感情を失った母と姉は、俺を素通りしてそれぞれ仕事と学校へ行く仕度をして家を出て行った。
 俺とあの二人には、もう本当の意味で何も無くなった。二人の中には無しか広がっていない。何も感じないし何も思わない。
 ただこれまで通りの生活を無感情でするだけの存在となった。クソ母はこれまで通り、俺に食事と学費を提供して、仕事へ向かう。クソ姉もただ学校に通って勉強しるだけのマシーンと化した。

 冷蔵庫を適当に漁って朝食を摂り、昼食代を財布に入れて準備を整えたところで、俺も家を出る。
 空は雲一つない青空。俺にとって幸せな何かが訪れる吉兆すら感じられる。お天道様もこれから俺がやろうとしていることに対するエールを送ってくれてるのかも……なーんて。


 いつ以来や...通学路でこんなに明るい気分になったのは。
 足取りは軽く、顔色も良好。いつもは予鈴ギリギリの時間で登校していたのが、今日はその十分も早く登校していた。

 教室へ入るといつものようにクラスの連中が俺を見やる...が、いつもよりもリアクションが大きかった。あれだけ長い間酷い虐めに遭っていたことと三日休んだことで、俺がついに不登校にでもなったんだと思ってたのか。揃いも揃って面白い面してやがる...。

 俺は自分の席に向かって、足を止めてしまう。自分の机の上には、花瓶が置かれていた。今にも枯れ落ちそうな一本の萎びた花だけ挿されている花瓶だ。
 これがどういう意味なのかは、俺にも分かる。度が過ぎた侮辱行為であることくらい。

 (ハッ...。随分ベタな嫌がらせをしてきたな。これ明日以降もずっと、置いたままになってるんやろーな...)


 無表情で花を手にしたその時、前と後ろから失笑が漏れる音を拾う。前は清水、後ろは小西やったな確か...。取りあえず後ろを振り返り、案の定悪意含んだキモい笑みを浮かべている小西に目を向ける。


 「何やねん、チ〇デカ鼻くそマンw てっきりもう学校来んくなったんやと思ってたわ!自殺でもしてこの世からもいなくなったんやと思ったからさー、優しい俺がお前の机に花供えといたんやけどなー?
 何やふつーに登校して来たわ!ぷははっ!」
 「.........」
 「ああけどその花やけどな、それちゃんとした花やないから。道端で拾ったものやから。誰がお前なんかの為にガチなやつ買うかよ、ボ~~ケぇ!ww」


 ぎゃはははと声を上げて俺を嘲笑う小西に釣られ、清水を始めとするクラスのカースト上位(=イキりども)の連中も、嘲り含んだ笑い声を上げる。
 今一緒になって嗤いやがった連中を確認していく。ガチで嗤ってるクズが5人くらい。小西たちに強制されて嗤ってるモブカスが十数人、関わるまいと無関心を装ってるモブが半数ってところか。
 誰一人として小西らの虐め行為を咎めようとする奴はいない。

 度が過ぎてるな...もう我慢ならんわこれ。


 もう、ここで良いか...。


 始めよう―――


 「......せっかく、昼休みまで待ってやろうって思ってたけど。もうええわ。お前らがそのつもりやゆーんなら、ここで始めることに決めたわ」

 「はぁ?何を始めるってー?鼻く―――」


 スパ......ッ


 「お前らと、この学校全て対する、復讐《処刑》をや――」


 「............え??」
 「「「「「............っ!?」」」」」

 小西を含むクラスの連中全員が、俺を見て絶句していた。全員、俺が素手で真っ二つにした机を凝視している。


 「あーあ!なぁ小西。俺を虐めていたお前を含む主犯連中だけを、いつものあの場所で復讐して殺そうって考えてたんやけど……。
 朝からこんなモン見せつけたり、俺を皆の前で侮辱して嗤いやがるもんやから、俺もつい気が変わってもうたわ...」

 「は......は...?」

 「あとお前らも...。そうやって小西どもに合わせて俺を嗤いやがる...。虐めを止めようとせず無視するどころか、一緒んなって俺を嗤いやがる...。
 お前らにも、容赦も情けをかける余地は無しでええゆーわけやな?そうなんやろ、なァ?」

 「お、おい...」

 「あーあ、ホンマに気が変わったわ!もう始めたるわ!たった今オモロいこと思いついたし、そっちの方がオモロそうやろうし、早速始めたるわっ!!」


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴ......ッ!!


