の攻撃が入ったのを見た残りの連中は愉快気に嗤う。だがそのキモい笑みは三人のリアクションですぐに崩れていく。


 「いだああああ!?」
 「何や!?こいつの体どうなってんねん!?指が折れて...!」
 「つまっ!爪先が...!痛いいいっ!!」


 俺を攻撃した三人が拳や足を押さえて激痛を訴えているのに対し、思い切り殴られ蹴られた俺は痛がるどころか余裕浮かべた顔をしている。
 この光景を見た有象無象どもは大いに困惑する。

 「おい、今何かしたんか?顔に蠅でもとまったんかなァ~?腹も何か変な感触したわ~。痛くはなかったけど......あれ?あれあれ~?お前らどしたのォ??さっき殴りかかってきたやんなァ?何でお前らが痛そうにしてるわけェ??
 ねェ大丈夫ー?立てまちゅかぁ~?」

 蹲《うずくま》って無様を晒してる三人を煽って嗤ってやる。他の有象無象どもの見世物にするように、かつて俺がそうさせられていたように...!

 「これからお前らのプライド、尊厳、自信とか全部を惨たらしく破壊したるからな。まずは...お前らの余裕とクソみたいな傲慢さを潰したるからなァ...!」

 怒りと憎しみと殺意を乗せた声で虐めの主犯どもにそう宣言する。俺の声に誰もが震え上がる。
しかしそんな自分を恥じたのか、すぐに顔を怒らせて今度は残りの連中も(女子二人は隅へ逃げた)俺に攻撃してくる。
 今回は青山や清水ら観衆組も参加している。俺を押さえようと二人が左右からタックルしてくる。15才にしてはそこそこ体重がある男子二人にタックルされれば普通の人間はその場で押し倒されるはずだろう。
 だが俺はいくら押されようともビクともしない。こいつらにとってはまるで数十mもの太い巨木相手に相撲をとっているようなもの。

 「く...そ!?どうなって!?」
 「ぐ、おおおおおお...っ!!」

 青山と清水がいくら力を込めようとビクともしていない様子の俺を見た小西が痺れを切らして俺に向かって走ってくる。

 「何二人してもたついてんねん!あんな鼻くそ野郎なんか早よ倒せやっ!」

 俺に迫る直前で跳び上がって、ドロップキックをかまそうとする。つーかこのクソチビさぁ、教室で机を真っ二つにしたこと覚えてないんか?さっき人を殺したところも見たはずやのに、まだ俺を今まで通りどうにでも出来るとか思ってるんか。低脳にも程があるやろ。

 それより、そろそろ殴られっぱなしのままは飽きてきた。そろそろこっちも攻撃するとしよう...。俺の理不尽な力を見せたるか...!

 未だ俺を倒そうとしてる青山と清水を片手で引きはがして、こっちに向かって来る小西目がけて二人を思い切り投げつけた!

 ゴッッ!「「ぐああっ!!」」

 空中で三人が激突してその場で落下する。俺は落下した小西の両足を片手で掴み、そのまま持ち上げる。
 
 「は...え...?」
 「お前さァ、俺が机を素手で真っ二つにしてたの忘れてたんか?それやのに突っ込んでくるとか、低脳も度が過ぎてんなお前、はァ!!」
 「う、うわあああ―――」

 ――ドゴォンッッ!!
 
 両足を掴んだまま持ち上げた小西を、その場で地面に思い切り叩きつけた。もの凄い衝撃音が体育館中に響き渡る。小西はまだ息はしている...が、全身を痙攣させている。今ので内臓にも多少ダメージが入ったようだ。激突した床には亀裂が入っている。
 
 「は......な.........」

 今の光景を目の当たりにした復讐対象どもも、有象無象どもも、誰もが絶句している。それだけ衝撃的だったのだろう。

 そしてようやく誰もが確信したようだった。これは演出ではないと、本当に起こっていると...。

 「う、あああ...!嘘や、何かの間違いや...!ふざけんなああああああ!!!」

 前原がヤケを起こして俺に殴りかかってくる。次いで谷里や中村とかもまた攻撃してきた。こういう頭の悪いイキり不良どもは、とことん痛めつけないと分からへんのかねェ?
 まぁいいや、俺とお前らとの力の差をとことん思い知らせたろ。お前らの下らないプライドや驕り、自信を徹底的に破壊してやろう...!



 そこからは俺がただ理不尽な暴力を振るうばかりだった。

 そして11人全員が、俺が自分らよりも圧倒的に強いと...絶対に勝てない、そう理解したのだった。