 復讐計画を若干変更することにした俺は、この学校そのものを地盤ごと浮かび上がらせた!
 まるで天空の城のように、校舎を空に浮かばせていく。建物全体に迷彩処置を施しているから、外からは見えていない。外の連中からはいつも通りの中学校が見えてることになっている。こういった便利な魔術とスキルも相変わらずだな!

 「わあああああ!?教室が...いや、学校自体が浮いてるぅ!?」
 「なんやなんやなんやぁ!?何がどうなって...!!」

 非現実的な現象を目にしてパニックを起こす有象無象どもを無視して、俺は舞台を用意する。一瞬で体育館に移動して邪魔な物を消してスペースをいっぱい確保しておく。
 さらに俺が在籍している三年五組の教室だけを校舎から切り離して体育館の隣に設置させる。今回の復讐回の主役は、前回殺して回った虐め主犯の連中と、俺のクラスの奴ら全員や...!VIPを丁重に扱うのは当たり前だよなぁ?

 「お前らはそこでこれから始まる地獄を見てろ。お前らは最後に全員...ぶち殺すから......二人だけ、先に殺すけどな」

 混乱している三年五組の連中にそう予告して教室を閉鎖して監獄化させた。そして舞台の準備が整ったところで、俺は校舎全体に渡って声を届かせる。


 『盾浦東中学校に在籍している生徒および同様の教師どもに告ぐー!ただいまより俺、杉山友聖による特別全校集会を行います。速やかに体育館に、 “集まりやがれ”』
 

 連絡を終えて数分後、規則正しい動きと順番で生徒と教師どもが険しく、苦しそうな顔をして体育館に入ってくる。全員どこか足取りがおかしい。まるで無理矢理動かされているかのような動作となっている。まぁ俺が魔術で強制的にここに連れて来るように細工しておいたんやけどな!
 ここに集まったのは登校している生徒と教師だけではない。

 「「「「「うわあああああああああっ!?」」」」」

 体育館の窓から私服や寝間着姿の中学生どもが入場(?)して来て無理矢理座らせる。
 “この学校に在籍している生徒と教師は全員集合”って言うたから、今日欠席している奴らももちろんここに参加しないとアカンよなぁ?

 訳も分からないまま空飛ばされて無理矢理学校に来させられたもんやから、今来た奴ら全員が酷く狼狽している。好きなだけ騒いどけ、退出は許さんけどな。

 お、窓から入ってきた奴の中に前原や他のイキり不良どもも入ってきた。遅刻かサボりの連中やろな。あいつらだけは絶対に逃がさねー。お前らを残酷に殺す為に開いたショーなんやからな!

 「ちくしょー!外に出られねー!!扉開いてるのに何で出られへんねん!?」
 「何やねんコレ!何で勝手に体育館に移動したんや!?」
 「誰がこんなわけ分からんことを!?何とかしてくれっ!!」

 あちこちから困惑と怒りの声が上がって騒いでいるのを眺めながら、自動に数をカウントする機械を出してここにいる数を確認する。全生徒と全教師を合わせた数になっていれば全員集合なんやけど......おっ、もう揃ってたか!

 ほな......始めますか!最高の復讐回を...!!

 ドン!と館内全域に響くくらいの音が出る程に地面を強く踏み鳴らして、同時に上に向かって銃を発砲する。
 突然の大きな音に騒いでいた連中が全員音がした方へ...俺の方に目を向ける。


 『―――お待たせしましたー!!全員揃ったところで始めましょうかぁ!!
 
 お前ら全員と、この学校全ての処刑をっ!!!』